社員が年休(正しくは、「年次有給休暇」と言います。)を取得して休んだ場合、

その日の賃金は、労働基準法第39条により、

以下の3つから選択し、支払うこととされています。

1.労働基準法第12条に規定される「平均賃金」

2.所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

3.社会保険の標準報酬日額(労使協定が必要)

「1.は年休取得のたびに計算するのが面倒くさい。」

「3.は労使協定を締結するのが面倒くさい。」等の理由?

から、現実的にはほとんどの企業が2.を選択しています。

この、

「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」

ですが、「通常の出勤をしたものとして給料を払えばOK」

という誠にありがたい簡略化ルールがあるおかげで、

まじめに考えたことがある人は少ないでしょう。

 

ここで、質問です。

 

 

「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」

には、通勤手当は含まれるのでしょうか?

 

 

月額固定の通勤手当ならまだしも、1日いくらの

日給制の通勤手当の場合、年休取得日も支払うべき

なのでしょうか?

おそらく多くの企業では、「通勤していないんだから、

年休取得日の給料に通勤手当分は入れなくていいはず。」

というあいまいな考えの元に支払っていないのではないか

と思います。

客観的かつ論理的かつ合理的に考えないと気が済まない

性質なので、この問題について検討してみたところ、

年休取得日の賃金の計算額に通勤手当は、含めなくてもよい

という穏当な結論に至りました。

その根拠は、以下の3点。

【根拠1】
算出方法がほぼ同じである割増賃金の算定基礎となる
賃金には、通勤手当が含まれていない。

【根拠2】
「所定労働時間労働した場合」という条件を満たすと
支給される賃金に移動行為の費用負担である通勤手当
は含めるべきでない。

【根拠3】
通勤手当を含めた場合、半日年休取得日は、出勤した
日の賃金よりも年休取得日の賃金額が高くなってしまう
ので労働基準法違反となってしまう。

 

 

【根拠1】
算出方法がほぼ同じである割増賃金の算定基礎となる
賃金には、通勤手当が含まれていない。

行政通達によれば、

「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金

(以下、「通常の賃金」と省略。)には、臨時に

支払われた賃金、所定時間外の労働に対して支払われる

賃金等は算入されない。」とされており、算入しなくて

よい賃金が存在することは明白です。

「通常の賃金」の具体的な算出方法については、

労働基準法施行規則第25条に記述されています。

割増賃金は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」に

割増率を乗じて計算するのですが、その具体的な算出方法

については、労働基準法施行規則第19条に記述されています。

実際に読んでいただければ、一目瞭然なのですが、

この施行規則第25条と第19条の記述が酷似しているのです。

ということより、

この2つの概念はニアリーイコールだと考えられます。

 

割増賃金の算定の基礎に算入しなくてよい賃金が7種類

あります。

1.家族手当
2.通勤手当
3.別居手当
4.子女教育手当
5.住宅手当
6.臨時に支払われる賃金
7.1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

の7種類です。

年休の「通常の賃金」には、同様の規定が存在しないものの、

割増賃金の基礎賃金≒年次有給休暇の基礎賃金だとすれば、

年休の「通常の賃金」には、少なくとも7.を除く6種類

の賃金は含まれないと推定することができます。

 

 

【根拠2】
「所定労働時間労働した場合」という条件を満たすと
支給される賃金に移動行為の費用負担である通勤手当
は含めるべきでない。

通勤手当は、通勤=出退勤という「移動行為」に要する

費用の負担です。

通勤手当は、労働=労務の提供に対する賃金ではありません。

たとえば、

台風接近中だけど取りあえず社員を出社させたものの、

会社の判断で働くことなく帰宅させる場合がありえます。

この場合、この日は、

通勤はしていますが、まったく労働していません。

もし、

通勤手当が「所定労働時間労働した場合」 という条件

を満たすと支給される賃金であるとするならば、この日

の通勤手当は不支給でないとつじつまが合いません。

ですが、社会通念上、

「通勤しているのに、通勤手当が支給されない。」

というのは、どう考えても不合理ですよね?

 

 

【根拠3】
通勤手当を含めた場合、半日年休取得日は、出勤した
日の賃金よりも年休取得日の賃金額が高くなってしまう
ので労働基準法違反となってしまう。

・1日8時間労働で日給8千円
・通勤手当は1日(1往復)で2千円
・年休の「通常の賃金」には通勤手当を含むと仮定

この場合、

1日出勤した日の賃金は、

=日給+通勤手当=8,000+2,000=10,000円

ですよね?

年休取得日の賃金は、1日出勤したものとして

給料を払えばよいので、10,000円でよいことに

なります。

年休には半日年休という裏ワザがあるのですが、

半日年休した場合も1日出勤したものとして

給料を払うならば、この日の賃金も10,000円で

よいことになります。

 

それでは、試しに

年休取得日の賃金額を、簡略化せずに正規の計算方法

(労働基準法施行規則第25条)で算出してみましょう。

施行規則第25条には、

「日によつて定められた賃金については、その金額」

が、「通常の賃金」であるとされています。

したがって、

年休取得日の賃金は、

=日給+通勤手当=8,000+2,000=10,000円

となり、簡略化した場合と同額となります。

ですが、

半日年休取得日の賃金は、

半日分の日給+通勤手当+半日分の年休の賃金

を支払う必要があるということになるので、

=(8,000÷2)+2,000+(10,000÷2)=11,000円

となります。

 

「出勤したものとして扱った場合に支払われる賃金」が、

正規の計算方法により算出された「通常の賃金」を

下回ってしまうということは、労働基準法の法定額を

下回ることと同義なので、第13条の最低基準効が発動し、

「通常の出勤をしたものとして給料を払えばOK」という

簡略化ルールそのものが無効となります。

行政通達が法律違反を奨励するはずがありませんよね?

 

 

以上より、私は、

年休取得日の賃金の計算額に通勤手当は、含めなくてもよい

と考えます。

 

「含めなくてもよい。」のであって、

「うちの会社は、そんなセコいことは言わないぞ!」

と通勤手当を二重払いしても労働基準法上、まったく

問題ありません。

ただし、

二重払いした通勤手当は、税法上の非課税交通費として、

扱うべきではないと考えられるので、注意してください。



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