36協定を超えて残業させた場合は、

労働基準法第32条に違反することになり、

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

が科せられる可能性が生じます。

●労働基準法第32条
・第1項:1週間の労働時間は、40時間まで。
・第2項:1日の労働時間は、8時間まで。

 

下記事例の場合、どのような結果になるか?

考えてみましょう。

 

※ここでは、残業=法定時間外労働とします。

 

 

 

【事例】

●社員数5名のIT企業

●所定労働時間
・1日8時間勤務
・出勤日:月〜金曜日(完全週休2日制。祝日も出勤日)
・1週間の起算日は、月曜日
※2月1日は月曜日だったとする。

●36協定の内容
・1日間の残業は、5時間まで。
・1月間の残業は、30時間まで。
・1年間の残業は、360時間まで。

●2月(1月間がピッタリ4週間)の残業実績
・5名全員が毎日3時間ずつ残業した。
⇒1週間の残業時間=3時間×5日間=15時間
・4週目の土曜日に5名全員が所定休日出勤し、10時間働いた。
⇒1月間の合計残業時間70時間

 

結果として、
36協定の1月間の上限時間(30時間)を40時間超過。

会社は、
超過した40時間分を含め70時間分の残業代を支払っており、
労働基準法第37条違反の問題は生じないものとする。

 

 

 

【32条違反は、労働者ごとに1日につき1罪】

32条に違反した場合の罪数の数え方には諸説あり、

1.労働者ごとに1日につき1罪とみる
2.労働者の数を問わず1日につき1罪とみる
3.違反の日数を問わず労働者1人につき1罪とみる
4.労働者数および違反の日数を問わず包括1罪とみる

が考えられますが、泣く子も黙る最高裁判所は、

1.の立場を取っているので、ここでも最高裁の

考えを採用することとします。

 

 

 

【1項と2項に同時に違反すると2罪になる?】

32条第1項は1週40時間まで、第2項は1日8時間まで

と労働時間を規制しています。

 

ある日の労働時間が、1日8時間を超えかつ週40時間

も超える場合がありますが、合わせて2罪になる

のでしょうか?

 

32条違反に対する罰則は、第119条に規定されおり、

「次の各号の一に該当する者は、

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する。

一 第3条、・・・第32条・・・の規定に違反した者」

となっています。

 

「各号の一に該当する」とは、

「各号のいずれかに該当する」という程度の意味

です。

 

昭和22年の立法当時における第32条第1項の条文は、

「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一日について
八時間、一週間について四十八時間を超えて、労働
させてはならない。」

となっており、1日と1週が同じ項に規定されていました。

 

これが、

「労働時間の規制は、1週間単位の規制が基本である!」

という考えのもと、昭和62年に1項と2項に分割する

法改正が行われ、現行の32条の条文になっています。

 

1項違反で1罪、2項違反でも1罪、合わせて2罪

とするのであれば、昭和62年の第32条改正と同時に

第119条も「第32条」⇒「第32条第1項および同条第2項」

と明確に分けるべきですが、第119条は変更なし。

 

そうである以上、

32条第1項と第2項に同時に違反した場合でも、

2罪にはならず、全体として32条違反となります。

 

 

 

【36協定を超える残業はすべて32条違反】

36協定は、その協定の範囲内で残業をする限りは、

罰則を科されませんが、範囲外の残業は当然NGです。

 

36協定届には、

・1日間の残業は、5時間まで。
・1月間の残業は、30時間まで。
・1年間の残業は、200時間まで。

のように、1日間、1月間および1年間に残業が

できる時間数(≒上限時間)を書く必要があります。

 

ある日の残業時間が、1日の上限時間以下であった

としても、その月の残業時間の合計が月の上限時間を

超えてしまっているのであれば、その残業は32条違反

と考えるべきです。

 

 

 

【事例検証】

事例の場合、

第2週目の金曜日の残業終了時点で、月間残業時間が

36協定の上限時間である30時間ピッタリとなります。

 

つまり、

第3週目以降は、一切残業ができないことになるのですが、

これを無視して残業を続けており、毎日8時間を超えて

3時間残業しているので、日々第32条第2項に違反している

ことになります。

 

したがって、

第3週目の罪数は、5人×5日=25罪となります。

 

第4週目は、平日の3時間の違法残業に加え、土曜日

も10時間働いており、第2項違反と同時に第1項にも

違反していますが、土曜日は1罪として取り扱います。

 

したがって、

第4週目の罪数は、5人×6日=30罪となります。

 

以上より、本件事例の場合、

併合罪に係る刑法第47条と第48条を踏まえると、

9ヶ月(6ヶ月×1.5)以下の懲役または1,650万円(30万円×55罪)

以下の罰金に処される可能性があるということになります。



トップページへ戻る。