※2023年10月30日発行のメールマガジンの内容です。

 

令和5年1月31日に

厚生労働省から各都道府県の労働局に宛て、

「メリット制の対象となる特定事業主の労災保険料に関する訴訟における今後の対応について 基発0131第2号」

という通達が発出されました。

 

「メリット制」とは、

労災保険率もしくは労災保険料の額を、

事業場における労働災害の発生率に応じて増減させる制度

を言います。

 

今回は、メリット制の概要を確認した上で、

この通達の内容についてお伝えしたいと思います。

 

なお、

メリット制には、いろいろ種類があるのですが、

ここでは継続事業のメリット制に限定してお伝えします。

 

 

【メリット制が適用される事業所】

メリット制は、

一定程度以上の労働者が在籍する事業所限定の制度です。

 

業種問わず、

20名未満の事業所はメリット制は適用されず、

100名以上の事業所はメリット制の適用事業所

となります。

 

 

20人以上100人未満の場合は、下式により、

業種ごとの労災保険率によって、最低労働者数が算出できます。

 

0.4÷(当該業種の労災保険率−非業務災害率)

※非業務災害率=1000分の0.6(徴収則第16条第2項)

 

たとえば、

倉庫業や警備業の労災保険率は1000分の6.5なので、

(0.4÷(6.5-0.6))×1,000⇒68人以上となります。

 

 

【適用時期】

メリット制が適用される時期は、

連続する3保険年度の最後の年度の翌々保険年度になります。

 

たとえば、

令和元年度〜令和3年度が連続する3保険年度の場合には、

最後の年度である令和3年度の翌々保険年度に当たる令和5年度に

メリット制が適用されます。

 

 

【判定対象となる保険給付】

業務災害に係る保険給付と特別支給金が対象であり、

通勤災害や特定疾病に対する保険給付は含まれません。

 

特定疾病とは、以下が該当します。

・港湾貨物取扱事業または港湾荷役業:非災害性腰痛
・林業又は建設業:振動障害
・建設業:じん肺症

 

難しい話になってしまいますが、

障害補償年金等の年金給付については、

実際に年金として支給した額ではなく、

年金給付の額をその業務災害発生当時の一時金

に換算した額(「労基法相当額」といいます)を

一括算入して判定されます。

 

 

【メリット料率】

「メリット収支率」という数値が許容範囲を超えた場合、

メリット制が発動し、本来の労災保険率を最大±約40%

の範囲で増減させた労災保険率を「メリット料率」と呼び、

下式により算出します。

 

(基準となる労災保険率−非業務災害率)×(100+メリット増減率÷100)+ 非業務災害率

 

たとえば、

倉庫業や警備業の労災保険率は1000分の6.5ですが、

最も重い40%増のメリット料率が適用された場合、

(((6.5-0.6)×140%)+0.6)/1,000=1000分の8.86となります。

 

実際に、メリット制が適用される場合は、

年度更新時の送付資料に「労災保険料決定通知書」

というお手紙が同封されており、

そこにメリット料率が記載されているので

自社で計算する必要はありません。

 

 

【会社が労災保険料が増えたことに納得いかない場合】

さて、本題。

 

「補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し、その請求に基づいて行う。」

と労災保険法第12条の8に書いてあるとおり、

会社には労災保険を請求(申請)する権利がなく、

社員(労働者)の労災申請をお手伝いすることしかできません。

 

労災申請したものの、労働基準監督署が審査した結果、

労災保険の給付要件に該当しないと判断された場合、

社員本人に宛て「不支給決定通知書」というお手紙が届きます。

 

社員が労働基準監督署の判断に不服である場合、

労働局の「労働者災害補償保険審査官」といお役人に

「判断し直してくれ!」とお願いすることができ、

これを「審査請求」と言います。

 

労災保険の請求権者は社員であり会社ではないので、

会社が労災保険の判断に不服があったとしても、

会社は審査請求を要求することができません。

 

また、

労災保険料を含む労働保険料徴収する法律を

「労働保険料徴収法」と呼びますが、

徴収法には、不服申し立て制度がありません。

 

会社は、

労災保険の保険給付が行われた結果、

メリット制により高い保険料になったことに不満がある場合は、

以下の対応をすることになります。

 

・行政不服審査法に基づき厚生労働大臣に審査請求をする。

・裁判所に労働保険料決定処分の取り消しの訴えを提起する。

 

冒頭の通達には、

裁判所への処分取り消しの訴えについて、

以下の対応をすると記載されています。

 

・労働保険料決定処分の取り消し訴訟において、労災支給決定の適法性について審理され得る。

・審理の結果、労災支給決定が間違っていたことを理由として、労働保険料決定処分を取り消す判決が確定するかもしれない。

・判決が確定した場合、各労働局は速やかに当該労災給付額を除外して、メリット収支率を再計算し、労災保険料率を決定すること。

・判決が確定した場合でも、労災支給決定処分を行った労働基準監督署は、同処分を取り消すことはしないこと。

 

要約するならば、

裁判で労災認定の判断が間違っていることになったら、

労働局は文句を言わずに労災保険料率を再計算するが、

労働者の生活が不安定になるから、労災認定は取り消さない。

ということになります。

 

 

この通達、

インターネットで検索していただければわかりますが、

厚生労働省のホームページを含め、見つけられないと思います。

 

旬報社の「労働法律旬報No.2030 2023年4月下旬号」

に掲載されているので、興味のある方はそちらをご参照ください。




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