あまり知られておりませんが、管理監督者と同様に、 農水産業に従事する労働者には、労働基準法の 1日8時間、1週40時間までという法定労働時間の規定や 労働時間に応じて休憩を与えるという休憩に関する規定や 1週間に1回は休みを与えるべしという法定休日の規定が 適用されません(以下、法定労働時間等の規定と略。)。 適用を除外される理由は、 農水産業は天候等の自然条件に大きく左右されるため、 法定労働時間や週休制になじまない業種だから と、行政の労働基準法の解説書に記載されています。 そこで疑問に思ったのが、農水産業の事業所において、 当人はまったく農水産業の現場仕事に従事しない 労働者に、法定労働時間等の規定は適用されるのか? ということ。 農業法人の事務職員が残業したときに割増賃金を支払うべきか? について考えてみたいと思います。 【事例】 ・季節の野菜を露地栽培し、出荷している法人企業。 ・法定労働時間等の規定が適用されない労働者とは?
労働基準法第41条には、さまざまな理由により、 法定労働時間等の規定が適用されない労働者が列挙 されています。 1.農水産の事業に従事する者 2.監督もしくは管理の地位にある者 3.機密の事務を取り扱う者 4.監視または断続的労働に従事する者 これらの者には、 ・1日8時間、1週40時間までという法定労働時間の規定 が適用されないので、イモづる式に、 ・法定労働時間を超えて残業させたり、法定休日に出勤させたり という規定も除外されることになります。
「農水産の『事業』に従事する」かどうか? の判断をするためには、「事業」とは何か?を 理解する必要がありそうです。 労働基準法第9条において、 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、 と定義されています。 労働基準法の適用単位である「事業」について、 行政は以下の解釈をしています。 ・事業とは、一定の場所において相関連する組織の ・原則として、場所的観念によって決定する。 ・同一の場所にあっても、著しく異なる業を行う ・場所的に独立していても、規模が小さい場合は、
この法人は、 「季節の野菜を露地栽培し、出荷している。」ことから、 農水産の事業であると考えられ、そこで働く労働者は、 労働基準法第41条の対象者であると考えられます。 したがって、 現場職(4名)については、法定労働時間等の規制が 適用除外となることは間違いないでしょう。
事務職員(1名)は、 農作業そのものには従事していませんが、 ・畑のすぐそばにある事務所に居り、現場職と同一の場所で ・現場職が忙しい時は事務職も忙しいことから、現場職と事務職 ・個々の労働者の業務による分割は認められないということは、 ということから総合的に判断すると、 事務職も法定労働時間等の規制が適用除外となる と解釈すべきです。 以上より、 事例の農業法人の事務職員が法定労働時間を超えて 残業したとしても、法律上は割増賃金を支払う義務 がないと考えられます。
ちなみに、 ・社員数5,000人の巨大な農業法人 のような場合であれば、 東京事務所の事務職員は、 現場職と別個の事業に使用されていると考えられ、 労働基準法も個別に適用されるべきなので、 残業したらキッチリ割増賃金を加算した残業代を 支払う義務があるでしょう。 労働基準法の適用単位である「事業」という概念も 実はなかなか奥が深いと思いませんか? |