平成の時代(正確には、令和2年)まで使用していた履歴書は、

日本規格協会(JIS)が示していた様式例に基づいており、

厚生労働省もこれを推奨していました。

 

しかし、

昨今の差別に対する社会の関心の高まり等を受け、

JIS規格の履歴書の様式例が削除されました。

 

そこで、

厚生労働省は、令和3年4月に新たな履歴書の様式例

を公表しました。

 

 

 

【日本の採用の現状は?】

従来のJIS規格版と厚生労働省版の違いは、

以下の2点となります。

・性別欄はあるが、記載は応募者の任意(書いても書かなくてもよい。)。
・通勤時間、扶養家族数、配偶者および配偶者の扶養義務の記載欄がない。

 

したがって、履歴書による書類選考の段階では、

企業は、応募者の性別や家族構成が把握できない

場合があるということになります。

 

国は企業に対して、応募者の適性・能力を基準

とした、差別なき公正な採用選考を推奨しています。

 

要するに、

業務に対する適性・能力とは直接関係がない事項を

考慮した採用選考は望ましくないということです。

 

「平成11年11月7日 労働省告示第141号」を考慮すると、

採用面接時の質問内容は、合理的な範囲内に留めるべきで、

次に掲げるような個人情報を収集することは望ましくない

と考えられます。

・人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
・思想および信条
・労働組合への加入状況

 

性別や家族構成は、

「社会的差別の原因となるおそれのある事項」に

該当すると考えられ、これらを採用時に考慮する

ことは望ましくないことになります。

 

 

 

【差別に敏感なアメリカはどうか?

アメリカでは、自分自身では如何ともしがたい事由

についての差別を厳しく禁じています。

 

この考えは、雇用についても同様であり、

採用から退職・解雇まで=雇用関係の開始から終了まで

のあらゆる段階において、差別を禁じています。

 

雇用機会均等委員会(EEOC)提唱するルールに基づき、

採用時に以下の質問をすることは、違法となりかねません。

・年齢
・性別
・生まれた国
・人種(肌の色)
・宗教
・心身に障害はあるか?
・結婚しているか?
・家族構成
・妊娠しているか?

 

したがって、アメリカの履歴書には、

・生年月日は記載しない
・性別は記載しない
・写真は貼らない
・結婚、家族構成なども記載しない

ということになります。

 

 

 

【日本とアメリカを比較してみる】

カラカマの私見ですが、

今後の日本の採用手続きは、大きな流れとしては、

業務に対する適性・能力とは直接関係がない事項を

考慮しない方向に進むと考えますが、アメリカほど

徹底的な状況には、なりにくいと考えています。

 

アメリカでは、「保険営業職」とか、「靴製造職人」

のように職務(ジョブ)を限定して募集・採用しますが、

日本の「正社員」は、職務を限定せずに採用するのが一般的です。

 

アメリカでは、募集する具体的な職務が決まっており、

その職務をこなせるかどうか?が重要な採用基準である

のに対し、

日本では、自社に馴染み長期間働き続けてくれそうか?

が重要な採用基準であり、職務は採用してから決める

ということもまったく珍しくありません。

 

企業規模が小さい場合、業務処理能力の有無よりも、

職場順応能力(自社に馴染みそうな人となりか?)のような、

情緒的な要素で採用を決めていることが多いと感じます。

 

日本はアメリカと比較して、解雇が容易ではありません。

 

アメリカでは、

雇用の入り口である採用時の差別を厳しく規制していますが、

一方の出口である解雇については、差別や報復のような

不当な理由でなければ厳しくありません。

 

もし、日本社会が出口である解雇に厳しい現状のまま、

入り口である採用にも厳しい規制を設けた場合、

企業が採用に消極的になり、雇用の流動性が極めて低い社会

になってしまう恐れがあり、望ましくありません。

 

労働者の雇用に対する意識も、日本とアメリカでは異なります。

 

アメリカの労働者には、

入社したからには、その会社でずっと働き続けるものだ

という発想はありません。

 

仕事で結果を残せなければ、解雇されるのは当然

と考えているので、職務遂行と無関係な個人的な事情を

考慮してほしいとは考えていない(思いもよらない?)ようです。

 

一方、日本の労働者は、

終身雇用が社会の常識ではなくなったとはいえ、

可能であれば同じ会社に長く勤め続けたいと考えており、

家族の介護をしているというような個人的な事情も

考慮してほしいと考える傾向にあると思います。

 

以上のような事情を考慮すると、

業務に対する適性・能力とは直接関係がない事項を

まったく考慮しない採用は、日本の現状では考えにくい

のではないでしょうか?

 

採用担当者の方は、

面接時にはどこまで踏み込んで質問すべきか?を

事前に想定した上で、本番に臨むことをお勧めします。

 

※本テーマを作成するにあたり、

向井蘭編著『教養としての「労働法」入門(日本実業出版社)』

を参考にさせていただきました。



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