労働時間規制の適用除外者について概観してみる。

※唐鎌謹製、「労働時間規制の適用除外者一覧表」はこちら

労働基準法
根拠規定

対象者

対象業務

9条

労働者でない者

すべて

36条11項

専門的、科学的な知識、技術を有する者

新技術、新商品等の研究開発

41条1号

農林水産業(林業を除く)

当該事業

41条2号

管理監督者、秘書

すべて

41条3号

監視又は断続的労働に従事する者

監督署の許可を受けたもの

41条の2

高度の専門的知識等を持つ者

H30年9月7日施行規則
に対象業務の記述なし

116条

船員、家事使用人、
同居の親族のみを使用する事業

すべて

138条
附則3条1項

中小企業

すべて

139条1項

災害時における復旧・復興の事業

規則69条1項に該当する事業

139条2項
規則69条1号

建設業の事業場

当該事業

139条2項
規則69条2号

企業の主たる事業が建設業
である事業場

当該事業に限定されない

139条2項
規則69条3号

建設業に関連する警備事業

交通誘導警備の業務に限る

140条

一般乗用旅客自動車運送事業

詳細未検討

141条

医業に従事する医師

詳細は、
「医師の働き方改革に関する検討会」
の結論待ち

142条

鹿児島県及び沖縄県における
砂糖製造業

当該事業




以下では特に記載がない限り、
平成30年6月29日に成立した
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、改革法)
を反映した法令を元に考察する。





(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、
事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、
賃金を支払われる者をいう。


労働基準法は労働者保護法であるため、
労働者でない者には適用されず、
労働時間に関する規制は一切関係ないことになります。

労働者に該当するかどうかの判断基準のことを「労働者性」と呼び、
その判断基準は、
以下の報告が基礎となります。

労働基準法研究会報告( 労働基準法の「労働者」の判断基準について)
昭和60 年12月19日

労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告
(建設業手間請け従事者及び芸能関係者に関する労働基準法の「労働者」の判断基準について)
平成8年3月

「労働者性」はナウシカの「腐海」並みに奥が深く、
ディープなテーマであるため、
ここでは労働者性については論じません。





(時間外及び休日の労働)
第三十六条J 第三項から第五項まで
及び第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は、
新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については適用しない。


36協定の限度時間の適用除外業務であった
「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」だけが、
第36条に加えられ、格上げされました。

改革法前の限度基準
(労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の限度等に関する基準
(平成10年労働省告示第154号))では、限度時間の適用除外業務として、

@工作物の建設等の事業(いわゆる建設業)
A自動車の運転の業務(いわゆる運送業)
B新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務
が同列で規定されていました。

建設業および運送業は、
期限付きながらも第139条および第140条にて
継続して適用除外とされたましたが(詳細は後述)、
研究開発業務だけ期限なしで第36条に格上げ規定されています。

これは、事実上の規制緩和だと考えられます。



厚生労働省労働基準局賃金時間課監修(2003)「労働時間実務事典」労務行政
新技術、新商品等の研究開発の業務

専門的、科学的な知識、技術を有する者が従事する次の業務をいう。

@ 自然科学、人文・社会科学の分野の基礎又は応用的な
学問上、技術上の問題を解明するための試験、研究、調査

A 材料、製品、生産・製造工程等の開発
又は技術的改善のための設計、製作、試験、検査

B システム、コンピュータ利用技術等の開発
又は技術的改善のための企画、設計

C マーケティング・リサーチ、デザインの考案
並びに広告計画におけるコンセプトワーク及びクリエイティブワーク

D その他@からCに相当する業務

なお、
Bでいう「システム」とは、
製品の生産、商品の販売、サービスの提供等のために、
人的能力、技術、設備、情報等を有機的に関連づけて
総合的に体系化することを指す。

また、
研究の事業にあっては、
事業の目的たる研究そのものを行う業務をいう。

時間外労働協定について限度時間を適用しないこととする
新技術、新商品等の研究開発の業務の具体的範囲については、
労使当事者がこの定義に即して、自主的に協議し、
定めた内容を尊重する
ものとしている。


とあり、
法の抜け道のニオイがぷんぷんしますね〜。

この適用除外に該当すると、
36協定の危険有害業務の規制を除く
すべての限度時間、上限時間規定が適用されません。





(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める
労働時間、休憩及び休日に関する規定は、
次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)
又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者
又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、
使用者が行政官庁の許可を受けたもの



別表第1

六 土地の耕作若しくは開墾
又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業
その他農林の事業

七 動物の飼育
又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業
その他の畜産、養蚕又は水産の事業


「管理職に残業代はいらない。」という
都市伝説の元となっている規定です。

この適用除外に該当すると、
法定労働時間、法定休日、時間外労働
および深夜割増を除く割増賃金
に関する規定が適用されません。



なお、
厚生労働省発行の
「長時間労働者への医師による面接指導について」
というパンフレットでは、
「管理監督者は、労働者自らが
「時間外・休日労働が月100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる」
と判断し、申し出があった場合に面接指導を実施します。」
とされています。

管理監督者という労働者の衛生管理として、
適切な運用かどうかは、はなはだ疑問ですが、
使用者には管理監督者への面接指導義務はありません。


一方で、
長時間労働に起因する労働災害を防止するという観点からいうと、
使用者には、
管理監督者の労働時間を適切に把握する義務があります。

その根拠は、
使用者に対する労働災害への補償義務が、
労働基準法第8章に明確に定められており、
これが労災保険法のルーツだからです。





いわゆる「高度プロフェッショナル制度」です。

対象業務等が施行規則で定められる予定ですが、
平成30年9月7日リリースの施行規則には記述がないため、
今後に注目したいと思います。

この適用除外に該当すると、
労働基準法の労働時間に関する規定がすべて適用されません。





(適用除外)
第百十六条 第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで
及び第百二十一条の規定を除き、
この法律は、
船員法第一条第一項に規定する船員については、
適用しない。

この法律は、
同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、
適用しない。



船員法
(船員)
第一条 この法律において「船員」とは、
日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶
に乗り組む船長及び海員並びに予備船員をいう。

2 前項に規定する船舶には、次の船舶を含まない。

一 総トン数五トン未満の船舶

二 湖、川又は港のみを航行する船舶

三 政令の定める総トン数三十トン未満の漁船

四 前三号に掲げるもののほか、
船舶職員及び小型船舶操縦者法第二条第四項に規定する小型船舶であつて、
スポーツ又はレクリエーションの用に供するヨット、モーターボート
その他のその航海の目的、期間及び態様、運航体制等からみて
船員労働の特殊性が認められない船舶として国土交通省令の定めるもの


「労働者性」は有していても、
労働基準法を適用しない方達です。

船員は、
物理的に特殊な労働環境のため、船員法に従うのでしょう。

ただし、
小規模な船舶は船員法の対象外となるため、
労働基準法の適用を受けます。

同居の親族のみを使用する事業とは、
家族経営の自営業であり、法人、個人を問いません。
24時間休まず働いても公法上は問題ないはずです。

家事使用人とは、
家事一般に使用される労働者です。
「逃げるは恥だが役に立つ」のみくりさんは家事使用人に該当します。
一方で、
個人家庭における家事を事業として請負う者に雇われて、
その指揮命令のもとに当該家事を行う者は家事使用人に該当しません。





(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により
労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、
その時間又はその日の労働については、
通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内で
それぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
ただし、
当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、
その超えた時間の労働については、
通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した
割増賃金を支払わなければならない。



附則
第百三十八条 中小事業主(省略。後述する。)の事業については、
当分の間、第三十七条第一項ただし書の規定は、適用しない。



改正法附則
(施行期日)
第一条この法律は、平成三十一年四月一日から施行する。
ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

三 労働基準法第百三十八条の改正(削除)規定 平成三十五年四月一日



(時間外及び休日の労働に係る協定に関する経過措置)
第二条 労働基準法第三十六条の規定
(第百三十九条第二項、第百四十条第二項、第百四十一条第四項
及び第百四十二条の規定により読み替えて適用する場合を含む。)は、
平成三十一年四月一日以後の期間のみを定めている協定について適用し、
同年三月三十一日を含む期間を定めている協定については、
当該協定に定める期間の初日から起算して一年を経過する日までの間については、
なお従前の例による。



(中小事業主に関する経過措置)
第三条 中小事業主の事業に係る協定
(第百三十九条第二項に規定する事業、第百四十条第二項に規定する業務、
第百四十一条第四項に規定する者及び第百四十二条に規定する事業に係るものを除く。)
についての前条の規定の適用については、
「平成三十一年四月一日」とあるのは、「平成三十二年四月一日」とする。


中小企業限定の激変緩和措置(適用猶予)です。

「36協定における限度時間、上限時間」の規定は
平成32(2020)年4月1日から、
「時間外労働が月60時間超の場合、割増率を5割に」の規定は
平成35(2023)年4月1日から、
中小企業にも適用されます。



「中小事業主」の定義は、下表のとおり。


事業の種類

資本金の額又は出資の総額

常時使用する労働者の数

下記以外の事業

三億円以下

三百人以下

小売業

五千万円以下

五十人以下

卸売業

一億円以下

百人以下

サービス業

五千万円以下

百人以下

※「資本金の額又は出資の総額」、「常時使用する労働者の数」
のどちらか一方が該当すればよい。





第百三十九条 工作物の建設の事業(災害時における復旧及び復興の事業に限る。)
その他これに関連する事業として厚生労働省令で定める事業に関する
第三十六条の規定の適用については、
当分の間、
同条第五項中
「時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)」
とあるのは「時間」と、
「同号」とあるのは「第二項第四号」とし、
同条第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は適用しない。

A 前項の規定にかかわらず、
工作物の建設の事業その他これに関連する事業として
厚生労働省令で定める事業については、
平成三十六年三月三十一日
(同日及びその翌日を含む期間を定めている第三十六条第一項の協定に関しては、
当該協定に定める期間の初日から起算して一年を経過する日)までの間、
同条第二項第四号中「一箇月及び」とあるのは、
「一日を超え三箇月以内の範囲で前項の協定をする使用者
及び労働組合若しくは労働者の過半数を代表する者が定める期間並びに」とし、
同条第三項から第五項まで及び第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)
の規定は適用しない。



施行規則
第六十九条 法第百三十九条第一項及び第二項の
厚生労働省令で定める事業は、次に掲げるものとする。

一 法別表第一第三号に掲げる事業

二 事業場の所属する企業の主たる事業が
法別表第一第三号に掲げる事業である事業場における事業

三 工作物の建設の事業に関連する警備の事業
(当該事業において労働者に交通誘導警備の業務を行わせる場合に限る。)



法別表第1
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体
又はその準備の事業


建設業は、
改革法前の限度基準において適用除外業務とされており、
それが法附則に引き継がれたということになります。

ただし、
「災害時における復旧及び復興の事業」を除いては、
平成36(2024)年3月31日までの適用猶予になってしまいました。

この対象者をわかりやすく説明するならば、
建設現場で働く建設労働者並びに交通誘導員
および建設会社のその他の労働者
(事務員でもOK、建設会社が運営するコンビニの店員でもOK)といえましょう。

この適用除外に該当すると、
36協定の危険有害業務の規制を除く
すべての限度時間、上限時間規定が適用されません。

ただし、
災害時における復旧及び復興の事業の場合、
平成36(2024)年4月1日以降も当分の間、
「1月の時間外労働100時間未満」と「複数月平均で1月当たりの時間外労働80時間以内」
の規定に限って適用されません。





改革法前の限度基準には規定されていませんでしたが、
今回の改革法により
第142条に医業に従事する医師の適用除外規定が新設されました。

詳細は、
「医師の働き方改革に関する検討会における結論を踏まえて措置する」
とされており、
平成30年9月7日の施行規則には記述がありません。

今後に注目ということになります。





この適用除外に該当すると、
平成36(2024)年3月31日まで、
「1月の時間外労働100時間未満」と「複数月平均で1月当たりの時間外労働80時間以内」
の規定に限って適用されません。



トップページへ戻る。