年次有給休暇(以下、年休と略。)は、原則として

買い取りができませんが、例外として以下の場合は、

適法に買い取りができるとされています。

1.法定を上回る年休日数を付与している場合
2.年休を取得しきれずに2年経過し時効消滅した場合
3.移籍出向や退職時に未消化となってしまう場合

 

ここでは、2.のパターンについて深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

【事例】

A社では、以下の条件で法定の年休を買い上げる用意が

ある旨、社員に通知しています。

・付与から2年経過したため時効により消滅した年休
日数が10日以上の場合、「年休手当」を支給する。

・支給額は、給与額および年休の消滅日数にかかわらず、
全社員一律5万円とする。

・付与から1年半経過時点で10日以上の残日数がある
場合、次回支給する賞与に2万円を上乗せする。
2年経過時点で時効消滅した日数が10日以上ある場合、
次回支給する賞与に残りの3万円を上乗せする。

・1年半経過時点で2万円を受け取った後、
2年経過時点で時効消滅した日数が10日未満となっても、
2万円を返却する必要はない。

・本制度は、年休の自由取得を妨げるものではなく、
会社が付与日数を制限することはない。

・いわゆる「年5日間の強制取得」をしなかったため、
時効消滅した日数が10日以上となった場合は、
本制度の適用対象外とする。 

 

この年休の買い上げの予約は、適法なのでしょうか?

考えてみましょう。

 

 

 

【年休の買い上げの予約とは?】

行政通達(昭和30年11月30日基収4718号)では、

「年休の買上げの予約をし、これに基づいて年休の

付与日数を減らしたり、年休を与えないのは違法。」

としています。

 

予約契約とは、当事者の一方が意思表示をすること

によって、本契約が成立するというような契約であり、

意思表示をする権利を「予約完結権」といいます。

 

したがって、

会社側が年休買い上げの予約完結権を持つ場合、

会社が年休を与えるかどうかを決定することが

できるということになるので、違法だということ

になります。

 

本事例では、

・本制度は、年休の自由取得を妨げるものではなく、
会社が付与日数を制限することはない。

と明示しており、時効消滅させるかどうかは社員の

意思次第であり、社員側に予約完結権があることは

明らかです。

 

 

 

【不利益取り扱いにならないように注意!】

労働基準法令には、「年休を取得した労働者に対して、

賃金の減額その他不利益な取扱いをしないように!」

という訓示規定があります。

 

本事例の年休手当の支払い方法や支給金額に問題はない

のでしょうか?

 

 

●1.労働基準法上の賃金に該当するか?

労働基準法では、会社が任意に恩恵的に慶弔見舞金を

社員に支給する場合は、労働の対償ではなく賃金でない

としていますが、支給条件が明確なときは、賃金である

としています。

 

事例の年休手当制度は、毎年、全社員を対象に適用

されるので恩恵的な慶弔見舞金とは考え難いですし、

支給条件も明確なので、賃金に該当すると考えるべき

でしょう。

 

 

●2.賞与と同時支給で間に合うのか?

労働基準法には、「働いた分の賃金は毎月キッチリ

支払えよ。」という毎月払いルールがあります。

 

このルールにはいくつか例外があり、「1ヶ月を

超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当」

もその1つです。

 

事例の年休手当を「時効消滅するまでの2年間の

年休取得実績によって支給される精勤手当の亜種」

だと考えれば、毎月払い原則の例外として扱ってよい

のではないでしょうか。

 

事例の場合、たとえば4月1日が付与日だとすると、

付与から1年半経過時点である翌年10月1日に、

10日以上の残日数があれば、12月の賞与に2万円を上乗せ、

2年経過時点である翌々年4月1日に時効消滅日数が

10日以上あれば、7月の賞与に3万円を上乗せとなります。

 

支給条件を満たしてから実際に手当が支給されるまで、

あまりに時間が開き過ぎるのは問題があるのでしょうが、

本事例程度のズレであれば問題ないと考えます。

 

 

●3.時効消滅前に支払っても問題ないか?

事例の場合、

時効消滅の半年前に2万円を支払っていますが、

これに基づいて年休の付与日数を減らしたり、

年休を与えないわけではありません。

 

またその後に、

時効消滅日数が10日未満となった場合でも、

2万円を返却する必要がないことも考慮すると、

年休取得の自由は保障されていると言えます。

 

とすれば、

買い上げ金の一部を時効消滅前に支払っても

問題ないと考えます。

 

 

●4.金額は一律でOKか?

年休の買い上げ金額について直接規制する法令は、

カラカマの知る限り存在しません。

 

したがって、

・各自の年休取得1日分と同額
・全社員一律で1日あたり1万円
・消滅日数が5日以上:2万円、10日以上:5万円

等でも問題ないでしょう。

 

ただし、

「1日あたり10万円」等、あまりに高額な場合は、

年休を取得しなかった者に対して、とても有利な取扱い

をしていると考えられ、望ましくありません。

 

買い上げ金額は、年休取得1日分以下に設定する

ことが望ましいでしょう。

 

 

 

採用難のため、「年5日間の強制付与が精一杯で、

これ以上年休を取得されると仕事が回らない!」

という場合は、年休の買い取りを一考されてみては

如何でしょうか?



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