日雇い労働者であっても、
労働者である以上、労基法第39条の要件を満たせば、
法律上当然に年休を付与しなければなりません。

ですが、
年休付与するための判断要素である、
・継続勤務と言えるのか?
・全労働日をどのように考えるのか?
・8割出勤の判定はどうするか?
・年休付与日数はどうするのか?
・いつ付与すればよいのか?
が不明確なため、混乱が生じがちです。

ここでは、
日雇いの警備員の年休の取り扱いについて
考えてみたいと思います。



●当該警備員は、労働基準法の保護対象となる「労働者」たり得るのか?

少なくとも、
交通誘導員や施設警備などの警備員は
労働基準法が適用される労働者と考えるべき。

まれな例として、
要人警護(≒ボディガード)を専業とするようなプロの警備員の場合、
「労働者性」を否定され労働基準法の保護対象とならない可能性がある。

もしそうであれば、
年休規定も当然適用されない。

要人警護は命がけの仕事であるので、
どの程度の指揮命令・支配関係にあるのか?
によると思われる。





●日雇い労働の場合、「継続勤務」と評価できるか検討すべき

これ以降の論点を考える上で参考となる通達がある。


訪問介護労働者の法定労働条件の確保について(平成16年8月27日 基発第0827001号)

(5) 年次有給休暇の付与

訪問介護事業においては、年次有給休暇について、
短期間の契約期間が更新され6箇月以上に及んでいる場合であっても、
例えば、
労働契約が1箇月ごとの更新であることを理由に
付与しない例が認められるところであるが、
雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し、
全労働日の8割以上出勤している場合には、
法に定めるところにより年次有給休暇を付与する必要があること(法第39条)。

なお、
年次有給休暇の付与要件である「継続勤務」とは、
在籍期間を意味し、継続勤務かどうかについては、
単に形式的にのみ判断すべきものでなく、
勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであること。

また、
非定型的パートタイムヘルパー等について、
年次有給休暇が比例付与される日数は、
原則として基準日において予定されている
今後1年間の所定労働日数に応じた日数であるが、
予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、
基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出すること
として差し支えないこと。

したがって、例えば、
雇入れの日から起算して6箇月経過後に付与される
年次有給休暇の日数については、
過去6箇月の労働日数の実績を2倍したものを
「1年間の所定労働日数」とみなして判断すること
で差し支えないこと。




通達・コンメンタール等にも記述がある通り、
日雇い労働で副業・兼業(自営を除く)している場合は、
「継続勤務」を否定される≒年休規定の適用除外となる労働者も存在し得る。

警備業は副業・兼業が十分あり得る業種であると想定するので、
各労働者の就労実態を把握すべきである。

少なくとも、
警備会社1社専属の日雇い労働者であれば、
「継続勤務」を肯定すべきである。





●警備会社1社専属の日雇い労働者における出勤率の算定について

日雇いの場合、
日々労働契約が締結されて初めてその日が「労働(義務がある)日」となる。

したがって、
「全労働日」とは、労働契約が締結された日の総和と等しい。

この労働日に実際に労働力を提供していれば、
「出勤した」ことになるし、
労働者側の事情で労働力の提供がなされなければ、
「出勤した」ことにならない。



※労基法39条は、
「出勤」を要件としているが、
「出勤」について明確に定義されていない。

屋外労働の場合、
「出勤」したものの悪天候を理由に
結局その日は休業日となる事例が見られるが、
この場合は労働力の提供はないが、
「出勤した」と言えるのではないか?

育児・介護休業期間や産前産後休業期間は、
「出勤したものとみなす」と明確に規定されており、
労働力の提供は絶対条件ではないようである。

通達によれば、
「不可抗力による休業日」や
「使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日」は、
全労働日に含まない取り扱いとなっているが、
「不可抗力による休業日」に出勤したけど労働していない場合
の取り扱いは不明確である。





●年休付与日数の判定要素である「所定労働日数」をどう考えるか?

所定労働日数が少ない⇒休日が多い⇒年休もそれほど必要ない。
という考えがあり、これを比例付与と呼ぶ。

具体的には、
週所定労働時間が30時間未満
かつ
週所定労働日数が4日以下
または
1年間の所定労働日数が216日以下
に該当すると比例付与となる。

日雇い警備員の場合、
基準日において今後の所定労働日数が
あらかじめ予定されていることは稀だと思われる。

なので、実務的には、
訪問介護労働者の通達と同様の取り扱いとし、
過去6箇月の労働日数の実績を2倍したもの
(2年目以降は、過去1年間の労働日数)を
「1年間の所定労働日数」とみなして判断すればよい。





●いつ付与すればよいか?

年休は、
「労働日」に対して付与することができる。

日雇い労働者の「労働日」は、
日々労働契約が締結されたその日が
「労働(義務がある)日」となる。

たとえば、
警備会社:「Aさん、明日仕事入れる?」
警備員A:「大丈夫です。」
警備会社:「じゃあ、明日よろしくお願いします。」
警備員A:「了解しました。それでは、年休取らせてください。」
というやり取りが想定されるが、
ハッキリ言って、非現実的である。

実務的には、
仕事がない日に労働契約を結んだことにして、
その日の日当を支払い、
本当に働いてほしい日には、年休を取らない。
という話し合いをするしかない。





●余談:警備会社2社以上を掛け持ちで働く日雇い労働者における出勤率の算定について

労基法第38条にて規定されている
2以上事業場の労働時間通算
を考慮して考える必要がある。

労働時間は通算するけど労働日は通算しない
というのは論理的に矛盾している。

「労働日」や「出勤」も通算して
「全労働日の八割以上出勤」を算定すべきである。

仮に、矛盾を承知で
「労働時間は通算するけど労働日は通算しない」とした場合、
週の所定労働時間が30時間以上かどうかを判定する際、
すべての事業場の所定労働時間を通算して判定することになる。

所定労働時間が通算30時間以上であった場合、
比例付与の対象とならないことになるので、
週1日出勤の会社を5社掛け持ちした場合でも
比例付与とならないことになる。

この場合、
6年6ケ月継続勤務すると
5社で合計して年間200日(20日×5社×2年分)
の年休を取得する権利が発生することになり、
極めて不合理である。

以上を考慮すると、
A社とB社の2社を掛け持ちで働く日雇い労働者の場合、
それぞれの事業場における全労働日について
個別に八割以上出勤しているかどうか?を判定すべきである。

となると、
入社日が異なる
=「雇入れの日」が異なる
=権利発生の判定期間が異なる、会社によって年休付与の基準日が違う、
といった困った現象が発生する。

幾多の困難を乗り越え、
2社の「労働日」と「出勤」を通算した結果、
「全労働日の八割以上出勤」しているのであれば、
法定の日数分の年休を取得する権利が労働者に発生することになるが、
どの事業場で何日分の権利を行使できるのか法律上明確にされていない。

労働者に時季指定権があるため、
取得する事業場をあらかじめ特定すべきでないとも言えるし、
実務上特定し得ない事象も発生しそうである。

しかし、
働き方改革法による法改正によって、
罰則付きで5労働日の年休取得を使用者に強制しているので、
使用者は自社で何日分の年休を強制的に取得させなければならないのか?
を事前に把握しておかなければならないことになる。





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