社会保険の実務を勧める上で避けて通れない概念

の1つとして、「(賃金・報酬)支払基礎日数」

があります。

支払基礎日数は、

雇用保険のいわゆる失業手当の受給要件を判定する際や

社会保険(健康保険および厚生年金保険)の標準報酬

月額を決定する際に重要な数値です。

失業手当の受給要件を判定する際は、

1月間に11日以上支払基礎日数がないとちゃんと

働いた月(被保険者期間)として扱ってくれません。

また、標準報酬月額を決定する際は、

1月間に17日以上支払基礎日数がないとその月の

報酬月額を除いて標準報酬月額が決定されます。

 

このように重要な概念である支払基礎日数ですが、

月給制の場合、よ〜く考えてみると実は奥が深い

というジジツに気が付きました。

そこで、ここでは、

「月給制は4種類ある。」という目からウロコの事実と、

それに応じた賃金支払基礎日数の算定方法について

以下の事例を通して考えてみたいと思います。

※これ以降、「社会保険」という言葉は、

健康保険および厚生年金保険を意味するものとします。

【事例】

以下の労働条件および勤務実績の場合に
支払うべき賃金額およびその支払基礎日数は何日か?

月給:30万円
9月の暦日数:30日(9月1日〜30日)
9月の所定労働日数:20日(土日祝日は休日)
9月の欠勤日数:10日(体調不良のため)

・支払基礎日数とは?その定義について

・月給制は、詳細に分類すると4種類ある

・事例検証

 

 

【支払基礎日数とは?その定義について】

支払基礎日数を一言で表現するならば、

「賃金の支払いの基礎となった日数」となる。

雇用保険と社会保険では微妙にその取扱いルールが

異なり、月給制の場合、以下のとおり解説されている。

●雇用保険(業務取扱要領21454(4)イ ニ) c (b)より)
・月間全部を拘束する意味の月給制の場合
⇒支払基礎日数=暦日数

・日曜、休日を除いた期間(≒所定労働日数)に
対する給与としての月給の場合
⇒支払基礎日数=その期間(≒所定労働日数)

・欠勤控除される場合
⇒支払基礎日数=その控除後の賃金に対応する日数

 

●社会保険(平成18年5月12日 庁保険発第0512001号より)
・原則
⇒支払基礎日数=暦日数

・欠勤控除される場合
⇒支払基礎日数=就業規則、給与規程等に基づき
事業所が定めた日数から欠勤日数を控除した日数

 

 

【月給制は、詳細に分類すると4種類ある】

月給制とは、

「1月間働いたらなんぼ。」という賃金決定方式であるが、

欠勤控除の有無により、完全月給制と日給月給制に大別される。

●完全月給制
欠勤しても賃金が減額されず定額が支払われる方式。

役職者など上級社員に適用される場合がある。

完全月給制は休日出勤した場合の取り扱いによって、

以下の2パターンに細分される。

・パターン1
所定休日に出勤した場合、別途休日出勤手当を支払う。
⇒休日出勤手当を支払う=休日は月給の支払い対象ではない。
⇒賃金支払対象日数=所定労働日数+休日出勤日数

・パターン2
所定休日に出勤しても、休日出勤手当は支払わない。
⇒休日出勤手当を支払わない=休日も月給の支払い対象である。
⇒賃金支払対象日数=暦日数

 

●日給月給制
欠勤した場合、賃金が日割り計算により減額される方式。

一般社員に広く適用されている。

日割り計算方法により、以下の2パターンに細分される。

・パターン3
欠勤した場合、所定労働日数を基準として、欠勤控除する。
⇒所定労働日数を基準=休日は月給の支払い対象ではない。
⇒賃金支払対象日数=所定労働日数−欠勤日数

・パターン4
欠勤した場合、暦日数を基準として、欠勤控除する。
⇒暦日数を基準=休日も月給の支払い対象である。
⇒賃金支払対象日数=暦日数−欠勤日数

 

 

【事例検証】

事例の月給制が上記4パターンのどれに該当するか?

により、支払うべき賃金とその支払基礎日数が変化する。

●パターン1(完全月給制+休日は月給の支払い対象ではない。)
・支払うべき賃金=30万円
・雇用保険の支払基礎日数=所定労働日数+休日出勤日数=20日
・社会保険の支払基礎日数=暦日数=30日

●パターン2(完全月給制+休日も月給の支払い対象である。)
・支払うべき賃金=30万円
・雇用保険の支払基礎日数=暦日数=30日
・社会保険の支払基礎日数=暦日数=30日

●パターン3(日給月給制+休日は月給の支払い対象ではない。)
・支払うべき賃金=15万円(所定労働日数の半分を欠勤しているため)
・雇用保険の支払基礎日数=所定労働日数−欠勤日数=10日
・社会保険の支払基礎日数=所定労働日数−欠勤日数=10日

●パターン4(日給月給制+休日も月給の支払い対象である。)
・支払うべき賃金=20万円(暦日数の3分の1を欠勤しているため)
・雇用保険の支払基礎日数=暦日数−欠勤日数=20日
・社会保険の支払基礎日数=暦日数−欠勤日数=20日

 

世の中には

社会保険の実務参考書が多数出版されていますが、

月給制で欠勤した場合の支払基礎日数の計算方法が、

異なる回答が記載されており、

長い間、労働法オタク内で論争のタネになっていました。

今回の気付きにより、

その論争に一応の説明がついたと考えています。





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