サラリーマンの夫を持つ女性が新たに働こうとする場合、

「扶養の範囲内で働くべきか?」について少なからず

検討されるのではないでしょうか?

 

インターネットで「扶養の範囲内で働く」と検索すると、

「年収103万円、106万円、130万円および150万円

に壁がある。」という結果が表示されると思います。

 

これらの壁を超えるかどうかの判定が簡単なようで、

実は結構面倒くさいのです。

 

ここでは、下記の事例を元にこの4つの壁について

検証してみたいと思います。

 

 

 

【事例】

税金と社会保険料をなるべく負担したくないA子さん。

A子さんは今年1月からパートタイマーで働くことになり、
労働条件は以下のとおりでした。

・毎週4日、1日5時間勤務(=毎週20時間勤務)
・月に10時間程度の残業が発生する見込み。

・基本給:時給1,000円(※最低賃金以上)
・残業手当:時給1,250円(1,000円×1.25)
・通勤手当:月5,000円(※非課税限度額の範囲内)
・賞与:年2回支給。実績では1回あたり4万円程度。

 

A子さんが1年間働いた結果、年収は129万円となり、
内訳は以下のとおりでした。

・基本給:100万円
・残業手当:15万円
・通勤手当:6万円
・賞与:8万円

 

その他の特記事項としては以下のとおりです。

・雇用保険料を年間1万円負担したものと仮定。
・イデコに加入し、毎月2万円(年24万円)の掛金を支出。

※イデコとは、個人の責任で掛金を積み立て老後に備える
「個人型確定拠出年金」の略称です。

 

●第一の壁:103万円

●第二の壁:106万円

●第三の壁:130万円

●第四の壁:150万円

 

 

 

【第一の壁:103万円】

103万円は、A子さん自身が所得税を支払うかどうか?

の壁となります。

 

所得税法には、「給与所得控除」というルールがあり、

年収からこの控除額を引いた金額が所得金額になります。

 

給与所得控除額は、給与収入が年162.5万円以下の場合、

55万円です。

 

また所得税は、所得金額から社会保険料や生命保険料

等の「生きるために必要であろう費用」を控除できる

ルールがあります。

 

「基礎控除」もその1つで、年収が2,400万円以下の

場合、48万円です。

 

つまり、103万円の壁とは、所得金額が、

給与所得控除額55万円+基礎控除48万円を超えると

所得税を負担しなければならなくなるという壁なのです!

 

●A子さんの場合

A子さんの年収は総額で129万円ですが、通勤手当の

6万円は非課税のため、所得税法上の年収は123万円

となります。

 

したがって、A子さんの所得金額は、

年収123万円−給与所得控除55万円=68万円

となります。

 

A子さんは、以下の金額を所得金額から控除できます。

・基礎控除:48万円
・社会保険料控除:雇用保険料の1万円
・小規模企業共済等掛金控除:イデコの24万円
⇒合計:73万円

 

したがって、

A子さんの所得税の課税対象となる金額は、

所得金額68万円−諸控除額73万円=マイナス5万円

となり、A子さんは所得税を負担する必要がない

ことになります。

 

実は、住民税の場合、基礎控除額が43万円なので、

給与所得控除55万円+基礎控除43万円=98万円

すなわち、年間給与所得金額が98万円を超えると、

所得税はゼロ円だけど、税率10%の住民税は負担する

という、98万円の壁も存在します。

 

 

 

【第二の壁:106万円】

106万円は、A子さんが勤める会社が社会保険の

特定適用事業所に該当する場合、A子さん自身が

社会保険に加入するかどうか?の壁となります。

 

特定適用事業所とは、70歳未満の厚生年金保険の

被保険者数が501人以上の会社をいいます。

※令和4年10月以降は101人以上、
令和6年10月以降は51人以上にハードルが下がる。

 

特定適用事業所で、週20時間以上働き、月に8.8万円

以上のお給料が見込まれる場合、社会保険に加入します。

 

つまり、106万円の壁とは、

8.8万円×12ヶ月=年間105.6万円以上のお給料だと

社会保険に加入しなければならなくなるという壁

なのです!

 

106万円の壁を判定する際は以下の2点に注意が

必要です。

・実際に年間105.6万円以上のお給料になったか?
という「結果」で判断するのではなく、お給料が
月額8.8万円以上見込まれる労働条件で働くか?
という「予定・見込み」で判断する。

・お給料のすべてが判定対象となるわけではなく、
賞与、残業代、通勤手当、家族手当、精皆勤手当
および臨時に支払われる賃金等は対象外である。

 

●A子さんの場合

A子さんの年収は結果として129万円となりましたが、

106万円の壁の判定には、結果は関係ありません(原則)。

 

「予定・見込み」である労働条件にて判定します。

 

A子さんの労働条件を再確認してみましょう。

・毎週4日、1日5時間勤務(=毎週20時間勤務)
・月に10時間程度の残業が発生する見込み。

・基本給:時給1,000円(※最低賃金以上)
・残業手当:時給1,250円(1,000円×1.25)
・通勤手当:月5,000円(※非課税限度額の範囲内)
・賞与:年2回支給。実績では1回あたり4万円程度。

 

お給料のうち、残業手当と通勤手当と賞与は、判定

対象外の賃金であるため、基本給だけで月8.8万円

以上か?で判定すればよいことになります。

 

A子さんの基本給は、週20時間勤務で時給1,000円

なので、1週間当たり2万円ということになります。

 

1週間当たりの額を月額に換算するには、1年間=

52週分の金額を12ヶ月で割ればよいので、

月額=(2万円×52週)÷12ヶ月=86,667円となり、

8.8万円未満ということになります。

 

したがって、A子さんは、今後会社が特定適用事業所

に該当することになっても、社会保険には加入しない

(加入できない)ことになります。

 

ちなみに、A子さんの勤める会社が東京都内にある場合、

時給1,000円では最低賃金(1,041円)未満になります。

 

そこで、A子さんの時給を1,050円に昇給した場合、

月額=(21,000円×52週)÷12ヶ月=91,000円となり、

8.8万円以上なので社会保険加入となります。

 

ここで面白いのが、いったん加入するとなると、

8.8万円判定時には対象外であった残業手当(見込み額)

と通勤手当を加算して社会保険料を算定するということ。

 

A子さんの場合、

・基本給月額:91,000円
・10時間分の残業手当:13,125円
・通勤手当:月5,000円
⇒合計109,125円を基準に社会保険料が算定されます。

 

 

 

【第三の壁:130万円】

130万円は、A子さんが夫の社会保険の被扶養配偶者

となれるかどうか?の壁となります。

 

厚生年金保険には「被扶養配偶者」、

健康保険には「被扶養者」という制度があります。

 

一定程度未満の収入しかなくかつ自分自身で会社の

社会保険に加入していない者(一般的に妻)は、

会社の社会保険に加入している配偶者(一般的に夫)

の被扶養(配偶)者になることができ、社会保険料

を負担する必要がなくなります。

 

「一定程度未満の収入」には、原則として以下の2つ

の条件があります。

・自分の年収が、社会保険に加入している配偶者の
年収の2分の1未満であること(同居が前提条件)。

・自分の年収が、130万円(60歳以上の場合180万円)
未満であること。

 

つまり、130万円の壁とは、

お給料収入が年間130万円以上だと、被扶養(配偶)者

になることができず、国民年金や国民健康保険に加入し、

自分で各保険料を負担しなければならなくなるという壁

なのです!

 

130万円の壁を判定する際は以下の2点に注意が

必要です。

・所得税の給与所得控除のようなルールが存在しない。

・配偶者が加入する健康保険制度によって、年収の
判定方法が微妙に異なる場合がある。

 

●A子さんの場合

A子さんの夫が「協会けんぽ」という健康保険制度に

加入していると仮定します。

 

協会けんぽでは、

「年間収入とは、過去における収入のことではなく、

扶養に該当する時点及び、認定された日以降の年間

の見込みの収入額のことをいいます。」としています。

 

A子さんの年収実績は総額で129万円であり、今後も

同じ労働条件で働くとすれば、年間の見込みの収入額

は130万円未満であるといえます。

 

したがって、A子さんは、夫の被扶養配偶者である

ということになり、保険料負担免除の恩恵に与る

ことができることになります。

 

 

 

【第四の壁:150万円】

150万円は、A子さんの夫の所得税額を算出する際に

配偶者特別控除を受けられるかどうか?の壁となります。

 

第一の壁を説明する際に、所得税法には、「生きる

ために必要であろう費用」を控除して所得税額を決定

するとお話しました。

 

所得が少ない配偶者(一般的に妻)がいる場合、

その相手(一般的には夫)は、配偶者の生活費も

稼がなければなりません。

 

このような場合に、「夫の所得税算出時には妻の

生活費分を控除して計算してよし。」というルール

があり、これを配偶者(特別)控除といいます。

 

配偶者控除は、配偶者の年間所得金額が48万円以下

である必要があり、控除額は一律38万円です。

 

配偶者『特別』控除は、配偶者の年間所得金額が

48万円超133万円以下である場合に適用され、

控除額は38万円〜1万円まで、所得と反比例の関係

にあります。

 

たとえば、配偶者の所得金額が48万円超95万円以下

の場合、配偶者特別控除額は、最大の38万円となり、

配偶者控除とピッタリ同額となります。

 

つまり、150万円の壁とは、自分の年間所得金額が、

自分の給与所得控除額55万円+95万円を超えると

配偶者の所得税計算時に控除できる配偶者特別控除額

が減ってしまうという壁なのです!

 

150万円の壁を判定する際は以下の2点に注意が

必要です。

・103万の壁を超えていなくても、自分の年間所得
金額が48万円を超えれば、配偶者控除ではなくなる。 

・配偶者が年間所得900万円を超える高給取りだと、
配偶者(特別)控除額が少なくなり、1,000万円を
超えるとルールの対象外となる。

 

●A子さんの場合

A子さんの所得金額は、第一の壁で計算したとおり、

年収123万円−給与所得控除55万円=68万円

でしたよね。

 

したがって、所得金額が48万円を超えているため、

A子さんの夫は、配偶者控除の恩恵を受けることが

できません。

 

しかし、所得金額が95万円を超えていないため、

夫が高給取り(年間所得900万円超)でなければ、

配偶者特別控除として、38万円を所得から控除して

所得税を計算してもらえることになります。

 

 

 

損得の考え方や家族の状況は人それぞれなので、

「これが最もお得な働き方なのでオススメです!」

と他人が的確に提案することはほぼ不可能ですが、

働き方を考える上で参考になれば幸いです。



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