【事例】

・3つの旅館を経営する株式会社。

・従業員数は種類別に以下のとおり。
正社員:週5日、週40時間勤務 30人
パートA:週5日、週30時間勤務 30人
パートB:週3日、週24時間勤務 30人
アルバイト:週3日、週12時間勤務 30人

・1旅館にそれぞれ10人ずつ配置、各旅館40名在籍。

 

社員数の違いによって、

企業に課せられる義務に、どのような違いが生じるのか?

について勉強してみたいと思います。

 

 

 

【基礎知識】

労働法令では、労働者数が多ければ多いほど規制が

増えて厳しくなる傾向にあります。

 

境目となる人数は、10人、50人および100人ですが、

業種によって取り扱いが異なる場合があります。

 

また、人数を計算する際に注意すべきこととして、

・集計単位が、事業所単位の場合と企業単位の場合がある。
・対象となる労働者が限定される場合がある。

を考慮する必要があります。

 

 

●節目その1:10人以上

・事業所単位で
・常時使用する労働者が
・10人以上
になると以下の義務が生じます。

1.就業規則の作成・届け出
2.安全衛生推進者または衛生推進者の選任

 

「常時使用する労働者」とは、

・正社員
・パート・アルバイト
・契約社員等
直接雇用する社員のことであり、

・下請け会社の社員
・派遣社員
・個人委託業者等
は対象外となります。

 

また、

危険な業種は安全衛生推進者を選任、

危険でない業種は衛生推進者を選任します。

 

 

●節目その2:50人以上

・事業所単位で
・常時使用する労働者が
・50人以上
になると以下の義務が生じます。

3.安全管理者および衛生管理者の選任
4.安全委員会および衛生委員会の設置
5.産業医の選任
6.定期健康診断の結果報告
7.ストレスチェックの実施

 

危険でない業種は、

安全管理者の選任および安全委員会の設置は不要です。

 

 

●節目その3:100人超

・企業単位で
・特定の労働者が
・100人を超える
と以下の変化が生じます。

 

8.「中小企業者」として取り扱われなくなる

常時使用する労働者が100人を超えると、

中小企業者として取り扱われなくなり、

・法定超労働が60時間超の場合、割増率アップ
・中小企業退職金共済に加入できなくなる
・各種助成金で優遇措置を受けられなくなる

という変化が生じます。

 

業種により人数上限が50〜300人の間で変動し、

資本金が多いと、この人数未満でも「中小企業者」

として取り扱われなくなることに注意してください。

 

9.障害者雇用納付金の納付義務が生じる

障がい者を雇用しておらず、かつ常時雇用労働者

が100人を超えると、障害者雇用納付金を納付する

義務が生じます。

 

常時雇用労働者数は、以下のルールで集計します。

・週30時間を超える労働者:1人とカウント
・週30〜20時間である労働者:0.5人とカウント
・週20時間未満である労働者:カウント外

 

 

10.社会保険の特定適用事業所となる

70歳未満の厚生年金保険の被保険者数が、

100人(※令和4年10月以降。現在は500人が境目)

を超えると、特定適用事業所と扱われ、

パートの社会保険加入要件のハードルが下がります。

 

 

 

【事例検証】

3つの旅館を

それぞれ独立した事業所として取り扱った場合と、

まとめてひとつの事業所として取り扱った場合に分けて、

検証してみます。

 

●それぞれ独立した事業所として取り扱った場合

常時使用する労働者は、各事業所とも40人なので、

1.就業規則の作成・届け出
2.安全衛生推進者または衛生推進者の選任

の義務は生じますが、3.〜7.の義務は生じません。

 

旅館業=サービス業=危険でないので、

衛生推進者を選任すれば事足ります。

 

8.中小企業者は、

企業全体の常時使用する労働者は、40人×3事業所

=120人となり、中小企業者に該当しなくなります。

 

9.障害者雇用納付金は、

・週30時間を超える労働者=正社員とパートA
=60人×1.0=60人

・週30〜20時間である労働者=パートB
=30人×0.5=15人

となり、合計75人なので、納付義務は生じません。

 

10.社会保険の特定適用事業所は、

厚生年金保険の被保険者=正社員とパートAなので、

全員70歳未満だとしても60人なので、特定適用事業所

にはなりません。

 

 

●まとめてひとつの事業所として取り扱った場合

常時使用する労働者は、40人×3旅館=120人

なので、2.を除く、下記すべての義務が生じます。

1.就業規則の作成・届け出
3.衛生管理者の選任
4.衛生委員会の設置
5.産業医の選任
6.定期健康診断の結果報告
7.ストレスチェックの実施

 

8.〜10.は、企業単位なので、

それぞれ独立した事業所として取り扱った場合

と同様の結果となります。

 

 

 

会社の業績が上がり、雇用する社員を増やすのは、

日本社会にとっても喜ばしことではありますが、

社員を増やすことによって、企業に様々な義務が生じる

という事実はぜひ頭に入れておきましょう。

 

また、事業の区切りも大切なのでよく考えましょう。



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