最終更新日:令和7年8月10日
人手不足が深刻化している昨今ですが、
新型コロナ禍の頃は、
余剰人員の雇用維持のために「在籍型出向」が
行われていました。
出向してきた社員は、
出向先企業の社員としても身分を得るわけではないので、
慶弔見舞い制度対象外となっても仕方ありません。
しかし、出向期間が長くなれば、
出向先企業も人間ですから情が湧いてくるものであり、
出向期間中に結婚した場合、
結婚祝金を出してあげたくなっても不思議ではありません。
ここでは、
出向先の厚意で支給された結婚祝金の取り扱いについて、
労働法および社会保険法の視点から考察してみたいと思います。
<在籍型出向って何だい?>
在籍型出向とは、
出向元企業と出向先企業との間の出向契約によって、
労働者が出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を結び、
一定期間継続して出向先企業で勤務することをいいます。
労働者供給(供給契約に基づいて労働者を他人の
指揮命令を受けて労働に従事させるもの。労働者派遣
に該当するものを除く。)を「業として行う」 ことは、
職業安定法により禁止されています。
在籍型出向は、労働者供給に該当するものですが 、
@労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する
A経営指導、技術指導を実施する
B職業能力開発の一環として行う
C企業グループ内の人事交流の一環として行う
等のいずれかの目的があるものについては、
基本的には、「業として行う」ものではないため、
職業安定法に違反しないことになります。
賃金の支払い方法としては、
・出向先企業が出向労働者に直接支給。
・出向先企業が出向元企業に対して給与負担金を支払い、
出向元企業が出向労働者に支給。
等があり、出向元企業と出向先企業が話し合って決定します。
以下では、
「出向先企業が出向元企業に対して負担金を支払い、
出向元企業が出向労働者に賃金を支給している。」と仮定して、
論じていきます。
<労働基準法上の賃金となるか?>
臨時的・突発的事由により支給される金銭は、
労働基準法上の賃金には該当しません。
ただし、
労働協約、就業規則、労働契約等によって
予め支給条件が明確である場合は賃金に該当します。
出向契約時に出向先から結婚祝金を支給する旨の特約があった場合は、
賃金に該当する可能性がありますが、
通常そのような特約は存在しないと推測されますので、
出向先の厚意で支給された結婚祝金は労働基準法上の賃金ではない
と考えられます。
<労災保険給付の算定基礎となるか?>
出向労働者は原則として、
出向先企業にて労災保険を適用します。
労災保険の保険給付の金額は、
給付基礎日額を基準に算定されます。
給付基礎日額は、
労働基準法の平均賃金に相当する額であり、
・臨時に支給された賃金
・3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
・一定の範囲外の現物給付
は対象外です。
3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は、
特別支給金の算定基礎年額の対象となりますが、
臨時に支払われた賃金は対象外です。
したがって仮に、労働契約時に特約があり、
結婚祝金が労働基準法上の賃金に該当したとしても、
労災保険給付には一切影響がありません。
<雇用保険給付の算定基礎となるか?>
出向労働者は、出向先および出向元のうち
生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている側の
雇用関係についてのみ、雇用保険の被保険者となります。
本事例の出向者は出向元から賃金の支払いを受けているので、
出向元にて雇用保険の被保険者の資格を取得することになります。
雇用保険法上の賃金の定義は、以下のとおりです。
・事業主が労働者に支払ったもの
・労働の対償として支払ったもの
本事例の出向先企業は、
出向者との雇用保険適用上の関係において事業主ではなく、
結婚祝金は、労働の対償でもないので、
雇用保険給付には一切影響がありません。
<労働保険料の算定基礎となるか?>
労働保険徴収法では、労働基準法と異なり、
労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件が明確であっても
臨時的に支給する吉凶禍福に対するもの、年功慰労金、勤続報奨金、退職金は、
労働保険料の算定基礎にはなりません。
労災・雇用保険給付に一切影響しないことを考えれば、
当然の措置でしょう。
したがって、
結婚祝金が労働保険料の算定基礎となることは
99%あり得ないでしょう。
<社会保険料の算定基礎となるか?>
出向労働者は、出向先および出向元のうち
使用関係があり報酬が支払われている企業(一方または双方)
で厚生年金・健康保険の被保険者となります。
本事例の出向者は出向元からのみ賃金を受けているので、
出向元についてのみ厚生年金・健康保険の被保険者の資格を
取得することになります。
日本年金機構の内部資料である疑義照会(回答)票に、
「適用事業所ではない出向先の社長の厚意により臨時的に支給された賞与は
広義の報酬には該当せず、社会保険料の対象とならない。」
という事例があります。
したがって、
本事例の結婚祝金が社会保険料の算定基礎となることも
99%あり得ないでしょう。
本事例では、出向先が給与の半額を負担していますが、
出向元がこの負担額を含めずに社会保険の報酬月額を算出している場合は、
本件以前の大問題となります。
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