就業規則は、企業経営時に発生が予想される出来事に

対応できるような内容であるべきです。

 

とはいえ、

実際に企業経営をすると想定外の出来事は起こるもので、

就業規則に規定していない事態が発生することがあります。

 

先日、

顧問先企業の人事担当者から、

「育児休業中の社員に休職事由が生じたのだがどう対応したらよいか?」

という相談を受けました。

 

唐鎌、

不肖ながらこの事態をまったく想定していなかったため、

就業規則に規定していませんでした・・・。

 

・休職辞令発令後、休職期間中に産休は取れるのか?
・休職辞令発令後、休職期間中に育休は取れるのか?
・産休・育休期間中に、休職辞令は発令できるのか?

これらの取り扱いが不明確だったのです!

 

そこで今回は、

休職と産休や育休が時期的に重なったら、どうすべきか?

について、お伝えしたいと思います。

 

 

【産休、育休および休職の力関係】

産休は、

泣く子も黙る労働基準法に規定されています。

 

労働基準法第13条には、

「この法律未満の労働条件を定めた労働契約は無効だからな。

その場合は、強制的にこの法律で定める基準にするからな!」

と書いてあります。

 

したがって、労働基準法の要件に該当すれば、

産休は必ず与える必要があります。

 

 

次に、育休(育児休業)ですが、

育児・介護休業法に規定されています。

 

育児・介護休業法には、

労働基準法第13条のような明文の強行規定はないため、

その分だけちょっと弱めですが、育児・介護休業法の要件

に該当すれば、育休も必ず与える必要があるでしょう。

 

 

最後に、休職ですが、法的な規制はないので、

休職の定義や休職期間等のルールは、各企業が独自に

定めることが可能です。

 

零細企業には、休職制度がないことも多いですよね。

 

以上を踏まえると、

産休、育休および休職の力関係は、

産休>育休>休職の順番と考えられます。

 

 

【パターン1:休職辞令発令後、休職期間中に産休は取れるのか?】

答え:休職期間中でも産休は取れます。

 

「産前休業の請求を行うためには就労していること
が前提要件とならない」(昭和25.6.16基収1526号)

という通達もあるので、

休職⇒労務提供義務なし⇒産休不可という理屈は通用しません。

 

産休期間中、休職期間のカウントが進行を続けるか?

ですが、就業規則等に規定があればそれに従いますし、

なければ、労使が協議して決定することになります。

 

ただし、産休期間中も休職期間が進行した結果、

産休期間中に休職期間が満了したとしても、

退職・解雇できない点に注意が必要です。

 

何故なら、労働基準法第19条に

「産休期間およびその後30日間は、解雇しちゃダメ!」

と書いてあるからです。

 

給付金については、休職事由が私傷病の場合は、

健康保険の傷病手当金を受給できますが、

産休期間中は、出産手当金に切り替わります。

 

産休期間中は、社会保険料が免除されるので、

日本年金機構や健保組合に忘れずに申し出ましょう。

 

 

【パターン2:休職辞令発令後、休職期間中に育休は取れるのか?】

答え:休職期間中でも育休も取れます。

 

通達などの明確な根拠は存在しませんが、

育休(法律)>休職(個別労働条件)という力関係を考慮すると

休職期間中であっても、育児休業を取れると考えらえれます。

 

育休期間中、休職期間のカウントが進行を続けるか?

ですが、産休と同じ考え方となります。

 

ただし、育休期間中も休職期間が進行した結果、

育休期間中に休職期間が満了した場合は、

退職・解雇し得る点に相違があり注意が必要です。

 

給付金については、休職事由が私傷病の場合は、

健康保険の傷病手当金を受給できますが、

育休期間中は、雇用保険の育児休業給付金も受給

できてしまうので、働いていたときの給与額よりも

給付金の合計額の方が多くなる可能性があります。

 

さらに、

育休期間中は、社会保険料も免除されるので、

その分、養育費に回すことができそうです。

 

 

【パターン3:産休・育休期間中に、休職辞令は発令できるのか?】

答え:産休・育休期間中に、休職辞令は発令できないでしょう。

 

そもそも、休職とは、

社員側に労務提供が不能または不適当な事由が生じた

場合に、会社側が労務提供を免除・拒否する制度です。

 

パターン3の場合、産休や育休の取得により、

すでに労務提供義務が消滅しているので、

労務提供を免除・拒否する休職辞令は発令できない

と考えるべきです。

 

産休や育休の終了後も休職事由が継続している場合、

そこで初めて休職辞令を発令することになります。

 

傷病手当金は、休職中であることが要件ではないので、

その他の要件を満たせば、受給することができます。

 

 

年次有給休暇(年休)は、

産休と同じく労働基準法に規定されていますが、

「労働義務のない日について年休を請求する余地はない」
(昭和24.12.28基発1456号)

という通達があるように、産休と取り扱いが異なり、

休職期間中は取得できないとされています。

 

産休と年休における取り扱いの相違の理由は不明ですが、

・出産という事由は、極めて労働者を保護すべき事由である。
・産休は無給でもよいが、年休は有給であり、企業負担が大きい。

ということが理由なのかもしれませんね。



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