【事例】
問:Dさんの働き方は、労働法令に違反するか?
倫理的な議論はさておき、 理論的に残業時間の上限について考えてみたいと思います。
【基礎知識その1:残業にまつわる様々なルール】 社員が法定労働時間を超えて残業しても、 労働基準監督官に怒られないようにするためには、 以下の様々なルールを知らなくてはなりません。
・36協定に書ける法定労働時間を超える残業時間は ・36協定の特別ルールとして、残業時間と法定休日労働時間 ・D特別ルールBを適用する際、@の月間45時間を超えられる ・Eいかなる場合であっても、1月間の残業と ・F残業と法定休日労働時間の合計が複数月平均で ・G週40時間を超える労働時間が、月に80時間を超える場合、 ・H法定労働時間を超える残業には、25%の割増賃金を払え。 ・I月60時間を超える残業時間の割増賃金は、50%に倍増だ!
【基礎知識その2:複数事業場での労働時間の通算】 労働法は、基本的に「事業」単位で適用されます。
つまり、残業時間など労働時間の管理も基本的には、 事業単位で管理することになります。
副業・兼業が叫ばれる昨今、複数の仕事を掛け持ちする 労働者も珍しくなくなりましたが、異なる事業場での 労働時間が通算されないのは、労働者保護に欠けるため、 労働基準法第38条において、下記のとおり規定し、 副業・兼業による長時間労働を規制しています。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
【労働時間が通算されないルールが存在する!】 平成31年4月に厚生労働省労働基準局が公表した 「改正労働基準法に関するQ&A」2−7において、 以下の趣旨の問答が掲載されています(超要約してます!)。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜 《問》
《答》 これに対して、時間外労働と休日労働の合計で、 〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
このQ&Aを考慮すると、冒頭の残業にまつわる @からIまでのルールのうち、36協定の内容を規制する @からDは、特定の労働者が転勤した場合は通算しない と解釈できそうです。
【Dさんの事例を検証してみる】 1.B工場とC工場は、それぞれ別個の事業場と取り扱われている。 2.B工場およびC工場において、残業時間と法定休日労働 3.Dさんは毎月転勤を繰り返しているものとする。 と仮定した場合、Dさんの働き方は合法なのでしょうか?
ルール別に検証してみます。
@、A:36協定の特別ルールB、Cを適用しているので無視。 B:Dさんの残業時間はB工場およびC工場ともに月80時間 C:Dさんの残業時間は合計で年間960時間もあるが、 D:Dさんは毎月45時間を超える残業を行っているが、 E、FおよびGは、毎月80時間なので、ギリギリOK。 Hは、毎月60時間は、25%の割増賃金を支払えばOK。 Iは、毎月20時間は、50%の割増賃金を支払えばOK。
結果、屁理屈かもしれませんが、 Dさんの働き方は、労働法令に明確に違反してはいない。 と言えそうです。
今回言いたかったのは、 事業の区分け、単位を軽く考えるべきではないということ。
事業の単位を軽く考えている労働基準監督官が見受けられますが、 事業の単位によって、労働法の適用が変化することを考えると 事業の単位は、企業経営上とても重要な事項だと思うのです。
とはいえ、 事業の単位は、経営者や労働基準監督官の都合で 決められるものではなく、事実に基づき客観的に 定まるものだというところが、悩ましいのですが・・・。 |