【事例】

A社の社員であるBさんは、午前中の外回り営業中に

強風だったせいで目にゴミが入ってしまいました。

 

ゴミが取れないのでBさんは上司のC課長に報告し、

午後は早退させてもらい眼科に行きゴミを取ってもらい、

健康保険を使わずに10割の医療費を支払いました。

 

翌日、Bさんは元気に出勤し、C課長と協議した結果、

早退は勤務したものとみなして欠勤控除はせず、

医療費は会社が全額負担するということになりました。

 

A社は、本件に関して何らの行政手続きも行いません

でした。

 

 

ここで問題。

A社の対応に法的な問題点はあるでしょうか?

 

 

 

【労災かくし=不適切な労働者死傷病報告である。】

社員が就業時間中に怪我や病気になったり、

会社施設内で怪我や病気になったりしたりした結果、

死亡または仕事を休んだ(休業)した場合、会社は、

労働基準監督署に報告書を提出しなければならず、

この報告書のことを「労働者死傷病報告」といいます。

 

「労災かくし」とは、労働者死傷病報告を提出すべき

場合に、報告しなかったり、ウソの内容を報告したり

することを言います。

 

労働者死傷病報告について勘違いしがちなのが、

会社に過失(落ち度)があるかどうかに関係なく、

社員が就業時間中または会社施設内での怪我や病気が

原因で死亡または休業したならば、提出が必要である

ということ。

 

休業とは、怪我や病気をした翌日以降に怪我や病気

が原因で仕事ができないため会社を1日以上休むこと

をいいます。

 

本事例では、Bさんは目にゴミが入った被災当日に

早退はしていますが、翌日は元気に出勤しており、

休業はしていませんので、労働者死傷病報告は不要

ということになります。

 

 

 

【労災保険の申請(請求)は会社の権利でも義務でもない。】

会社には、業務に関連して社員が怪我や病気をした

場合、たとえ会社側に過失(落ち度)がなくても、

労働基準法に定められた範囲内で治療費を負担したり、

社員とその家族の生活を守る義務=災害補償義務があります。

 

些細な怪我や病気であれば、自社の運転資金で補償

費用を賄うことができるでしょうが、大怪我や大病

だった場合は、ない袖は振れないことがあります。

 

労災保険は、会社が自腹では補償できないという事態を

想定して、会社の災害補償義務を肩代わりすること

により、被災労働者が確実に補償を受けられるように

するための制度なのです。

 

労災保険の給付は、

労働基準法に規定する災害補償の事由が生じた場合に、

補償を受けるべき労働者もしくは遺族又は葬祭を行う者

に対し、その請求に基づいて行われます(労災保険法

第12条の8第2項)。

 

つまり、

労災保険の給付を請求するかどうかは、被災労働者

や遺族等の意思次第であり、当人にその意思がなければ、

会社には労災を請求する権利も義務もないのです。

 

本件事例では、Bさんの早退は勤務したものとみなして

欠勤控除しないことで休業補償をしており、医療費は

健康保険を利用せず、会社が10割全額負担しています。

 

以上より、

本事例が業務上の災害であったと仮定しても、

A社は労災かくしなんてしておらず、災害補償義務

も果たしていると考えられ、法的な問題点はないと

考えられます。

 

 

 

労働基準法の災害補償や労災保険給付は、被災労働者

やその家族が生活に困らないようにする範囲内なので、

必ずしも精神的苦痛に対する慰謝料など事故によって

受けた損害の全てをカバーしているわけではなく、

会社が民事上の損害賠償責任を問われることがあります。

 

一方で、

労災認定
=会社に過失アリ
=会社に民事上の損害賠償責任有り

とは限らないので、勘違いしないように注意しましょう。



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