就業規則を変更したり、36協定を締結する際には、

社員の過半数の信任を得た代表者と話し合いをする

必要があります。

 

この代表者の選出方法が不適切であることを理由に

就業規則や36協定などの労使協定の効力を否定する

判決が出ており、適切な方法で代表者を選出することの

重要性が増しています。

 

選出方法のキモは、会社の意向に従って選出する

のではなく、社員が自由に民主的に選出すること

と言えます。

 

それでは、

社員が自由に民主的によく考えずに選出した結果、

とんでもない過半数代表者を選出してしまい、

「残業代を3倍にしてくれないと、36協定しない。」

のような要求を突き付けてきた場合、どうなるでしょう?

 

協定締結が暗礁に乗り上げ、36協定が失効してしまい、

「会社も社員も残業したいのに、残業できない。」

という非常事態が生じかねません。

 

今回は、

過半数代表者が暴走することを防止する方法について

考えてみたいと思います。

 

 

【過半数代表者には2種類ある】

就業規則を変更したり、いわゆる36協定を届け出たり

する場合、会社は自分勝手に行動することができず、

必ず社員の代表者と話し合いをする必要があります。

 

この代表者ですが、

社員の過半数が所属する労働組合がある場合は、

その労働組合と話し合いをします。

 

労働組合はあるけど、加入者が過半数に満たない場合や

多くの中小企業のようにそもそも労働組合がない場合は、

社員が自由に民主的に選出した代表者と話し合うことになります。

 

 

【労働組合であれば、代表者の暴走はほぼ起こらない】

過半数労働組合が労使協定の交渉当事者である場合、

一般的には労働組合の長(=執行委員長)が労働者

を代表しての署名捺印を行います。

 

労働組合が労使協定の交渉をする際には、

会社と交渉する前に組合内で妥結点を事前に話し合い、

交渉の場には複数名が出席し、代表者のみの単独参加は

一般的には考えられないそうです。

 

また、

・役員は組合員の投票により選出されること。
・毎年1回以上、総会を行うこと。
・定例の総会の他、臨時の総会開催が可能であること。

を規約に規定している労働組合がほとんどであることから、

暴走が目に余る代表者は総会で解任される可能性があります。

 

したがって、

労働組合が労使協定の交渉当事者である場合、

代表者個人の暴走を止められないという事態は、

ほぼ発生しないと言えそうです。

 

 

【社員が民主的に選出した代表者は暴走するかも】

労働基準法令には、

過半数代表者の選出方法に関する規定はありますが、

・過半数代表者の任期
・過半数代表者に与えられる交渉権限の範囲
・社員の意思による過半数代表者の再選出方法

等については規定が一切存在しません。

 

そのため、社員が過半数代表者を選出する場合、

任期などのルールは特段決めずに選出している

企業がほとんどではないでしょうか?

 

万が一、過半数代表者が暴走したとしても、

会社の意向で解任できるはずがありません。

 

多数の社員が不適任と考えた場合であれば、

過半数代表者を解任・再選出することは

労働基準法的に問題ないでしょうが、

事前に過半数代表者の解任・再選出手続きを

ルール化していない場合、過半数代表者が暴走して、

居座ってしまう可能性があり、危険であると考えます。

 

 

【じゃあ、どうすればよいか?】

・過半数代表者の任期
・過半数代表者に与えられる交渉権限の範囲
・過半数代表者に選出されても辞任できる自由があること
・社員の意思による過半数代表者の解任・再選出手続き

等の最低限度のルールを事前に決めてから、

過半数代表者を選出するよう社員に要請してはいかがでしょうか?

 

全社員が参加する親睦会などがあれば、

その場でルールを決めれば問題ないと考えます。

 

会社が勝手にルールを決めることは許されませんが、

会社がルールのたたき台やサンプルを提示して、

社員にその内容を検討してもらうことは許される

と考えます。

 

 

労働法学者の菅野和夫氏が、ご著書「労働法」において、

「過半数組織組合が存しない事業場における過半数代表機関の常設化
(その形態、選出方法、機能、活動の保護と便宜供与、
ルール運用機関、労働組合との関係、等)を労使を入れた場で
早急に検討すべきであろう。」

と記述していたことを思い出しました。

 

社員が自主的に労働組合を作らない場合、

会社が働きかけて、

社員に常設の過半数代表機関を設置させる

という時代が来るかもしれませんね。



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