ここでは、
労働時間、時間外労働および休日労働
に関する規制を概観してみる。

※唐鎌謹製、「労働時間規制一覧表」はこちら

法定労働時間(労働基準法第32条)

法定休日(労働基準法第35条)

時間外労働および休日労働(労働基準法第36条)

割増賃金(労働基準法第37条)

長時間労働に起因する労働災害認定基準
「労災保険法「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」
および「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」


長時間労働者への医師による面接指導





以下では特に記載がない限り、
平成30年6月29日に成立した
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下、改革法)
を反映した法令を元に考察する。





(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き
一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、 休憩時間を除き
一日について八時間を超えて、労働させてはならない。


労働基準法では、本来的には
「労働時間は、週40時間、1日8時間を超えてはならない。」
という極めてシンプルな規制を設けているだけである。

この、「週40時間、1日8時間」が
いわゆる「法定労働時間」である。



厚生労働省労働基準局編(2011)「労働基準法」労務行政
(以下、労働基準法コンメンタール)P396

本条では、
第1項で週の法定労働時間を規定し、
第2項で1日の法定労働時間を規定している。

労働時間規制のあり方として、
1週間単位の規制を基本として、
1日の労働時間は1週間の各日に割り振る場合の上限として
考えていくことが適当であるとの考えによるものである。

労働時間規制の考え方は、
当初は1日単位の過重な労働時間の規制が基本とされてきたが、・・・
次第に週単位の規制に重点を置いて考えられるようになった。


たしかに、
昭和22年の労働基準法制定時の第32条第1項は、

使用者は、労働者に休憩時間を除き1日について8時間、
1週間について48時間を超えて労働させてはならない。

としており、
現行法と日と週の記述の順番が逆転しており、
重点の変化が見て取ることができる。

法文上、
週の上限が40時間になったのは昭和62年の労働基準法改正時だが、
経過措置が設けられたため、
全面適用(特例事業を除く)になったのは、施行から9年後の平成9年である。

労働時間に関する解釈例規としては、以下がある。


一週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、
日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。

また、一日とは、
午前〇時から午後一二時までのいわゆる暦日をいうものであり、

継続勤務が二暦日にわたる場合には、
たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、
当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、
当該日の「一日」の労働とするものであること。
(昭和六三年一月一日 基発第一号、婦発第一号)


法定労働時間を厳守するのが困難な場合に
用いる事ができる合法的労働時間規定は、以下のとおり。

●第32条の2:1カ月(以内)単位の変形労働時間制
※ちなみに、昭和22年の労働基準法制定当時に認められていた変形労働時間制は、
第32条第2項に規定されていた1カ月単位の変形労働時間制のみであった。

●第32条の3:フレックスタイム制

●第32条の4:1年(以内)単位の変形労働時間制

●第32条の5:1週間単位の非定型的変形労働時間制

●第33条:天災事変その他これに準ずる事由または公務による臨時的時間外労働

●第36条:いわゆる36協定(詳細は後述。)

●第40条:労働時間の特例
 ・零細規模の商業・サービス業(施行規則第25条の2):週44時間までOK
 ・運輸交通業の予備勤務員(施行規則第26条):無条件による1カ月単位の変形労働時間制の適用


上記の合法的労働時間規定に拠らず、
第32条に違反する=法定労働時間を超えて労働者を働かせると、
第119条により罰則が適用され、
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が使用者に課される恐れがある。





(休日)
第三十五条 使用者は、労働者に対して、
毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。

2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日
を与える使用者については適用しない。


改革法前の法令では、
時間外労働と休日労働は労災認定時を除いて合算する機会がなかったが、
改革法による36条では
休日労働時間を含んで延長できる労働時間の上限を設定するようになったため、
合算する機会が出てきた。

法定休日は就業規則等で特定されていれば明確であるが、
特定されていない場合、
「この週の法定休日はどの日か?」という問題が発生し、
簡単そうで非常に難しい奥の深い問題であると考えている。

法定休日に関する解釈例規等としては、以下がある。

●法定休日は、交代勤務および旅館業の例外を除き、
必ず0時〜24時でなければならなく、連続24時間ではダメ。
(昭和23年4月5日 基発535号他)

●法第35条は必ずしも休日を特定すべきことを要求していない。
(昭和63年3月14日 基発150号)

●毎週1回は必ず休日が与えられなければならないのだから、
暦週の日曜日から土曜日までの間に1回も休日がない場合は、
週の最終日の土曜日を休日(法定休日)とみなすのが妥当と判断された。
(東京地判平20・1・28、日本マクドナルド事件)

●土曜日と日曜日を休みとする週休2日制で、
法定休日を特定していなかった会社について、
暦週の後順の土曜日が法定休日だとした会社側に対して、
「旧来からの休日である日曜が法定休日である
と解するのが一般的な社会通念に合致する」として、
日曜日を法定休日とした事例もある。
(東京地判平23・12・27、HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド賃金等請求事件)。





労働基準法第36条は、
改革法により大幅に加筆・修正されました。

改革法後の第36条の条文はこちら

労働時間に関する変更点は3つに大きく分けられます。

●特別条項を設けずに延長できる限度時間を法律に明記

●特別条項により延長できる上限時間を設定し、法律に明記

●36協定の内容にかかわらず、時間外労働の上限を設定し、罰則付きで法律に明記



【限度時間が、基準(上限の目安)から法律(絶対的上限)に格上げされた】

すなわち、
「時間外労働は、1ヶ月45時間以内かつ1年間360時間以内(いずれも休日労働含まず)」
というルールが、今までの基準(告示)から法律に強化されたということですね。

改革法前の36条第3項には、
36協定を締結する際、
限度基準に適合したものとなるようにしなければならない。」
と規定されていました。

この「限度基準」とは、
「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の限度等に関する基準
(平成10年労働省告示第154号)」のことです。

限度基準で定める限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない場合、
タテマエでは、
特別条項つき36協定を締結しなければなりません。

しかし、
基準は告示であり、告示は法令の1種ですが、罰則の規定がありません。

したがって、
特別条項を設けずに限度時間を超える延長時間を定めた36協定を締結しても、
罰則の適用はありません。

※「延長時間が限度時間を超えている時間外労働協定の効力如何。」
という問いに対して、
「延長時間が限度時間を超えている時間外労働協定も直ちに無効とはならない。
なお、
限度時間を超える時間外労働の業務命令については、
合理的な理由がないものとして民事上争い得るものと考えられる。
(平成11年3月31日 基発169条)」
という通達があり、民事上のリスクは一定程度ありますが・・・。



実際のところ、
限度時間が守れないような場合でも、
多くの企業では限度時間以内の延長時間を定めた
36協定を締結・運用していたと思います。

これはもちろん100%違法行為です。

罰則を免れるという観点では、
監督署にどんなに目をつけられようとも、
「限度時間は超えてるけど、実際に収めることができる延長時間」
を定めた36協定を締結すべきだと思います。

ですが、
今回の改革法により、限度時間が法律になったことにより、
限度時間を超える36協定は締結することができなくなりました。



【特別条項も基準ではなく法律に格上げされ、今までなかった上限時間が設定された】

改革法前の限度基準には、
特別条項による延長時間の上限が明示されていませんでしたが、
今回の改革法により、
1月100時間未満(休日労働時間を含む)、
1年間720時間以内(休日労働時間を含まず)
という明確な上限時間が設けられたのです。

限度時間を超える36協定は締結することができなくなったため、
改革法施行後は特別条項つき36協定を締結するしかありません。

しかも、
今までなかった上限時間が設定されたため、
青天井で労働時間を延長することはできなくなりました。

さらには、
1月100時間未満には休日労働時間を含むけど、
1年間720時間以内には含まない、
「未満」と「以内」、「休日を「含む」と「含まない」が混在しており、
非常にややこしいいルールになっています。



「通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い・・・」
というキーワードも気になります。

たとえば、
「毎年決算時期に必ず業務量が大幅に増加する場合は、
通常予見できるので、特別条項を適用できない。」
のでしょうかね???

また、
通常予見できないにもかかわらず、
指針では
「臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合を
できる限り具体的に定めなければならない」
としており、矛盾を感じます。

「通常予見できないけど具体的に予見した内容を協定書に書き込め!」
ってことですからね〜。



【第36条に新たな労働時間規制が罰則付きで設けられた】

実は改革法前の労働基準法第36条には罰則の適用がありませんでした。

だからといって、
もちろん好き放題残業ができたわけではなく、
第36条違反=第32条違反となるため、
第119条により罰則が適用され、
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっていました。

今回の改革法では、
36協定の内容にかかわらず、
時間外労働は1月100時間未満、
2〜6ヶ月間の1月平均80時間以内(共に休日労働時間を含む)
という新たな労働時間規制が罰則付き(第119条)で設けられました。

この規制は、
特別条項の有無には関係なく、36協定を締結するとイモ蔓式に憑いてきます。

「長時間労働に起因する労働災害認定基準」
を踏まえての規定だと思われますが、
労働基準法36条での労働時間の積算方法と労災認定時の積算方法は、
まったくの別物なので注意が必要です。





割増賃金は、
労働するタイミングによって加算される賃金であり、
使用者側から見れば罰金的な性質ももち、
労働者側から見れば通常の給料に上乗せされる報奨金的性質を持つ賃金である。

割増賃金が発生するタイミングと割増率は、
下表のとおりである。

種別

発生するタイミング

割増率

時間外労働

1日8時間超の労働

0.25

1週40時間超の労働

0.25

1月60時間超の労働

0.50

休日労働

休日0時〜24時の労働

0.35

深夜労働

22時〜6時の労働

0.25

※深夜労働のみ時間外・休日労働と併用可能

割増賃金に関する解釈例規としては、以下がある。

●法定休日である日の午前0時から午後12時までの時間帯に労働した部分が
休日労働となる。

したがって、
法定休日の前日の勤務が延長されて法定休日に及んだ場合
及び法定休日の勤務が延長されて翌日に及んだ場合
のいずれの場合においても、
法定休日の日の午前0時から午後12時までの時間帯に労働した部分が
3割5分以上の割増賃金の支払を要する休日労働となる。
(平成6年5月31日基発331号)

※ただし、
この場合でも「継続勤務が二暦日にわたる場合」の規定は適用されるので、
始業時刻の属する日の労働時間としてカウントすることに変わりはない。


●翌日の所定労働時間の始期までの超過時間に対して、
法第37条の割増賃金を支払えば、法第37条の違反にはならない。
(S26.2.26基収3406号、S63.3.14基発150号、H11.3.31基発168号)

※この場合、
翌日の始業時刻以降は、
新たな一勤務の労働が開始されたと解釈すべきなのだろうが、
「継続勤務が二暦日にわたる場合」の規定を適用し、
割増賃金は支払わないが前日の労働が相変わらず継続していると解釈する余地もある。
通達全文を読んだわけではないが、
この通達は37条違反にならないと言っているだけの可能性もある。





過労死等の労災認定基準です。

脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準はこちら
精神障害等の労災認定に関する関係通達はこちら

以下に
「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」
から労働時間に関する部分を抜粋します。



 (3) 長期間の過重業務について
エ 過重負荷の有無の判断

(イ) 業務の過重性の具体的な評価に当たっては、
疲労の蓄積の観点から、
労働時間のほか前記(2)のウの(ウ)のb からg までに示した
負荷要因について十分検討すること。

その際、
疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に着目すると、
その時間が長いほど、業務の過重性が増すところであり、
具体的には、発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて、

@ 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、
1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、
業務と発症との関連性が弱いが、
おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、
業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること

A 発症前1か月間におおむね100時間
又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、
1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、
業務と発症との関連性が強いと評価できること

を踏まえて判断すること。

ここでいう時間外労働時間数は、
1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。


また、
休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり、
逆に、
休日が十分確保されている場合は、疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。


36協定の新たな労働時間規制
(時間外労働は1月100時間未満、
2〜6ヶ月間の1月平均80時間以内(共に休日労働時間を含む))
の原点であると考えられますが、
その積算方法は、まったくの別物なので注意が必要です。



精神障害による労災認定の積算方法は、
脳血管疾患及び虚血性心疾患の場合と同じです。

積算結果が、以下に該当する場合、
時間外労働による心理的負荷の程度が「強」と判定されます。

●発症直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った。

●発症直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った。

●発症直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った。

●発症直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った。







労働安全衛生法
(面接指導等)
第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が
労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、
厚生労働省令で定めるところにより、
医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、
これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。)
を行わなければならない。



労働安全衛生規則
(面接指導の対象となる労働者の要件等)
第五十二条の二 法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、
休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合における
その超えた時間が一月当たり八十時間を超え
かつ、
疲労の蓄積が認められる者であることとする。

ただし、
次項の期日前一月以内に法第六十六条の八第一項
又は第六十六条の八の二第一項に規定する面接指導
を受けた労働者その他これに類する労働者であつて
法第六十六条の八第一項に規定する面接指導
(以下この節において「法第六十六条の八の面接指導」という。)
を受ける必要がないと医師が認めたものを除く。

2 前項の超えた時間の算定は、
毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。

3 事業者は、第一項の超えた時間の算定を行つたときは、
速やかに、同項の超えた時間が一月当たり八十時間を超えた労働者に対し、
当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない


使用者は、
「休憩時間を除き一週間当たり40時間を超えて労働させた場合
におけるその超えた時間が一月当たり80時間を超え、
かつ、疲労の蓄積が認められる者」に対して
医師による面接指導を行わなければなりません。

※改革法により、判定基準が
「100時間超え」から「80時間超え」に引き下げられました。

労災認定の場合も医師の面接指導の場合も
総労働時間に着目して時間外労働を積算しますが、
労災認定が、
1週間ずつの総時間外労働と法定労働時間(40時間)
の差分を加算していく(4週分+2日間)のに対して、
面接指導は、
1か月間の総労働時間から1か月間の総法定労働時間
を差し引いて判定するという違いがあります。



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