「労働者に年次有給休暇を発生させない目的で

ある法人グループの企業間で半年以内に転籍出向

を繰り返している。」という話を聞きました。

 

これって、合法なのでしょうか?

 

倫理的な議論はさておき、

理論的にこの問題について考えてみたいと思います。

 

 

 

【労働基準法の適用単位は事業】

労働基準法は、「事業」所を単位に適用されます。

 

同一法人である企業内でも、事業所が異なれば、

労働基準法も別々に適用を考える必要があるのです。

 

例外的に異なる事業所の労働時間を通算させるために

労働基準法では、わざわざ第38条を設けて明確に通算

しなければならない旨を規定しています。

 

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

労働基準法第38条(時間計算)
労働時間は、事業場を異にする場合においても、
労働時間に関する規定の適用については通算する。

〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜

 

管理監督者等の第41条該当者には、労働時間、休憩

および休日に関する規定が適用されませんが、年休

に関する規定=第39条は適用されます。

 

ということは、年休は労働時間、休憩および休日に

関する規定ではなく、異なる事業所間で通算されない

ことは明らかでしょう。

 

 

 

【出向した場合の年休の取り扱い】

「昭和63年3月14日 基発150号」という通達

(お役所が発出する通知文書のようなもの)には、

「在籍型の出向をした場合は、継続勤務したものとして

取り扱うべし!」と書かれています。

 

在籍型出向とは、出向元企業と出向先企業との間の

出向契約によって、労働者が出向元企業と出向先企業

の両方と労働契約を結び、一定期間継続して勤務する

ことをいいます。

 

ここで、同通達を反対解釈してみると、

「移籍・転籍型の出向をした場合は、継続勤務した

ものとして取り扱う必要なし。」と解釈できますよね?

 

移籍・転籍型の出向とは、出向元企業との労働契約

を終了し、新たに異なる事業主である出向先企業と

労働契約を結び、勤務することをいいます。

 

 

 

【事例検証】

「事業主」とは、事業の経営の主体をいい、

個人企業であれば企業主個人、法人組織であれば

その法人となります。

 

同通達に「継続勤務とは、労働契約の存続期間、

すなわち在籍期間をいう。」と記載されていること

を考慮すると、同一の事業主との労働契約下であれば

異なる事業所に人事異動したとしても継続勤務したもの

として取り扱うべきでしょう。

 

冒頭の「労働基準法の適用単位は事業」という原則

とは合致しませんが、大目に見ることにしましょう。

 

したがって、

たとえば東京本社と埼玉工場を持つ法人内で、

事業所間を人事異動した場合は、在籍出向の場合と同じく

年休は継続勤務したものとして取り扱うべきこととなり、

世間の一般常識と整合します。

 

・・・ですが、

「法人グループの企業間で半年以内に転籍出向を繰り返している。」

場合、異なる事業主間の移籍・転籍出向と考えられるため、

年休は継続勤務したものとして取り扱われないことになり、

永遠に年休を付与しなくてよいという結論になります・・・。

 

 

この手法は、一応労働基準法に違反していないので、

労働基準監督官に逮捕されないというだけに過ぎず、

臨検で発覚した際には、間違いなく指導票が出され、

労基署のブラック企業リストに追加されると思います。

 

民事で争ったら、公序良俗違反にもなりそうなので、

決してマネしないようにしましょう。



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