繁忙期などに徹夜をすることがありますが、
このような「二暦日に及ぶ労働」をした場合、
労働時間管理や割増賃金をどのように取り扱うか?
という問題があります。

「二暦日に及ぶ労働」については、
下記の通達を基本に考えていくことになります。

 

【法定労働時間】
一日とは、
午前〇時から午後一二時までのいわゆる暦日をいうものであり、
継続勤務が二暦日にわたる場合には、
たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、
当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、
当該日の「一日」の労働とするものであること。
(昭和63年1月1日 基発第1号)


【具体的事例】
●始業時刻8:00、終業時刻17:00⇒1日8時間労働
●休憩時間12:00〜13:00
●36協定の法定休日労働の始業・終業時刻は、所定労働日と同一
という労働条件下において、

●8:00に始業し、翌日の12:00に終業
●翌日の2:00〜4:00の2時間は事務所のソファーで仮眠
したときを想定し、

下表の12パターンのように
1暦日目と2暦日目が、
それぞれ労働日、所定休日および法定休日だった場合
について考えてみます。


パターン 1暦日目 2暦日目
@ 労働日 労働日
A 所定休日(始業時刻の定め無し)
B 所定休日(始業時刻の定め有り)
C 法定休日
D 所定休日 労働日
E 所定休日(始業時刻の定め無し)
F 所定休日(始業時刻の定め有り)
G 法定休日
H 法定休日 労働日
I 所定休日(始業時刻の定め無し)
J 所定休日(始業時刻の定め有り)
K 法定休日








※赤は1暦日目から始まる一勤務の範囲を示し、
緑は2暦日目の勤務範囲を示します。

※「時刻」については、たとえば、「8」は、
8:00〜9:00を意味します。

※「1週法定時間外」は、その週の労働時間の合計が
1週間の法定労働時間である40時間を超えている場合です。



●2時間の仮眠時間は、継続勤務中断の要素となり得るか?

前日の時間外労働が翌日に及んだ後途中に睡眠時間が入るような場合に、
睡眠後の労働について継続勤務とみるべきか否かは、
睡眠時間の長さ、その態様等を考慮し、
それが労働時間の一時的中断であるか、
睡眠後新たな勤務が始まったのかを判断すべきものである。
(厚生労働省労働基準局編(2011)『労働基準法』株式会社労務行政P397)


事例では、
「2:00〜4:00の2時間に事務所のソファーで仮眠」
したことになっています。

一般的な睡眠時間が7時間程度と社会で認識されていること、
事務所のソファーで仮眠は、労働から解放されているとは言い難いこと
を考慮すると、
事例の仮眠は、労働時間の一時的中断でしかなく、
「継続勤務中断の要素となり得ない。」と解釈すべきと考えます。

 

●2暦日目の8時に、継続勤務が終了している理由

【時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合の割増賃金】

翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、
法第37条の割増賃金を支払えば、法第37条の違反にならない。
(平成11年3月31日 基発第168号)


上記の通達は非常に重要なものですが、
文面を厳密に解釈すると、
「2暦日目の始業時刻までの超過時間に対して、割増賃金を支払えば」
「法第37条の違反にならない。」だけで、
「2暦日目の始業時刻以降も1暦日目からの勤務が継続し続け、時間外労働となる。」
と解釈することも可能です。

しかし、
法第37条の条文そのものを読むと、
「時間外労働については、(例外なく)割増賃金を支払わなければならない。」
と解釈すべきと考えられます。
したがって、
ここでは、「時間外労働の継続は最長でも翌日の始業時刻まで」とします。

 

労働基準法
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、
第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、
又は休日に労働させた場合においては、
その時間又はその日の労働については、
通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の
二割五分以上五割以下の範囲内で
それぞれ政令で定める率以上の率で計算した
割増賃金を支払わなければならない。

 

 




所定休日は、
労働契約上では労働義務のない日なので
本来的には、始業時刻も存在するはずがありません。

「業務の都合によって、会社は所定休日に勤務を命じることができる。」
旨を労働契約に定めていれば、
労働者は出勤する必要が生じるでしょう。

しかし、
所定休日出勤を規定していてもその多くは、
始業時刻や終業時刻まで明示していることは稀であると思います。

このパターンAのように、
2暦日目が所定休日であり、
所定休日の始業時刻を明示していない場合、
「翌日の所定労働時間の始期」が存在しない・不明確なことになります。

ということは、
2暦日目の所定休日の労働時間すべてが
1暦日目の継続勤務であると評価される可能性があり、
時間外割増賃金の支払い義務が発生すると考えます。

なお、
36協定には、
「労働させることができる休日並びに始業及び終業の時刻」
を記載する欄がありますが、
36協定書の休日は法定休日なので、所定休日は含まれません。

 

 




就業規則等により
所定休日の始業時刻を8時と定めていれば、
パターンAのように時間外労働が続くことはなく、
パターン@と同様に翌日の所定休日の始業時刻をもって継続勤務が終了
という取り扱いをすべきと考えます。

 

 




【法定休日における割増賃金の考え方について】

一 暦日休日の場合の休日労働及び時間外労働の取り扱い
@ 休日労働となる部分の考え方
法定休日である日の午前0時から午後12時までの時間帯
に労働した部分が休日労働となる。
したがって、
法定休日の前日の勤務が延長されて法定休日に及んだ場合
及び法定休日の勤務が延長されて翌日に及んだ場合
のいずれの場合においても、
法定休日の日の午前0時から午後12時までの時間帯
に労働した部分が3割5分以上の割増賃金の支払を要する休日労働となる。

A 時間外労働となる部分の考え方
@休日労働と判断された時間を除いて、
それ以外の時間について
法定労働時間を超える部分が時間外労働となる。
この場合、
一日及び一週間の労働時間の算定に当たっては、
労働時間が二暦日にわたる勤務については
勤務の開始時間が属する日の勤務として取り扱う。
(平成6年5月31日 基発第331号)


【八時間を超える休日労働の割増賃金】

協定において休日の労働時間を8時間と定めた場合
割増賃金については8時間を超えても
深夜業に該当しない限り3割5分増で差支えない。
(平成11年3月31日 基発第168号)


上記2つの通達を解釈すると、
法定休日の労働はすべからく休日労働であり、
法定休日には、法定(内)労働も法定外労働も存在しない
と言えます。

したがって、
事例の場合は、
2暦日目の0:00をもって時間外労働は強制的に終了し、
休日労働が始まります。
また、
休日労働に上限時間の規制はなく、
1日8時間を超えようが時間外労働になることもなく、
相変わらず「休日労働」でしかありません。

 

 



所定休日に労働した場合、
その日はもはや所定休日ではなく、
労働日であると評価できます。

したがって、
1暦日目が所定休日であるパターンD〜Gは、
1暦日目が労働日であるパターン@〜Cとまったく同じ
ということになります。

 

 




【休日を含む二暦日にまたがる労働の割増賃金】

問:
休日の午後10時より翌日午前9時まで労働し(午前2時より休憩1時間)
以後休務した場合の割増賃金はどう計算すべきか。

答:
(1)休日の午後10時より2時間は深夜の休日労働であるから
6割の割増賃金(深夜+休日労働)を支給しなければならない。

(2)翌日の午前0時より午前9時迄の労働が
時間外労働の協定又は第33条によって行われた場合は、
午前5時までは5割(深夜+時間外)、
午前5時から午前9時までは2割5分(時間外)
の割増賃金を支払わなければならない。

(3)午前0時より午前9時までが
労働日の所定労働時間又はその変更したものであるならば
午前0時より午前5時までは2割5分(深夜)の割増賃金の支給を要し、
以後は、通常の賃金を支払えば足りる。
(昭和23年11月9日 基収2968号、平成6年3月31日 基発第181号)


上記通達の(2)の「時間外労働」は、
翌日の法定労働時間の起算時刻が
2暦日目の0:00であると考えられるため、
1日の法定労働時間外にはなり得ないので、
1週間の法定労働時間外しかあり得ないことになります。

したがって、
事例の場合、
休日労働は、2暦日目が始まる0:00に強制的に終了し、
2暦日目の労働のうち、
1日8時間を経過した10時以降の労働に対して
割増賃金が発生することになります。

 

 




この場合、
所定休日の始業時刻の定めの有無に関係なく、
休日労働は、2暦日目が始まる0:00に強制的に終了し、
同時に2暦日目は所定休日から労働日に転化することになります。

したがって、
パターンIおよびJは、パターンHと同様の結果となると考えます。

 

 




法定休日が連続することがあり得るか?
疑問に思われるかもしれませんが、
法定休日は「四週間を通じ四日以上の休日」でも良いので、
たとえば、
24日連続で労働し、最後の4日間連続で法定休日を与える
場合でも合法になります。

 

労働基準法
(休日)
第三十五条 使用者は、労働者に対して、
毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
○2 前項の規定は、
四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。


【時間外労働が継続して翌日の所定労働時間に及んだ場合の割増賃金】
翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、
法第37条の割増賃金を支払えば、法第37条の違反にならない。
(平成11年3月31日 基発第168号)


上記の通達は、
「時間外労働が継続して」翌日の所定労働時間に及んだ場合なので、
「休日労働が継続した」場合はまったく適用されません。

したがって、
36協定に「労働させることができる休日並びに始業及び終業の時刻」
を記載してあり、その始業時刻になったとしても
継続勤務が中断することはありません。

ただし、
そもそも法定休日の労働はすべて休日労働であり、
割増賃金率も同一となるため、
継続勤務かどうかはあまり重要ではないかもしれません。

 

 

以上の検証結果から得られる教訓は、
以下の2点であると考えます。

@2暦日に労働が及んだ場合に想定し得る最長の労働時間は、
0時に始業し、翌日の始業時刻までの場合であると考えられる。
始業時刻が8時の場合は、
1暦日目24時間−1暦日目の法定労働時間8時間−休憩時間1時間=15時間と
2暦日目の0時〜始業時刻8時=8時間を合算した、23時間が最長となる。
したがって、
36協定の1日の延長することができる時間は、
最大で23時間と記載し得ることになる。

A時間外労働が翌日の所定休日に及んだ場合に
始業時刻で継続勤務が終了するようにするためには、
あらかじめ就業規則等に所定休日の始業時刻を明示しておくべきである。

 

ちなみに、
2暦日に及ぶ労働は想定されていますが
3暦日に及ぶ労働までは想定外らしく、
まったくルールなしの無法地帯と言えます。



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