年次有給休暇が存在する理由は、
労働基準法第39条に規定があるためです。

ここでは、
この労基法第39条の規定ピッタリ同等の年休を「法定内年休」と呼び、
労基法の様々な規制を受ける年休とします。

一方で、
労基法第39条の規定を超える(労働者側に有利なという意味で)年休を
「法定外年休」と呼び、運用ルールは労使間で自由に定めてよい年休とします。

※労基法第39条の規定を下回る年休制度を採用している企業の場合、
労基法第13条の最低基準効が発動し、その労働条件は無効となり、
労基法第39条の規定ピッタリ同等の「法定内年休」を与えることになります。




●法定を超える有給休暇の取り扱い(昭和23.3.31 基発513号、昭和23.10.15 基収3650号)

問:法第39条に定められた有給休暇日数を超える日数を労使間で協約している時は、
その超過日数分については、労働基準法第39条によらず
労使間で定めるところによって取り扱って差支えないか。

答:貴見のとおり。


平成30年の働き方改革法の成立により、
平成31年4月以降に付与される法定内年休日数が10労働日以上の労働者に対して、
使用者は5労働日の付与義務が発生し、時季指定権を持つことになりました。

これは逆説的に言うと、
法定内年休日数が10労働日未満の労働者に対して、
使用者がウッカリ時季指定してしまうと法違反となり、
30万円以下の罰金刑に問われうることを意味します。

したがって、
年休についてチョットでも法定を超える取り扱いをしている企業は、
どの年休が法定内で、どの年休が法定外なのか?を峻別して管理したうえで、
法定内年休日数が10労働日以上かどうかを判定する必要が生じました。

このように、
法定内年休と法定外年休をキッチリ見分けなければならないのですが、
行政は、その見分け方を詳細に解説する気はないようです。

以下では、
法定外年休が発生しうる要素を

@付与タイミングの前倒し

A出勤率判定基準の緩和

B付与日数の上乗せ

C2年を超える時効または時効の利益の放棄

の4つに分類し、
それぞれについて考えてみたいと思います。

※厳密には、法定を超える額の賃金を支払う場合も法定外であると言えるが、
本筋と関係ないためここでは取り扱わない。






@付与タイミングの前倒し

法定内年休は、
「雇い入れの日≒入社日から起算して6箇月間継続勤務した日の翌日」
および
「6箇月経過日から起算して1年間継続勤務した日の翌日」
に年休を付与しなければならないことになっています。

このタイミングを超える≒前倒しで付与した場合は、
法定外年休となる可能性が出てきます。




●六箇月経過前の年休賦与(昭和29.6.29 基発355号 解釈総覧改訂15版(以下同じ。)P466)
使用者が継続6箇月間の期間満了前に、
労働者に対し年次有給休暇を与えることは、
何ら差支えないこと。


上記通達は、
法定内年休を基準日以前に前倒し(最大で6ヶ月前倒し)で付与しても、
何ら差し支えないということになります。

※ 平成六年の法改正までは、一年間の継続勤務が要件であった。
⇒このときは、最大で1年前倒しで付与できていたことになる。




●労働基準法の一部改正の施行について(平成六年一月四日 基発第一号 (解釈総覧P470)
5 年次有給休暇(3) 年次有給休暇の斉一的取扱い

(1)の年次有給休暇について法律どおり付与すると
年次有給休暇の基準日が複数となる等から、
その斉一的取扱い
(原則として全労働者につき一律の基準日を定めて年次有給休暇を与える取扱いをいう。)

分割付与
(初年度において法定の年次有給休暇の付与日数を一括して与えるのではなく、
その日数の一部を法定の基準日以前に付与することをいう。)
が問題となるが、
以下の要件に該当する場合には、
そのような取扱いをすることも差し支えないものであること。

イ 斉一的取扱いや分割付与により
法定の基準日以前に付与する場合の年次有給休暇の付与要件である八割出勤の算定は、
短縮された期間は全期間出勤したものとみなすものであること。

ロ 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、
初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、
法定の基準日より繰り上げること。
(例えば、斉一的取扱いとして、四月一日入社した者に入社時に一〇日、
一年後である翌年の四月一日に一一日付与とする場合、
また、分割付与として、
四月一日入社した者に入社時に五日、
法定の基準日である六箇月後の一〇月一日に五日付与し、
次年度の基準日は本来翌年一〇月一日であるが、
初年度に一〇日のうち五日分について六箇月繰り上げたことから
同様に六箇月繰り上げ、四月一日に一一日付与する場合などが考えられること。)


上記通達は、
初年度の法定内年休を入社時に付与することができ、
翌年度の法定内年休も最速で6ヶ月経過経過時に1年前倒しで付与することができる。
ことを意味します。

以後、
1年前倒しを毎年継続することも可能です。



以上を踏まえたうえで、
以下の事例を見てみてください。



【入社時に5労働日の年休付与、6ヶ月経過時に10労働日の年休を付与した場合】
⇒いろいろなパターンが考えられ得る。

パターン 

入社時5労働日 

ヶ月経過時5労働日@ 

ヶ月経過時5労働日A 

 

初年度法定内 

次年度法定内 

 

初年度法定内 

初年度法定外 

 

初年度法定外 

初年度法定内 

もちろん、
6ヶ月経過時に次年度の
11労働日のすべての法定内年休を
1年前倒しで付与
することも可能となります

ただしこの場合は、
「短縮された期間は全期間出勤したものとみなす」
=出勤率を100%とみなす必要があるため、
出勤率判定をしたい場合、前倒し付与は不可能となります。




結論として、
付与タイミングの前倒しをしている企業は、
その前倒しした年休は法定内なのか法定外なのか?
を明示しておくべきと考えられます。




A出勤率判定基準の緩和

法定内年休は、
「全労働日の8割以上出勤すること。」
を年休付与の条件としています。

この条件を満たさない場合は、
その後1年間は一切の年休を与える義務がありません。

ということは、
法定の条件は満たさないけど、
出勤率判定基準を緩和した条件を満たした結果、
付与される年休は、すべて法定外年休と言えます。

判定基準の緩和要素としては、

1.全労働日の対象となる日を増やす。

2.出勤率を8割未満でOKとする。

3.出勤とみなす日を増やす。

の3つが考えられます。



1.全労働日の対象となる日を増やす。
「全労働日」とは、
労働契約上労働義務の課せられている日をいいます。

行政解釈では、
・使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
・天災事変など不可抗力によって休業した日
・正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
・所定休日に出勤した日
・法定休日に出勤した日
は全労働日から除外すべきとしています。

休業した日を全労働日から除外するということは、
マイナスの評価をしないということなので、
法定を超えることにはなりません。

しかし、
出勤した日を全労働日に含めた場合、
出勤率が向上することになり、
法定を超える取り扱いと評価することができます。

ただし、
所定休日は、事業所が自由に設定した休日なので、
所定休日⇒労働日はアリだと考えますが、
法定休日⇒労働日として取り扱うことが可能か
疑問が残るところです。

したがって、すくなくとも
「所定休日に出勤した日」を全労働日に含めることによって、
はじめて付与条件を満たした場合、
その年休は法定外年休と評価できます。


なお、
「使用者の責に帰すべき事由によって休業した日」も
全労働日に含まないとしていますが、
算定期間のすべてが休業日となった場合、
全労働日がゼロとなるため、年休を与えなくてよいことになります。

この取り扱いは、
いささか不合理と考えられるので、
「使用者の責に帰すべき事由によって休業した日」を全労働日に含め、
かつ出勤したものとみなすべきかもしれません。

この場合も、
法定外年休と評価できそうです。



2.出勤率を8割未満でOKとする。

これは簡単なことで、
8割未満の7割を判定基準とする場合等が該当します。

ただし、この場合
8割以上出勤であれば、法定内年休
8割未満7割以上であれば、法定外年休
となるので注意が必要です。



3.出勤とみなす日を増やす。
労基法第39条第10項により、
・業務上傷病にかかり療養のために休業した期間
・育児休業、介護休業をした期間
・産前産後の休業した期間、
は法律上当然に出勤したものとみなします。

行政解釈では、
・年休を取得した日
も出勤したものとみなすべしとしています。

ここまでは、法定内と見るべきでしょう。

以下の日を出勤したものとみなした結果、
付与される年休は法定外年休と評価できます。

・病気により欠勤した日
・慶弔休暇により休業した日
・生理休暇により休業した日
・子の看護休暇により休業した日
・介護休暇により休業した日
・母性健康管理の事由により休業した日
・通勤途上の災害により欠勤した日

ちなみに、
無断欠勤した日も出勤したものとみなすことができますが、
職場秩序維持の観点からすると問題ありでしょう。




B付与日数の上乗せ

いわゆる比例付与の対象となるかどうかに関わらず、
法定の付与日数を超えて付与される年休は
すべて法定外年休となります。

法定外年休を管理する上では、
今与えようとしている年休は法定内外どちらなのか?
を都度吟味する必要があり、非常にメンドクサイでしょう。




C2年を超える時効または時効の利益の放棄

労基法第115条において、
賃金、災害補償その他の請求権は2年間
退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、
時効によって消滅する。
とされています。

したがって、
年休も時効の中断が生じない限り、
2年間請求しなかった場合、
時効を援用することにより消滅します。


●時効の起算日(平成6.5.31 基発330号 解釈総覧P479)
⇒入社時に5労働日賦与、6ヶ月経過時に残り5労働日賦与の場合、
それぞれの付与日が時効の起算日となる。   

入社時に付与された5労働日の年休に対し、
労基法第115条の時効を適用していることを考慮すると、
この前倒しの5労働日の年休は、「法定内年休」と評価可能ということになる。


●年次有給休暇の時効の中断(昭和23.4.28 基収1497号、昭和23.5.5 基発686号 解釈総覧P479)
⇒時効の中断が成立するとそこから時効が振り出しに戻る。
振出しに戻った年休がもともと「法定内」であれば、「法定外」に転化するのではなく、
引き続き法定内年休のままと考えるべきです。

一方で、2年間で法定内年休の時効は援用するが、
恩恵的に法定内⇒法定外の年休に転化させたうえで、
更に1年間(3年目)も取得可能とする取り扱いも可能なはずです。

つまり、
2年経過後の年休は、
労使の自由な取り決めにより法定内にも、法定外にもなり得る
ということになります。


なお、
時効の利益を一切放棄した場合、
残った年休が積み重なった結果、
年休が700日あるという恐ろしい事象が起こり得ます。




余談ですが・・・、
労基法第39条は「十労働日の有給休暇を与えろ!」であって、
「十労働日「以上」の有給休暇を与えろ!」ではありません。

労基法はその第1条において、
「自分は、労働条件の最低基準である!」と明示しています。

ということを踏まえると、
「十労働日の有給休暇を与えろ!」なので、
⇒法定の年次有給休暇は10日ピッタリで恩恵部分は法定外

「十労働日「以上」の有給休暇を与えろ!」だった場合、
⇒恩恵的にプラス付与した部分も含め法定内 と考えるべきです。

たとえば、
第26条において休業手当は、
「平均賃金の百分の六十「以上」の手当」とされているので、
80%の休業手当を支払った場合、
プラス20%分も法定の休業手当と解釈すべきです。

このロジックで、 第35条第1項を解釈すると
「毎週少なくとも1回」≒「毎週1回以上」と解釈すれば、
「法定休日は週1回限定」は正しいのか?
を再検討する余地がありそうです。





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