厚生労働省のホームページに以下の記述がある。

【最低賃金の対象となる賃金】
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、
実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。

(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当


以下では、これらの妥当性について検証してみる。



最低賃金法
(最低賃金の効力)
第四条3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
(平一一法一六〇・一部改正、平一九法一二九・旧第五条繰上)


最低賃金法施行規則
(算入しない賃金)
第一条 最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の
厚生労働省令で定める賃金は、
臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。

2 法第四条第三項第二号の厚生労働省令で定める賃金は、次のとおりとする。
一 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金
二 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
三 午後十時から午前五時まで(労働基準法第三十七条第四項の規定により厚生労働大臣が定める地域又は期間については、午後十一時から午前六時まで)の間の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分


以上より、
(1)〜(5)は法律上当然に除外できると判断できる。

問題は、
「(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」である。



最低賃金法の施行について
(昭和三四年九月一六日 発基第一一四号)

法第五条(則第二条及び第三条)関係
5 精皆勤手当、通勤手当などは、
通常は毎月支払われ、労働者の生活費の一部となつているので、
通常の賃金として最低賃金の対象とするのが適当であるが、
業者間協定(※1)等においてこれを除外して賃金の最低額を定めており、
これらを除外することが当該業種の実情に即するものである場合には、
これらを本条(※2)第三項第三号の賃金とすることができること。

※1:「業者間協定」とは、
同一業種に属する使用者または使用者団体間の賃金などに関する協定のこと。

※2:本通達発出時の「本条」=第5条は、
平成19年に現行法の第4条に繰り上げされている。


この通達を考慮すると、
「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」を除外している根拠は、
第4条第3項第3号の「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」
に該当するからと考えられる。

この通達では、
「精皆勤手当、通勤手当など」は
通常の賃金として最低賃金の対象とするのが適当であるが、

  1. 業者間協定等において「精皆勤手当、通勤手当など」を除外して賃金の最低額を定めている。
  2. 「精皆勤手当、通勤手当など」を除外することが当該業種の実情に即するものである。

という2つの条件を満たした場合に限って、除外してよいと解釈できる。



最低賃金法の一部を改正する法律の施行について
(昭和四三年八月三〇日)

六 改正法附則第二項及び第五項並びに改正省令附則第二項から第四項まで及び第七項関係
(一) 改正法附則第二項の規定により、改正法施行の際現に効力を有する
業者間協定に基づく最低賃金及び業者間協定に基づく地域的最低賃金が
改正法施行後二年間なお効力を存する
のみならず、
この間、これらの最低賃金については、
その改廃の手続、周知義務、報告等に関する旧法の規定も
なお効力を存するものであること。


最低賃金法の一部を改正する法律の施行について
(平成20年7月1日 基発第0701001号)

第1 改正法の趣旨
わが国における最低賃金制度は、
昭和34年の最低賃金法(昭和34年法律第137号)の制定以来、
業者間協定方式を中心として次第に適用拡大が進んだが、
昭和43年の最低賃金法の一部改正により業者間協定方式が廃止され、

産業別又は地域別の最低賃金の設定が進み、
昭和51年には全都道府県に地域別最低賃金が設定され、
すべての労働者に最低賃金の適用が及んだ。

さらに、その後も、
目安制度の改善や産業別最低賃金の再編など
運用面を中心に着実に改善が重ねられてきた。


とあり、
業者間協定が廃止されていることは明らかであり、
発基第114号を根拠に
「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」を除外することはできない。

改めて、
その他の根拠を探してみる。



(地域別最低賃金の決定)
第十条 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、一定の地域ごとに、
中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会(以下「最低賃金審議会」という。)
の調査審議を求め、その意見を聴いて、地域別最低賃金の決定をしなければならない。


2 
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、
前項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があつた場合において、
その意見により難いと認めるときは、理由を付して、
最低賃金審議会に再審議を求めなければならない。



(最低賃金審議会の意見に関する異議の申出)

第十一条 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、
前条第一項の規定による最低賃金審議会の意見の提出があつたときは、
厚生労働省令で定めるところにより、その意見の要旨を公示しなければならない。


2 
前条第一項の規定による
最低賃金審議会の意見に係る地域の労働者又はこれを使用する使用者は、
前項の規定による公示があつた日から十五日以内に、
厚生労働大臣又は都道府県労働局長に、異議を申し出ることができる。


3 
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、
前項の規定による申出があつたときは、その申出について、
最低賃金審議会に意見を求めなければならない。


4 
厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、
第一項の規定による公示の日から十五日を経過するまでは、
前条第一項の決定をすることができない。
第二項の規定による申出があつた場合において、
前項の規定による最低賃金審議会の意見が提出されるまでも、同様とする。



(
地域別最低賃金の改正等)
第十二条 厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、地域別最低賃金について、
地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力
を考慮して必要があると認めるときは、その決定の例により、
その改正又は廃止の決定をしなければならない。


現在の最低賃金は、
法10条〜12条を根拠に都道府県別に定められている。

たとえば、
千葉県の最低賃金額は「千葉地方最低賃金審議会」の意見を聞いたうえで、
千葉労働局長が決定、改正および廃止できることになっている。

最低賃金を決定するための手続きとして、
最低賃金審議会の意見の要旨を公示しなければならない旨が第11条に定められている。

この公示を確認すると、
「この最低賃金において賃金に算入しないもの」として、
「精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」が明記されている。
ズバリ、これが根拠である。

つまり、
「(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当」は
最低賃金に関する法令や省令で明確に除外されているのではなく、
各都道府県で最低賃金額を決定する際に個別具体的に除外することを決定しているのである。

 

なぜ、
精皆勤手当、通勤手当および家族手当は、
最低賃金の計算基礎から除外されているのだろうか?

精皆勤手当は、
ゼロベースで考えれば「労働の対償」としか考えられず、
発基第114号においても何故除外対象としていたのか疑問を持たざるを得ない。

しかし、
一方で遅刻や欠勤が多かった月に精皆勤手当が支払われなかったことにより
最低賃金割れが発生してしまう恐れがあるため、
やむなく精皆勤手当を除外せざるを得なかったと考えられる。

しかし、
たとえば精皆勤手当について
「最低賃金を下回る場合には、最低賃金額以上となるように支給する。」と規定してある場合、
どうすべきであろうか?

このような精皆勤手当であれば、
最低賃金額の計算の基礎に含めるべきである。

なぜなら、
「精皆勤手当」とは、
ある一定期間における出勤成績によって支給される性質を持つ手当とされており、
名称の如何を問わず実質的に考えるという労働・社会保険法の原則を援用した場合、
この精皆勤手当はもはや最低賃金額の計算において除外すべき精皆勤手当とは言えない
からである。

 

次に
通勤手当が除外されている理由は、実費弁償的性質があり、
実際の生活費に供し得ない賃金だからだと思われる。

また、
家族手当については、ほとんど意味不明である。
労働の対償性が低いからだろうか?
ハッキリ言って理解に苦しむ。

そもそも、通勤とは、
労働者によるその労働力の給付を履行するための準備行為であり、
持参債務である。

当然、
その費用も本来労働者が負担すべきものである。

通勤手当と混同されがちなものとして出張旅費があるが、
出張旅費は実費弁償的性質を有し、賃金として扱われないため、
まったく別物である。

通勤手当を支給することは企業としては手出し行為であり、
決して労働力を安く買い叩こうという意思から発生したものではない。

同様に家族手当も、
本来的には企業に家族を扶養する義務など存在するはずもなく、
企業が恩恵的に支給する性質のものである。

社会保険各法においても、
通勤手当や家族手当は生計費の重要な一部であり、
「労働の対償」として保険料算定の基礎とされている。

社会保険料の計算の際にはしっかり算定基礎に含めているにもかかわらず、
最低賃金の計算の際には除外するというのは、
スジが通っていないと感じるのは私だけだろうか?

 

なお、
法第11条には、
最低賃金審議会の意見の要旨の公示内容に異議がある場合は、
労働者および使用者であれば誰でも都道府県労働局長に異議を申し立てることができる
旨が規定されている。

この申し立てがあったときは
都道府県労働局長は必ず最低賃金審議会に
意見を求めなければならないとされている。

もし、
最低賃金に一言物申したいのであれば、
異議申し立てしてみてもよいかもしれない。



トップページへ戻る。