『ユーチューバーとして生きて行くから、今年いっぱいで会社を辞めたい。』 と社員が自己都合退職を申し出てきたとします。 やる気のなくなった社員に怪我でもされては困ると考え、 社長であるあなたは社員と話し合ったうえで、 1月前倒しして11月末で辞めてもらうことにしたとしましょう。 この場合、 考え方によっては、 「自己都合退職」ではなく、 「退職勧奨」や「解雇」になる可能性 があるのでご注意ください。
【自己都合退職とは何か?】 いわゆる「自己都合退職」とは、 退職=社員側の一方的な意思表示による労働契約の解消 の一類型であると言えます。 期間の定めのない労働契約下において、 社員に強い退職の意思があった場合、 会社は退職のタイミングについて交渉することは可能ですが、 交渉が決裂した場合、 たとえ、就業規則に 「退職希望日の1か月前までに申し出ること。」 と規定してあったとしても、 法的には民法の規定の方が優先されるため、 原則として、 退職の意思表示があった日から2週間経過後 は引き留めることはできません。 労働者側の都合による労働契約を解消する権利は、 法律によって強力に保護されているんです。
【退職勧奨とは何か?】 それでは、 「退職勧奨」とはどういうものかというと、 会社が社員に対して自己の意思で退職することを促す行為 と言えます。 具体的には、 自社の業務について著しく適性を欠く特定の社員に退職を促す場合や 退職条件を設けた上で、社内に早期退職を希望する者を募る場合等が 該当します。 会社の退職勧奨に応じて、 社員が自己の意思で労働契約の解消をした場合、 それは「会社と社員の合意による退職=合意退職」 ということになります。
【労務管理上の違い】 労務管理上、 自己都合退職と 退職勧奨による退職とでは、 どのような違いがあるのでしょうか? 自己都合退職は、 法律によって権利を保障されているため 会社の同意は必須条件ではありません。 自己都合と自己責任はほぼ同義なので、 自己都合退職は、労務管理上のリスクが低い と言えます。 一方、 退職勧奨による退職は、 その性質上、必ず合意退職になります。 合意退職であれば、労務管理上のリスクは低いと言えますが、 実質的に社員が拒否できないような「名ばかり退職勧奨」である場合、 会社のその行為は、退職勧奨の名を借りた解雇であるといえます。 解雇ということになると、 社会通念上相当な理由がない場合、 その労働契約の解消そのものが無効ということになるで 退職勧奨は、慎重に行わなければなりません。 退職勧奨は、言い方、伝え方が重要 ということを肝に銘じてください。
【雇用保険法上の違い】 雇用保険は、 失業=働きたいけど働けていない人に対して様々な給付を行うこと を主目的としています。 雇用保険としては、 できれば失業状態になってほしくないので、 失業状態を引き起こした者に対しては 不利益な取り扱いをすることがあります。 正当な理由なき自己都合退職の場合、 失業状態を引き起こした者は失業者当人なので、 いわゆる失業手当の支給開始が遅くなる等の 不利益が発生することがあります。 一方、 退職勧奨による退職の場合、 失業状態を引き起こした者は、退職勧奨した会社である ⇒会社都合による解雇等という取り扱いとなり、 会社は雇用関係の助成金を一定期間申請できなくなる等の 不利益が発生することがあります。
【事例をどう考えるか?】 今回の事例の問題点は、 12月末での自己都合退職の申し出に対して、 話し合いの結果、退職時期を11月末に1ヶ月前倒しに変更したこと が退職勧奨に該当する恐れがあるという点です。 事例では前倒しと言っても1ケ月程度なので 自己都合退職の時期の変更という取り扱いでよいと考えますが、 これは感覚的なもので、絶対的な基準があるわけではありません。 労務管理上は、 今回の自己都合退職が、仮に退職勧奨になったとしても、 それはあくまで合意退職であり、解雇ではないので、 リスクは低いのですが、助成金申請に不利益が生じることになります。 ただし、 自己都合退職の申し出があったその日に即日退職させたとなると、 それは退職勧奨を通り越して、解雇となる可能性もあるので要注意です。
今回、伝えたかったことをまとめると、以下の3つ。 ・退職勧奨による労働契約の解消は合意退職であり、解雇ではない。 ・名ばかり退職勧奨は解雇となる場合があるので、言い方・伝え方は慎重に。 ・雇用保険法では、退職勧奨は会社都合による解雇等に分類されるので注意が必要。 |