会社は、労働基準法で決められている労働時間の上限

を超えて社員に働いてもらうためには「36協定届」

という書類を労働基準監督署に提出する必要があります。

36協定届には、

・1日間の残業は、5時間まで。
・1月間の残業は、30時間まで。
・1年間の残業は、200時間まで。

のように、一定の期間ごとに残業ができる時間数

(≒上限時間)を書くことになっています。

本来、この上限時間の範囲内でしか残業させられない

のですが、会社を運営していると、一度に大量の注文が

舞い込んだりすると、ウッカリ上限時間を超えちゃった♪

なんてことがありえます。

ウッカリ36協定を超えて社員を残業をさせてしまったら、

法的にはどんな結果になるのか?を考えてみます。

※ここでは、残業=法定時間外労働とします。

【事例】

●社員数5名のIT企業

●所定労働時間
・1日8時間勤務
・出勤日:月〜金曜日(完全週休2日制。祝日も出勤日)
・1週間の起算日は、月曜日
※2月1日は月曜日だったとする。

●36協定の内容
・1日間の残業は、5時間まで。
・1月間の残業は、30時間まで。
・1年間の残業は、360時間まで。

●2月(1月間がピッタリ4週間)の残業実績
5名全員が毎日3時間ずつ残業した。
⇒1週間の残業時間=3時間×5日間=15時間
⇒1月間の合計残業時間60時間
※休日出勤は一切なし。

結果として、
36協定の1月間の上限時間(30時間)を30時間超過。

会社は、
超過分30時間を含め60時間分の残業代を支払った。

・36協定違反そのものには罰則がない

・残業代をキッチリ支払っていれば、37条にも違反しない

・36協定違反は、32条違反につながる

 

 

【36協定違反そのものには罰則がない】

働き方改革によって、労働基準法第36条にも新たに

罰則が適用されましたが、対象は第6項のみ。

●労働基準法第36条第6項
・健康上特に有害な業務で残業する場合:1日2時間以下
・1月間の残業と休日労働の合計時間:100時間未満
・複数月間の残業と休日労働の平均時間:80時間以下

上記を守れていない場合、

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する

とされています(第119条)。

事例の場合、

IT企業なので、「健康上特に有害な業務」ではなく、

1月間の時間外労働と休日労働の合計時間は60時間

であり、法定上限の100時間未満なので、第36条

第6項のいずれにも違反していないことになります。

実は、労働基準法第36条には、

36協定に違反して、上限時間を超えて残業をさせても、

36協定違反に対する罰則は規定されていないのです!

 

 

【残業代をキッチリ支払っていれば、37条にも違反しない】

労働基準法第37条は、残業代に関する規定です。

残業代を支払っていない場合、36条第6項と同じく

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する

とされています。

36協定の上限時間を超える協定違反の残業に対しても、

会社は信義則に基づき残業代を支払う義務があります。

事例の場合、

36協定違反の残業時間分も含めた60時間分の残業代

をキッチリ支払っているので、37条違反にもなりません。

 

 

【36協定違反は、32条違反につながる】

「そしたら、残業代さえキッチリ支払っておけば、

36協定の上限時間は無視してもいいんじゃね?」

となりそうですが、そうは問屋が卸しません。

36協定違反の残業時間は、法定労働時間を定める

労働基準法第32条に違反することになります。

●労働基準法第32条
・第1項:1週間の労働時間は、40時間まで。
・第2項:1日の労働時間は、8時間まで。

事例の場合、

第2週目の金曜日の残業終了時点で、月間残業時間が

36協定の上限時間である30時間ピッタリとなります。

つまり、

第3週目以降は、一切残業ができないことになるのですが、

これを無視して残業を続けており、毎週40時間を超えて

働くことになるので、毎週第32条第1項に違反している

ことになります。

ちなみに、

残業時間は1日3時間であり、36協定の1日上限の

5時間を超えていないので、第32条第2項には違反

していません。

 

32条違反も、36条や37条と同じ罰則が適用され、

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する

とされています。

ここで興味深いのが、罪数の数え方。

罪数は、各労働者毎に1件の違反につき1罪として数えます。

事例の場合、

第3週と第4週目は、いずれも第32条第1項に違反している

ので、合計2罪となります。

これを5名に行わせているので、合計5名×2罪=10罪が

成立することになります!

併合罪に係る刑法第47条と第48条を踏まえると、事例の場合、

9ヶ月(6ヶ月×1.5)以下の懲役または300万円(30万円×10罪)

以下の罰金に処される可能性があるということになります。

ちなみに、

36協定を労働基準監督署に提出することなく、残業

をさせていた場合は、残業初日から第32条第2項違反

の罪数がカウントされていくので、1月間だけで

5名×28罪=140罪=4,200万円以下の罰金になりますね!

 

 

実際には、

1.労働基準監督官が検察官に送致(≒書類送検)し、
2.検察官が正式起訴または略式命令請求を行い、
3.裁判官が有罪判決又は略式命令を出す。

という手順を経て、はじめて刑罰が確定します。

東京労働局管内における労働基準法違反の検察送致件数が

年間50件以下であるという事実を考慮すると、

相当悪質な事案でない限り、起訴されないでしょう。

とはいえ、犯罪行為であることには変わりありません。

社員と話し合い、届出書1枚を提出するだけでよいので、

社員に残業をお願いするときは、36協定手続きを忘れずに

しましょう!





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