労働基準法
第三十二条の二 使用者は、当該事業場に、
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては
労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、

又は就業規則その他これに準ずるものにより、

一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が
前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、

同条の規定にかかわらず、その定めにより、

特定された週において同項の労働時間
又は特定された日において同条第二項の労働時間
を超えて、労働させることができる。



(休日)
第三十五条 使用者は、労働者に対して、
毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

○2 前項の規定は、
四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については
適用しない。


上記の規定を踏まえると
その意味するところは、

・労使協定または就業規則において、
・1ヶ月以内の任意の一定期間を特定し、
・1週間当たりの労働時間が40時間を超えなければ、
・1週40時間を超え、1日8時間を超えて働かせることができ、
・1週1回の休日でなくとも、4週4日の休日を与えればよい。

ということになります。

【事例】
@就業規則に以下を規定する。
A1期間を4週間(=28日間)とする。
B勤務日は、第1日目から第8日目までの連続8日間とする。
C休日は、第9日目から第28日目までの連続20日間とする。
D始業時刻:午前3時、終業時刻:午後24時、休憩1時間とする。
E36協定は存在しない。

事例の1ヶ月間単位の変形労働時間制について
労働法的に何か問題があるか?
検証してみましょう。

 

@について
1ヶ月間単位の変形労働時間制は、
労使協定または就業規則のいずれか
において規定すればOKです。

就業規則は、
会社が社員代表の意見を聴取した事実があれば、
ある意味独断で規定することが可能なので、
1ヶ月間単位の変形労働時間制も
会社が勝手に規定可能ということになります。

 

Aについて
1ヶ月間単位の変形労働時間制は、
正確には、1ヶ月「以内」単位なので、
その期間は、3日間だけでも2週間だけでもOKです。

したがって、
4週間単位の変形労働時間制も問題ありません。

 

B、Cについて
連続8日間勤務であり、
週1回の休日は確保できていませんが、
9日目以降は20日間連続休日であり、
4週4日を大幅に超えており、何ら問題ありません。

 

D、Eについて
始業時刻:午前3時、終業時刻:午後24時、休憩1時間
ということは、
1日の所定労働時間は実に20時間に及びますが、
1日の上限時間規制は存在せず、
休憩時間も1時間与えていることから、
1日の法定労働時間規制に反していないと言えます。

この4週間の総労働時間は8日間×20時間=160時間ですが、
これは1週間当たりの法定労働時間とピッタリ同じであり、
1週間の法定労働時間規制にも反していないと言えます。

法定労働時間を1秒たりとも超えていないので、
36協定ももちろん不要です。

したがって、
連続8日間に毎日20時間働かせたとしても、
時間外労働や休日労働に係る割増賃金は、
1円も支払う必要がありません。


使用者は、
「休憩時間を除き一週間当たり40時間を超えて労働させた場合
におけるその超えた時間が一月当たり80時間を超え、
かつ、疲労の蓄積が認められる者」に対して
医師による面接指導を行わなければならない。
と労働安全衛生法に規定されています。

1ヶ月の総労働時間数−(計算期間である1ヶ月間の総歴日数/7日)×40時間
が80時間を超えるかどうか?で判定します。

※1ヶ月の総労働時間数
=労働時間数(所定労働時間)+延長時間数(時間外労働時間数)+休日労働時間数

事例の場合、
1週間の労働時間が7時間×20時間=140時間となるため、
一見、医師の面接指導の対象になるように思えますが、

法の趣旨を踏まえ、4週間に換算して考えてみると、
4週間の総労働時間数は、所定労働時間の160時間のみなので、
計算式:160時間−(28日/7日)×40時間=0時間となり、

医師の面接指導は不要ということになります。


働き方改革法では、
いわゆる「勤務間インターバル」制度の導入を努力義務化しましたが、
努力義務なので強制的な拘束力はないため、
事例のように勤務間インターバルがたったの3時間だけでも
現行法では取り締まれません。

 

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
(事業主等の責務)
第二条 事業主は、
その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、
業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、
健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、
年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。


ただし、
事例のような労働環境下で、
脳血管疾患、虚血性心疾患または精神障害等を発症した場合、
業務との相当因果関係が疑われ、労災事故が疑われます。

労災認定時の時間外労働とは、
「1週間当たり40時間を超える労働のこと」
をいい、あくまで、
1週間の総労働時間が40時間を超えているかどうか?
で「時間外かどうか?」を判断します。

事例の場合、
1週間の総労働時間が40時間を超えている時間は、
140時間−40時間=100時間になりますので、
長時間労働に起因する労災であると是認される可能性が
非常に高くなると思われます。


また、
労働契約法において、
使用者の安全配慮義務として、
以下のとおり規定されています。

 

労働契約法
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者が
その生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、
必要な配慮をするものとする。


労働契約法に反しているかどうかは、
厳密には裁判所でなければ判断できませんが、
事例のような連続8日間かつ1日20時間労働が、
社会通念上、許されるはずがありません。


以上をまとめると、
事例のような1ヶ月間単位の変形労働時間制は、

労働基準法を順守しており、
労働法的には明確に違法ではなく、
医師の面接指導も不要であるが、
社員が体調を崩した場合は、労災事故が色濃く疑われ、
民事で訴えられたら、ほとんど勝ち目なし。

労働基準監督署からも目を付けられ、
間違いなく指導票が発行されるでしょう。

そもそも、
こんな抜け道を許容する現行の労働法制には、
大きな問題・不備があると断言します!



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