【事例1】
パート社員の週の所定労働日数:3日間
正社員の週の所定労働日数:5日間
の事業場において、
基準日のピッタリ半年後に
パート社員から正社員に身分変更することが、
基準日時点においてあらかじめ明確になっていた場合、
その年休年度における年休の付与日数は何日にすべきか?
【回答】
基準日時点において
週の所定労働日数の変更があらかじめ明確になっている場合、
1年間の前半と後半で週の所定労働日数が変動してしまうため、
「週によって所定労働日数が定められている」のではなく、
「週以外の期間によって所定労働日数が定められている」と解釈すべきである。
したがって設問の場合であれば、
基準日以後1年間の所定労働日数を算出し比例付与となるかどうか?
を判定することになる。
1年間の所定労働日数を厳密に算出するのがメンドクサイのであれば、
1年間における1週間あたりの平均所定労働日数=(5日間+3日間)÷2=4日間
となるので、
同等水準である1年間の所定労働日数=169〜216日のパターンの比例付与を採用すれば
付与日数も週3日のパターンより増え、労働者に有利な方向なので、
臨検に来た労働基準監督官もご満悦♪になると思われる。
【事例2】
1日8時間、週4日勤務の場合
【事例3】
1日10時間、週3日勤務の場合
【事例4】
1日4時間、週5日勤務(完全週休2日制)の場合
【事例5】
1日4時間、週5日勤務(週休2日制)だが、
祝日、振替休日、年末年始、夏季休暇等が年間50日ある場合
【事例6】
1日8時間、週5日勤務だが、
毎月、月の前半2週間のみ勤務する場合
【事例7】
繁忙期:3月〜10月の8ヶ月間は月25日勤務、1日6時間
閑散期:11月〜4月の4ヶ月間は月15日勤務、1日4時間の場合
【事例8】
1日7時間、シフト制により勤務
入社後6箇月間の出勤実績が合計105日だった場合
【事例9】
基準日時点では、1日8時間、週2日勤務だったが、
2ヵ月後に急に正社員に登用されることが決まり、
1日8時間、週5日勤務となった場合
【事例10】
事例9の正社員登用後の次の年休年度の付与日数は?
【事例EX】
基準日の1ヵ月後に退職することが確定している場合、
いつもとおりの1年間分の年休日数を付与しなければならないか?
年次有給休暇(以下、年休と略。)は、
基準日時点の労働条件における以後1年間に想定される
(未来の)所定労働時間および所定労働日数により、
付与日数が決まる。
所定労働日数の算定は
原則として
1週間の所定労働時間および所定労働日数により判定するが、
週以外の期間によって所定労働日数が定められている場合は、
1週間あたりの所定労働時間および1年間の所定労働日数により判定することになる。
実務の具体的な手順としては、
以下のとおり。
@所定労働時間および所定労働日数が、
週で定められているか?
週以外の期間によって定められているか?
週以外の期間によっても定められていないか?を確認する。
A1週間あたりの所定労働時間を算出し30時間以上であれば、
通常の労働者として原則とおりの日数を付与する。
【1週間あたりの所定労働時間の算出方法】
●週の所定労働時間が定められているとき
⇒通常の週の所定労働時間そのもの
●所定労働時間が1ヶ月単位で定められているとき
⇒通常の月の所定労働時間を12分の52で除して得た所定労働時間
●所定労働時間が1年間の単位でしか定められていないとき
⇒基準日以後1年間の所定労働時間を52で除して得た所定労働時間
●1 週間(1ヶ月の場合も同様)の所定労働時間が
短期的かつ周期的に変動し、
通常の週(または月)の所定労働時間が一通りでないとき
⇒それらの加重平均により算定された1週間あたりの所定労働時間
●1週間の所定労働時間が定まっていないときや
シフト制などにより直前にならないと勤務時間が判明しないとき
⇒(過去の)勤務実績に基づき、
(未来の)1週間平均の所定労働時間を算定(推定)する
※「通常の週・月」とは?
祝日、振替休日、年末年始、夏季休暇等
周期的・規則的に与えられる休日以外の休日を含まない週・月のこと。
※「雇用保険業務取扱要領」における
「1週間の所定労働時間」の定義を参照しているが、
「所定労働時間が1年間の単位でしか定められていないとき」の
「基準日以後1年間」については、カラカマ独自の見解。
B週の所定労働日数が定められているときは、
通常の週の所定労働日数が5日以上であれば、
通常の労働者として原則とおりの日数を付与する。
C週以外の期間によって所定労働日数が定められているときは、
基準日以後1年間の所定労働日数を算出し、217日以上であれば、
通常の労働者として原則とおりの日数を付与する。
D日雇い労働やシフト製勤務など、
週以外の期間によっても所定労働日数が定まっていないときは、
基準日前1年間の勤務実績に基づき、
基準日以後1年間の所定労働時間を推定し、217日以上であれば、
通常の労働者として原則とおりの日数を付与する。
※初年休年度については
基準日前6箇月間の勤務実績×2に基づき推定する。
E上記の要件をいずれもみたさない
すなわち
・1週間あたりの所定労働時間が30時間未満
かつ
・週の所定労働日数が4日以下または1年間の所定労働日数が216日以下
の場合は、比例付与の対象となる。
F基準日時点では決まっていなかった労働条件の変更により
所定労働時間または所定労働日数が増減した場合は、
年休年度の途中で所定労働日数が変更されても、
その年休年度における適用関係に変更はなく、
当初の付与日数の付与義務が継続する。
G年休の権利発生の有無は、毎基準日に判定するので、
付与日数についても上記の手順を年休年度(基準日以後1年間)毎に行い、
当該年休年度における付与日数を算出する必要がある。
以下、
具体的な事例を検証してみる。
【事例2】
1日8時間、週4日勤務の場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められている
A週の所定労働時間=8時間×4日=32時間
32時間≧30時間となり、通常付与
【事例3】
1日10時間、週3日勤務の場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められている
A週の所定労働時間=10時間×3日=30時間
30時間≧30時間となり、通常付与
【事例4】
1日4時間、週5日勤務(完全週休2日制)の場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められている
A週の所定労働時間=4時間×5日=20時間
20時間<30時間となり、条件満たさず。
B週の所定労働日数=5日≧5日となり、通常付与
【事例5】
1日4時間、週5日勤務(週休2日制)だが、
祝日、振替休日、年末年始、夏季休暇等が年間50日ある場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められている
A週の所定労働時間=4時間×5日=20時間
20時間<30時間となり、条件満たさず。
B周期的・規則的に与えられる休日以外の休日が年間50日あるため、
厳密には、所定労働日数が週で定められていないと言えるが、
これらの休日は考慮せずに通常の週の所定労働日数により判定する。
したがって、
通常の週の所定労働日数=5日≧5日となり、通常付与
【事例6】
1日8時間、週5日勤務だが、
毎月、月の前半2週間のみ勤務する場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められていない
A所定労働時間が1ヶ月単位で定められている
1ヶ月の所定労働時間=2週間×8時間×5日=80時間
⇒1週間あたりの所定労働時間=80時間÷(52/12)≒18.5時間
⇒18.5時間<30時間となり、条件満たさず。
C基準日以後1年間の所定労働日数=月10日(2週間×5日)勤務×12月=120日
⇒73日〜120日のパターンにて比例付与
【事例7】
繁忙期:3月〜10月の8ヶ月間は月25日勤務、1日6時間
閑散期:11月〜4月の4ヶ月間は月15日勤務、1日4時間の場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められていない
A1ヶ月の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動し、月の所定労働時間が一通りでない
⇒年間の加重平均により1週間あたりの所定労働時間数を算出
繁忙期:月25日×6時間×8ヶ月=1200時間
閑散期:月15日×4時間×4ヶ月=240時間
年間の加重平均=(1,200時間+240時間)÷52≒27.7時間
27.7時間<30時間となり、条件満たさず。
C基準日以後1年間の所定労働日数=(25日×8ヶ月)+(15日×4ヶ月)=260日
⇒1年間の所定労働日数=260日>216日となり、通常付与となる。
【事例8】
1日7時間、シフト制により勤務
入社後6箇月間の出勤実績が合計105日だった場合
@所定労働時間および所定労働日数が、
週によっても週以外の期間によっても定められていない
A基準日時点の労働条件における以後1年間に想定される
未来の所定労働時間を客観的に算出することは不可能。
⇒過去の勤務実績に基づき、
未来の1週間平均の所定労働時間を推定する
⇒1年間の所定労働時間を推定=7時間×105日×2(※1年=6箇月×2なので)=1,470時間
⇒1週間の所定労働時間を推定=1,470時間÷52≒28.3時間
⇒28.3時間<30時間となり、条件満たさず。
D基準日前1年間の勤務実績に基づき、基準日以後1年間の所定労働時間を推定
⇒入社後6箇月しか勤務していないため、2倍して1年間の所定労働日数を推定
⇒1年間の所定労働日数=105日×2=210日
⇒169日〜216日のパターンにて比例付与となる。
【事例9】
基準日時点では、1日8時間、週2日勤務だったが、
2ヵ月後に急に正社員に登用されることが決まり、
1日8時間、週5日勤務となった場合
@所定労働時間および所定労働日数が週で定められている
A週の所定労働時間=8時間×2日=16時間
16時間<30時間となり、条件満たさず。
B週の所定労働日数が定められているので、
週の所定労働日数=2日となり、比例付与となる。
F基準日後に労働条件の変更があったため、
当該年休年度の付与日数は週の所定労働日数=2日の比例付与のまま。
【事例10】
事例9の正社員登用後の次の年休年度の付与日数は?
Gあくまで当該年休年度の基準日時点の労働条件における
以後1年間に想定される未来の所定労働時間および所定労働日数により、
付与日数が決まるので、それ以前の年休年度の実績は一切関係ない。
したがって、
1日8時間、週5日勤務なので当然通常付与となる。
【事例EX】
基準日の1ヵ月後に退職することが確定している場合、
いつもとおりの1年間分の年休日数を付与しなければならないか?
不合理な場合も想定できるものの、
総合的に判断すると退職間近であっても
いつもとおりの1年間分の年休日数を付与すべきでしょう。
年休制度の本来の目的は、
「(法定)休日の外に毎年一定日数の有給休暇を与えることによって、
労働者の身心の疲労を回復せしめ労働力の維持培養を図ること。」
です。
●過去の全労働日の8割出勤を考慮している。
⇒週1日勤務でも全労働日の8割出勤していれば
年休は付与されることを考慮すると、この要件は、
基準日時点での疲労の蓄積具合を評価しているのではなく、
勤務評価をしているだけと考えられる。
⇒まじめに勤務したご褒美的性質を有する。
●継続勤務年数に比例して付与日数が増えていく。
⇒これも数年に渡る疲労の蓄積具合を評価しているというよりは、
継続勤務を評価をしているだけと考えられる。
⇒会社への長年の貢献に対するご褒美的性質を有する。
●法の趣旨としては、分割取得でなく、一括取得が望ましい。
⇒諸外国では最低でも何日間かは連続取得するものらしい。
労働基準法では昭和22年の立法当初から
「継続し、又は分割した」年休取得を許容しているが、
「身心の疲労を回復せしめ労働力の維持培養を図る」のであれば、
ある程度の連続取得が望ましいと考えられる。
●退職間近の年休取得に対しては、使用者の時季変更権が行使できない。
⇒年休の権利が労働基準法に基づくものである限り、
解雇予定日を越えての時季変更はできないので、
退職日を越えての時季変更権行使もできない。
●比例付与の判定は、
基準日時点の労働条件における
以後1年間に想定される未来の所定労働日数による。
⇒未来の1年間における労働による疲労の蓄積具合と
その疲労回復に要する日数を評価したものと考えられる。
⇒未来の1ヶ月間における労働による疲労の蓄積具合
に対応した付与日数でもよさそうなものだが、
現行の運用では、
年休年度の途中で退職する場合の例外規定がない。
以上を踏まえると、
退職間近であっても
いつもとおりの1年間分の年休日数を付与するしかなさそうです。
退職間近⇒退職したら休養できる⇒年休は不要なのでは?
と考えてしまいですが、
間を空けず次の職に就くこともありうることも考えれば、
再就職の前にじっくり休んでおきたいというのが人情でしょう。
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