新型コロナウイルスや新型インフルエンザ等が原因

で社員を休業させた場合、会社は休業手当を支払う

べきなのでしょうか?



※令和2年3月15日現在の法令に基づいて記述しているため、

政令等の改正があった場合は、雇用調整助成金等の内容が

変わっている可能性があるので、ご注意ください。





【そもそも、休業手当とは何か?】

【休業手当を支払えば、丸く収まるとは限らない。】

【休業手当は、就業規則に規定しておくべきか?】

【休業手当は、実は思ったよりも安い?】

【新型コロナが原因の休業の場合、助成金が出る可能性大】





【そもそも、休業手当とは何か?】

社員が二日酔いが理由で欠勤した場合のように、

社員側の事情による不就労については、会社に

給料の支払い義務は当然ですがありません。

このような考え方を労働法の世界では、

「ノーワークノーペイの原則」と言います。

ノーワークノーペイの原則は、

社員から労務の提供を受けなかったときは、

会社は社員に給料を支払う義務はない。

という程度の意味を持ちます。

それでは、

社長が二日酔いのため会社が臨時休業になった場合

はどうなるでしょうか?

会社側の事情による不就労の場合にも、

ノーワークノーペイの原則が適用されてしまうと、

お給料で生活している社員はとっても困って

しまいます。

そこで、

労働者の味方である労働基準法では、

労働基準法第26条(休業手当)
使用者(≒会社)の責に帰すべき事由による休業の
場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、
その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければ
ならない。

と規定し、

一定額以上の給料の支払いを会社に強制しています。

この「平均賃金の60%以上の手当」のことを、

「休業手当」と言います。

 

 

【休業手当を支払えば、丸く収まるとは限らない。】

社員を休ませたら、休業手当の最低額=平均賃金の

6割を支払っておけば大丈夫♪と思い込んでいる

経営者を見かけることがありますが、それは誤解です。

なぜなら、

たとえ6割の休業手当を支払ったとしても、社員を

休ませたことが完全にチャラになることはなく、

民法第536条第2項の規定により、給料の全額

を支払わなければならない義務は依然として残る

可能性があるからです(請求権競合)。

民法第536条第2項(債務者の危険負担等)
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行する
ことができなくなったときは、債権者は、反対給付の
履行を拒むことができない。(以下省略。)


これを意訳すると、

会社の責任に帰すべき事由によって、社員が働きたくても
働けなかったときは、会社は給料を支払うことを拒否
することができない。

となります。

この民法の規定を踏まえると、

会社は「休業手当を払ってやるから、感謝しろよ!」

とふんぞり返るのは大きな間違いであり、

「休業手当はちゃんと支払わせていただくので、給料

全額の支払いは勘弁してね。」という考えが正しいの

かもしれません。

 

 

【休業手当は、就業規則に規定しておくべきか?】

民法第536条第2項による全額支払いのリスクを避ける

方法はないのでしょうか?

 

●就業規則に、休業手当を支払う旨を明示した場合

民法第536条第2項の規定は、労働基準法で別途、

休業手当を規定していることを考慮すると、任意規定

であると考えられます。

就業規則に、

「会社の責に帰すべき事由により社員を休業させる
場合は、休業手当として平均賃金の100分の60を
支給する。」

とキッチリ明確に規定したとしましょう。

この場合、

会社と社員は、休業手当の支給率について民事上の

合意をしたものと考えることが可能です。

その結果、

任意規定である民法第536条第2項よりも、個別の

契約内容である就業規則が優先されることになり、

全額支払いを回避しやすくなります。

さらに、

支給率を、労働基準法の最低率である60%ピッタリ

ではなく、65%とか70%としておくと、民事上の合意

であることがより明白となり、望ましいと考えられます。

 

●就業規則に、労働基準法の準用規定がある場合

就業規則に、

「この規則に定めのない事項については、労働基準法
その他の関係法令の定めるところによる。」

と規定しておき、休業手当は個別に規定しない場合

が該当します。

この場合、

「休業手当は、平均賃金の60%以上とする。」という

民事上の合意をしたものと考えられます。

「支給率は60%以上」というあいまいな合意なので、

休業手当の支給事由が発生する度に、労使協議の上

支給率を決定する必要があり、あまり適切ではない

と考えられます。

 

●就業規則に、労働基準法の準用規定すらない場合

この場合は、

任意規定である民法第536条第2項が有効である

ことになり、給料全額の支払いを拒否できないと

なる可能性が高くなり、非常に危険です。

 

 

【休業手当は、実は思ったよりも安い?】

休業手当=給料の6割=支払うのは結構キツイと、

経営者は思いがちですが、実際のところどうなの

でしょうか?

以下の事例で検証してみます。

●所定休日
土日(完全週休2日制)および祝日

●所定労働日数
2020年2月:18日(暦日数:29日)
2020年3月:21日(暦日数:31日)
2020年4月:21日(暦日数:30日)
2020年5月:18日(暦日数:31日)

●賃金(いずれも月額)
基本給:30万円
家族手当: 3万円
通勤手当: 3万円
固定残業代:6万円

この労働条件の場合、

5月に休業させた場合に支払うべき休業手当の日額

は最低いくらでしょうか?

休業手当=平均賃金の6割以上なので、平均賃金が

計算できれば、休業手当の最低額も計算できます。


平均賃金とは、

算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその
労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の
総日数で除した金額

と定義されています。

事例の場合、

1月間の給料は、30+3+3+6=42万円なので、

「以前三ヶ月間に支払われた賃金の総額」は、

42万円×3月間=126万円となります。

「その期間の総日数」は、2〜4月の暦日数なので、

29+31+30=90日となります。

したがって、5月の平均賃金は、

126万円÷90日=14,000円となります。

以上より、休業手当の最低額は、

14,000円×60%=8,400円となります。

5月が完全休業だった場合に支払うべき休業手当の

最低額は、5月の所定労働日数が18日なので、

8,400円×18日=151,200円です。

この金額は、月の総支給額42万円の36%でしか

ありません。当初想像していた額よりも安くないですか?

 

余談ですが・・・、

休業手当は休業させた日に対して支給されるので、

所定労働日数と休業手当の総支給額は比例関係にある

と言えます。

「平均賃金の60%以上」という支給率は、労働基準法

が昭和22年に誕生した当初から、変わっていません。

当時(昭和23年)は、

週休1日が当たり前であり、祝日も年間9日(2020年

は16日)しかない時代だったため、所定労働日数

は現代より多く、月間25日出勤もざらだったでしょう。

もし、

5月の所定労働日数が25日だった場合、休業手当は、

8,400円×25日=210,000円となり、

月の総支給額42万円のちょうど50%に相当します。

これより、

労働基準法施行当時の休業手当の支給水準は、月の

総支給額の50%程度は確保できていたことが分かり

ます。

国の政策として、

休業手当の支給額を通常の給料の50%程度を確保

したいのであれば、所定労働日数の減少に応じて

支給率を上げて行くべきでしょうね。

ちなみに、

日給や時給制の平均賃金には、60%の最低保障規定

があるので、休業手当は、60%×60%=36%の最低

保障ということになります。

 

 

【新型コロナが原因の休業の場合、助成金が出る可能性大】

会社が休業手当を支払った上で社員を休業させた場合、

一定条件を満たすと「雇用調整助成金」という補助金

を国から貰うことができるという制度があります。

今回の新型コロナウイルスが原因の休業の場合、

雇用調整助成金の支給条件が大幅に緩和されること

が決定しました。

詳細はこちらを参照。

 

雇用調整助成金の助成率は、中小企業の場合、

2/3≒約67%から最大で4/5=80%とされて

います。

注意が必要なのは、

「会社が実際に支払った休業手当負担額」に助成率を

掛けた金額が補助されるのではないということ。

助成額は、前年度の雇用保険の保険料の算定基礎と

なる賃金総額等から算定される平均賃金額に助成率を

掛け、1日当たりの助成額単価を求める。


とされており、平均賃金額とは以下の通り。


平均賃金額(1人1日分)は、初回の判定基礎期間の

初日が属する年度の前の年度に雇用していた全ての

雇用保険被保険者に係る賃金総額を前の年度における

1ヵ月平均雇用保険被保険者数で除して得た額を年間

所定労働日数で除して1日分としたもの。


具体的な金額は提示できませんが、この助成金を活用

すれば、休業手当の会社負担はグッと少なくできそうです。

 

 

 

新型コロナウイルスによる休業が、会社の責任か

どうかは案件ごとに個別に判断する必要がありますが、

民法第536条第1項(債務者の危険負担等)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって
債務を履行することができなくなったときは、
債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

という民法の規定を考慮すると、会社に責任はなく、

給料の支払いを要しない場合が多いでしょう。

・・・ですが、

人材確保が企業の趨勢を決める社会情勢を踏まえる

ならば、「給料全額は払えないけど、休業手当は

キッチリ支払うので、みんなでこの難局を乗り越えて

行こう!・・・退職はしないでね。」的な対処方法が

経営判断として最も正しいのかもしれません。




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