はたして、
副業・兼業先の事業所での「休憩時間」と
自社の「休憩時間」は通算できるのか?
労働基準法
(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
改正労働基準法の施行について(昭和六三年一月一日 基発第一号、婦発第一号)
1 法定労働時間
(2) 一週間の法定労働時間と一日の法定労働時間
法第三二条第一項で一週間の法定労働時間を規定し、
同条第二項で一日の法定労働時間を規定することとしたが、
これは、労働時間の規制は一週間単位の規制を基本として一週間の労働時間を短縮し、
一日の労働時間は一週間の労働時間を各日に割り振る場合の上限として考える
という考え方によるものであること。
一週間の法定労働時間と一日の法定労働時間とを項を分けて規定することとしたが、
いずれも法定労働時間であることに変わりはなく、
使用者は、労働者に、法定除外事由なく、
一週間の法定労働時間及び一日の法定労働時間を超えて労働させてはならないものであること。
なお、
一週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、
日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。
また、
一日とは、午前〇時から午後一二時までのいわゆる暦日をいうものであり、
継続勤務が二暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「一日」の労働とするものであること。
まず、
「休憩時間」ついてゲシュタルト崩壊をしてみる。
一般的に休憩時間は、
1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上
1日の労働時間が8時間を超える場合は1時間以上
与えなければならないと理解されている。
しかし、
労働基準法(以下、労基法と略)第34条には、
「労働時間が…」としか規定しておらず、
労働時間を算定するべき期間が明示されていない!
第32条において、
「1週間の労働時間は40時間まで。」かつ、
「1日の労働時間は8時間まで。」と規定していること、
第34条において、
1日の法定労働時間の上限である
8時間を超える労働時間を想定していること、
「昭和63年1月1日 基発第一号、婦発第一号」通達において、
「労働時間の規制は1週間単位の規制を基本として…」とされていること、
を考慮すれば、
第34条の労働時間を算定するべき期間は、
1日間ではなく、
1週間であるとも解釈できなくもない。
労働時間を算定するべき期間を
「1日間」と条文に明記しなかった理由として、
三交代勤務等で一勤務が二暦日に渡る場合を想定したのかもしれないが、
誤解を招きやすく論理的に美しくない。
また、
労働時間が12時間(6+6)を超える場合には、45分+45分=1時間30分以上
労働時間が14時間(6+8)を超える場合には、45分+1時間=1時間45分以上
労働時間が16時間(8+8)を超える場合には、1時間+1時間=2時間以上
の休憩時間を付与しなければならないとも解釈可能である。
以上のような疑問が残るものの、
以下では一般論を採用し、
●1日の労働時間が6時間を超える場合、休憩時間は45分以上
●1日の労働時間が8時間を超える場合、休憩時間は1時間以上
とする。
労基法第38条は、
「労働時間の通算」規定であり、
「休憩時間の通算」規定ではないのは明らかである。
ただし、
休憩時間は第34条にあるように
労働時間によってその長さが確定するため、
詳細な検討が必要となる。
【具体例その1】
ダブルワーカーの佐藤さん
A社の所定労働時間9:00〜15:00(6時間)
B社の所定労働時間16:00〜17:00(1時間)
ある日のB社での所定外労働17:00〜19:00(2時間)
佐藤さんの所定労働時間は、
2社の労働時間を通算した結果
7時間となる。
第38条を論理的に厳密に解釈した場合、
休憩時間は通算されないため、
他社での休憩時間は考慮できない。
佐藤さんの労働時間は7時間であるため、
A社は45分の休憩時間を与えなければならず、
B社も同じく45分の休憩時間を与えなければならない。
しかも、
この日はB社で2時間残業したため、
労働時間は8時間を超える9時間となる。
B社は追加で15分の休憩を与えることが可能であるが、
A社では15分の休憩を与え得ないことになり、
A社は知らぬ間に第34条に違反してしまうことになる。
これでは、
あまりに不合理である。
長すぎる休憩時間は、
労働者保護にもならない。
以下では、
個人的に合理的と考える休憩時間について述べる。
労働時間を通算した結果、
時間外労働となった場合の割増賃金負担の原則は、
以下のとおり。
原則@
時間的に後で労働契約を締結した会社が負担するべきであり、
1日のうちの後の時刻に使用した会社ではない。
原則A
ただし、
副業・兼業の所定労働時間の合計が8時間以下の場合で、
所定外の労働をさせた結果、8時間を超えたときは、
法定外労働を発生させた会社が負担する。
この法理を、
休憩時間の付与義務について援用してみる。
【具体例その2】
ダブルワーカーの鈴木さん
A社と労働契約後、B社と副業の労働契約を締結
所定労働時間は、B社:午前、A社:午後とする。
所定労働時間 |
基本の休憩時間 |
適用
原則 |
残業時間 |
追加の休憩時間 |
適用
原則 |
B社 |
A社 |
4時間 |
4時間 |
B社にて45分 |
@ |
B社にて+1時間 |
B社にて+15分 |
A |
B社にて+3時間 |
追加不要 |
A社にて+1時間 |
A社にて+15分 |
1時間 |
7時間 |
A社にて45分 |
A |
B社にて+1時間 |
B社にて+15分 |
B社にて+6時間 |
B社にて+45分 |
A社にて+1時間 |
A社にて+15分 |
1時間 |
8時間 |
A社にて45分
B社にて15分 |
A+@ |
B社にて+1時間 |
追加不要 |
B社にて+6時間 |
B社にて+30分 |
A社にて+1時間 |
追加不要 |
先行した時刻に使用するB社において、
労働時間が6時間ないし8時間を超えた場合の
追加の休憩時間については根拠が乏しいが、
B社には、
鈴木さんに疲労を回復するための最低限度の休憩時間を与え、
リフレッシュした状態でA社に送り出す信義則上の義務がある
と判断した。
そもそも、ケチケチせずに
8時間を超えていなくとも1時間の休憩を付与すれば、
ややこしい時間計算をする必要がなくなるともいえる。
以上をまとめると、
●労基法を論理的に厳密に解釈すると、
副業・兼業先の休憩時間は考慮することができず、
休憩時間が長すぎることになってしまい、労働者保護に逆効果である。
●労基法を踏まえて、合理的な休憩時間を考えた場合、
労働時間を通算した結果、
時間外労働となった場合の割増賃金負担の原則を援用すると
納得感のある休憩時間制度を運用できると考える。
具体的な休憩時間の判定は、【具体例その2】のとおり。
●8時間を超えていなくとも1時間の休憩時間を付与すれば、
ややこしい時間計算をする必要がなくなるともいえる。
(休憩)
第三十四条
A 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない。
ただし、当該事業場に、
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者
との書面による協定があるときは、この限りでない。
「労働基準法上(平成22年版)」
(厚生労働省労働基準局編 株式会社労務行政 平成23年2月1日発行)
P458に以下の記述がある。
一斉に休憩を与えなければならない労働者の範囲が、
本法の適用単位である事業場単位か、又は作業場単位であるかについては
法文上その範囲が定められていない以上、
本法の適用単位である事業場単位であると解される。
副業・兼業者であっても、
休憩時間は他の労働者と同一の時刻に与えなければならない。
実務上不可能な場合は、
労使協定を締結した上で異なる時刻に与えることになる。
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