【労基法第13条の基礎知識】

労働基準法第13条
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める
労働契約は、その部分については無効とする。
無効となった部分は、この法律で定める基準による。

 

第13条のキモを簡潔にまとめると、以下のとおり。

・労基法違反の労働契約は、違反部分だけ無効になる。
・無効になった契約部分は、労基法に準じた内容に書き換わる。
・契約当事者の意思に関わらず、強制的に書き換わる。

 

今回のテーマの焦点は、

「1日10時間勤務で日給1万円」という労働契約が、

労基法のルールに違反するかどうか?

違反するとしたらどんな契約に書き換わるか?

ということになります。

 

違反するかどうか?を判断する上で知っておくべき

労基法のルールは以下の3つですが、どれもご存知ですよね?

・1日の労働時間は8時間までだぞ。
・だけど、36協定を届け出れば、8時間超でも大目に見てやる。
・ただし、割増賃金はキッチリと明確に支払えよ。

 

以下では、3つのパターンに分けて、

本件労働契約が有効かどうか?を

検証してみたいと思います。

 

 

 

【36協定を届け出ていない場合】

厚生労働省が公表している統計情報によれば、

36協定を届け出ている企業は、全体の6割程度とされています。

 

36協定を届け出ていない場合、

1日8時間までしか合法的に働くことができませんので、

「1日10時間勤務」部分が違法なので無効となり、

「1日8時間勤務」という労働契約に修正されます。

 

となると次に、

1日8時間勤務で日給はなんぼになるのか?

という問題が生じます。

 

厚生労働省が編集した書籍には、

「一般的に賃金というものは、労働時間の長さを前提として、

これに応じて決められるもの」と記載されています。

 

要するに、

10時間勤務で1万円=1時間勤務で1千円

と解釈すべきというが厚生労働省の見解です。

 

したがって、本事例の労働契約は最終的に

「1日8時間勤務で日給8千円」という労働契約

になります。

 

ちなみに、

違法に10時間働かせてしまった場合、

たとえ2時間分の残業代2,500円(割増含む)を

支払ったとしても、労基法第32条違反となります。

 

 

 

【36協定を届け出ている場合】

36協定を労働基準監督署に届け出ていれば、

8時間を超えて働いても法違反に問われません。

 

ということは、36協定を届け出ていれば、

あらかじめ「1日10時間勤務」と契約しても、

法違反とはならないと考えられます。

 

したがって、

「1日10時間勤務で日給1万円」

という労働契約は有効だと考えられます。

 

ここで問題となるのが、

「10時間勤務で日給1万円」の「1万円」の中に、

割増賃金が含まれているかどうかが明確になっていない

ということ。

 

「ウチの会社は、残業代込みで基本給を決めている。」

のような主張をした場合の裁判例をみると、

基本給と残業代が明確に区別されていない労働契約は

残業代込みを否認される傾向にあります。

 

以上より、本件の労働契約は最終的に

「1日10時間勤務で日給1万円(≒時給1千円)

ただし、割増賃金は含まない。」

という労働契約になり、2時間分の割増賃金500円

を別途支払う必要があると考えられます。

 

 

 

【36協定+割増賃金を明示した場合】

もうお分かりですよね?

 

「1日10時間勤務で日給1万円(時給単価952円)とし、
法定時間外労働に対する2時間分の割増賃金480円を含む。」

という労働契約にしておけば、割増賃金が内数である

ことが明確なので、1万円だけ支払えばOKとなります。

 

ちなみに、

時給単価が最低賃金を下回ることは許されません 。

 

最低賃金法第4条は、

労基法第13条と同様の書き換え規定なので、

時給も強制的に最低賃金額に書き換えられてしまう

ことになります。

 

 

【36協定を届け出ていない場合】のところで、

「1日8時間勤務で日給8千円」になると書きましたが、

これはあくまで、行政としての厚生労働省の見解です。

 

複数の労働法学者の意見や地裁の裁判例では、

時間給であることが明確でない限り、日給額は変更を受けず、

「1日8時間勤務で日給1万円」となるという見解もあり、

時給単価が高くなる可能性もありますのでご注意を。



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