「2022年に生まれた子どもの数が、

1899年の統計開始以来初めて80万人を下回り、

過去最少になった。」というニュースが流れました。

 

企業の若年者採用は、年々厳しくなる一方ですね。

 

若年者採用に代わる労働力確保策として、

高年齢者の雇用を増やそうと考える企業では、

既存社員を雇い続けるために定年の延長や再雇用

をするだけでなく、新たな高年齢者を中途採用する

こともあろうかと思います。

 

高年齢者は、新卒の若者や中高年齢層と比較して

どうしても健康問題が発生する可能性が高いことから、

採用選考時に健康状態を確認することが重要となります。

 

さて、唐鎌は前職でガテン系職種の管理者として、

高年齢者の採否を決定する立場だったのですが、

「採用選考時に健康診断を実施することは望ましくない。」

と妄信しており、健康診断をせずに採用を決定していました。

 

しかしその結果、とある高年齢者を採用したところ、

入社後の健康診断で超高血圧であることが発覚したため、

現場でぶっ倒れる前に速攻で合意退職していただいた

というにがい経験があります。

 

そこで今回は、自身の積年の課題でもある

採用選考時の健康診断について考えてみたいと思います。

 

※今回のテーマは、弁護士石嵜伸憲編著

「労働行政対応の法律実務【第2版】(中央経済社)」

を参考にさせていただきました。

 

 

【採用選考時に健康診断をしてもよい】

司法(≒裁判所)の見解では、

「企業は、法律その他による特別の制限がない限り、

どのような労働条件でどのような者を雇用するか?

を自由に決定することができる。」としており、

採用選考時の健康診断の必要性も肯定しています。

 

ただし、

合理的な理由のない健康診断を行った場合、

プライバシー侵害として、民事上の不法行為を問われる

ことになるので、健康診断の内容・範囲に注意が必要です。

 

また、

健康診断結果は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」

に該当するため、会社が診断結果を取得するためには、

本人の同意を得る必要があることになります。

 

この同意が得られない場合、会社(採用側)としては、

「取得されては困るような内容だったのでは?」

と考えますので、取得に同意する応募者を採用する

方向に考えるのは当然であり、違法ではないでしょう。

 

 

【採用選考時の健康診断と雇い入れ時のそれは別モノ】

「会社は、常勤の社員を雇い入れるときは健康診断をせよ。」

と労働安全衛生法に書いてあり、これを

「雇い入れ時の健康診断」と呼んだりします。

 

雇い入れ時の健康診断は、

採用が確定した後、入社時に行う必要があるので、

応募段階で雇い入れ時の健康診断をしていると、

労働基準監督官によっては、指導や是正勧告が行われる

ことがあるので注意が必要です。

 

採用選考時の健康診断と雇い入れ時の健康診断は

まったくの別モノとして取り扱いましょう。

 

雇い入れ時の健康診断は、

入社前3ヶ月以内に受診した健診結果の提出を受ければ、

省略することができることになっています。

 

新卒採用の場合、

採用選考から入社するまで3ヶ月以上間隔が空く

ことも普通なので、採用選考時に健康診断をしていても

入社時に改めて健康診断をすべきでしょう。

 

一方、中途採用の場合は、

採用決定後、即入社することが一般的でしょうから、

採用選考時の健康診断の内容が、雇い入れ時の健康診断

の範囲以上であれば、改めて行う必要はないでしょう。

 

採用選考時の健康診断と雇い入れ時の健康診断の違いを

まとめると以下のとおり。

●健康診断の内容・範囲
・採用選考時:職種や業務内容に応じた合理的・客観的に必要性が認められる範囲
・雇い入れ時:労働安全衛生規則第43条に定められている範囲

●健診結果の取得
・採用選考時:本人の同意が必須
・雇い入れ時:労働安全衛生法に基づくので、本人の同意は不要

●健診費用の負担
・採用選考時:応募者がナットクすれば応募者負担としてもよい
・雇い入れ時:労働安全衛生法に基づくものは、会社が全額負担

 

 

厚生労働省のホームページ「公正な採用選考の基本」

には、合理的・客観的に必要性が認められない

採用選考時の健康診断の実施は、就職差別につながる

おそれがあるので注意してね!と書いてあります。

 

採用選考時の健康診断は、安易に実施すべきではありませんが、

採用のミスマッチを防止するだけでなく、

応募者自身も現在の体調を確認をでき、本人のためにもなる

と思います。

 

特に高年齢者を中途採用する場合は、

採用選考時の健康診断をすることをオススメします。



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