まず、
「通勤」と似て非なるものとして「出張」がありますが、
これらはどのように区別すべきなのでしょうか?


建設業などで現場作業を業とする者の場合、
住居と作業現場が大きく離れており多額の交通費が必要となることがあり、
これに要する費用が通勤手当となると、
報酬額が高額なものとなってしまいます。

社会保険法(厚生年金保険および健康保険)では、
「通勤」と「出張」の定義を明確に示しておりませんが、


●労災保険法第7条第2項

通勤とは、
労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、
合理的な経路及び方法により行うことをいい、
業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復
二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動
三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動


●人事院規則9-24(通勤手当)第2条第1項

「通勤」とは、職員が勤務のため、
その者の住居と勤務官署(官署に支所、分室その他これらに類するものが設置されているときは、
それらに勤務する職員については、それらをもつて勤務官署とする。)
との間を往復することをいう。


●国家公務員等の旅費に関する法律第2条第1項第6号

出張:
職員が公務のため一時その在勤官署(常時勤務する在勤官署のない職員については、その住所又は居所)
を離れて旅行し、又は
職員以外の者が公務のため一時その住所又は居所を離れて旅行することをいう。


●所得税法第9条第1項第4号

次に掲げる所得については、所得税を課さない。

給与所得を有する者が、

@勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をした

A転任に伴う転居のための旅行をした

B就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族が
 これらに伴う転居のための旅行をした場合に、
 その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、
 その旅行について通常必要であると認められるもの




とされていることを考慮すると、
住居から自社の事業所など常時勤務する場所へ移動する費用は
通勤手当と考えられます。

一方、
住居から常時勤務する場所以外へ移動する費用は、
実費弁償的なものとして出張旅費と扱うものと考えるべきでしょう。


それでは、
通勤手当と出張旅費が社会保険法上の報酬に 該当するかどうか?
ですが、


●健康保険法の解釈と運用
(P162)

3ヶ月または6ヶ月毎に支給される通勤手当は、
支給の実態は原則として毎月の通勤に対し支給され、
被保険者の通常の生計費の一部に当てられているのであるから、
報酬と解することが妥当である。(昭和27年12月4日保文発第7241号)


定期券購入費は報酬中に包含される。(昭和31年10月8日保文発第8022号)


定期券を購入して支給することは、被保険者が事業主から受ける利益の一であり、
金銭で支払われるもののほか現物で支払われるものも労働の対償となり得る。
通勤費も生計費中の重要な支出の一であり、
出張旅費の如き実費弁済的ものと異なる。(昭和32年2月21日保文発第1515号)




以上のように、
通勤手当は原則として報酬に該当します。

一方、
出張旅費は、
実質的収入の意義を有しておらず労働の対償ではないため、
報酬には該当しません。


次に疑義照会回答での具体例を見てみます。


●東日本大震災の影響により通勤経路又は通勤手段が変更となった場合に支払われる交通費について
(平成23年6月10日 疑義照会No.2011-207)


【事例】
東日本大震災の影響による計画停電により、
通常の通勤経路により通勤することができなくなったため、
別の通勤経路又は別の通勤手段により通勤することとなった場合に支払われる交通費は
報酬に含めるべきか?


【日本年金機構本部回答】
本事例では、
通常の通勤の経路及び手段以外の方法で通勤した場合の交通費と通勤手当の額を比較し、
当該交通費が通勤手当の額を上回った場合に限り、
差額を支給することとしている。

この差額の支給事由の発生は、
計画停電の実施に伴う不確定で偶発的なものであり、
実費相当額の交通費に基づいて差額を算定していることから、
実費弁償的なものと考えられ、報酬に含まないものとして取扱う。




支給事由の発生が不確定で偶発的なものであり、
職務を遂行するため旅行した場合に支給される費用は、
出張旅費等の実費弁償的なものであると考えられ、
報酬に含まないことになります。


●報酬の範囲について
(平成22年5月7日 疑義照会No.2010-491)


【疑義内容:単身赴任者の自宅への帰宅交通費】

当該帰宅交通費が
給与規則、労働協約、労働契約等によってあらかじめ明確に定められていれば、
事業主は被保険者に対し支払い義務が発生し、被保険者には権利として保障されることから、
単なる任意的、恩恵的なものとは解されないため、当該帰宅交通費は報酬に含むことが妥当である。




この帰宅交通費は実費を支給する規定でしたが、
労働契約等によってあらかじめ明確に定められていれば、
出張旅費とは考えられず、
労働の対償として報酬に該当することになります。


●在宅勤務者における交通費にかかる報酬の取扱いについて
(平成22年12月28日 疑義照会No.2010-1239)


【疑義内容:在宅勤務者が本社出勤に要した交通費】

在宅勤務者で毎月2日程度、本社に出勤することになっている。
本社出勤に要した交通費は報酬となるか?
(会社の給与規程等の定めは無い)


【日本年金機構本部回答】

出張等の旅費は実費弁済として報酬には含めないことになる。
労働契約の内容や報酬の支払等により本社出勤が出張とされるならば、
この交通費は実費弁済となり報酬に含めない。
通勤とされているならば通勤手当として報酬となる。

【ブロック本部回答】

在宅勤務者の主たる勤務地はあくまで自宅であり、
本社に赴く事が常態の勤務地ではないため報酬に含めないものと思料する。




とされています。
機構本部の回答があいまいでハッキリしていませんが、

在宅勤務者が常時勤務する場所は自宅であると考えれば、
月に数回事業所に出勤する行為は、
出張と考えられ、報酬に該当しないことになります。


●報酬の範囲について(車輌の貸与)
(平成22年5月17日 疑義照会(回答)No.2010-453)


【事例:会社のレンタカーを通勤、私用に使用する場合】

事業所より、
特定の車輌を通勤用として貸与されているが、私的利用を認められていること、
また、
車輌のレンタル費用の一部を事業所が負担していることなどから、総合的に判断すると、
給与控除の有無にかかわらず、経常的実質的収入を受けているものと考えるのが妥当である。

したがって、
当該レンタル費用のうち、
事業所の負担分については、報酬として取扱うこととなる。




通勤車両の貸与は、
経常的実質的収入の意義を有しており、労働の対償と考えられるため、
報酬となります。



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