専門業務型裁量労働制は、
労働基準法第38条の3に規定されている。


労働基準法
第三十八条の三 
使用者が、当該事業場に、
過半数労働組合、または労働者の過半数代表者との書面による協定により、
次に掲げる事項を定めた場合において、
労働者を第一号に掲げる業務に就かせたときは、
当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、
第二号に掲げる時間労働したものとみなす。
一 省略
二 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間

※一部意訳




「時間労働したものとみなす」とは、
労使協定で定めた時間労働したものとして取り扱い、
実際の労働時間がどうであろうと関係なく、
その他の反証を許さないということである。

一見簡単なようでやっぱり労働時間に関する規定は奥が深く、
正しく理解できていない結果、
誤った運用をしている企業を見かけることがある。

以下に、
基礎的論点から誤解しがちな論点まで
網羅的にまとめてみた。

ただし、
対象業務についての論点は含まない。

 

論点1.みなすことができる期間とは?

論点2.法定労働時間を超えるみなし労働時間はあり得るか?

論点3.みなし労働時間制の適用範囲

論点4.休日の労働時間もみなすことができるのか?

論点5.労働時間の上限規制の算定時には、みなし時間を用いることができるのか?





論点1.みなすことができる期間とは?

以下の通達がある。


1か月単位のみなし労働時間の協定

問:専門業務型裁量労働制において労使協定で定める時間は、
一日の労働時間だけでなく、一か月の労働時間でも可能か。

答:一日当たりの労働時間を協定する。
(昭和63.3.14 基発150号、平成12.1.1 基発1号)




この通達の通り、
みなすことができるのは、
現状では「一日当たりの労働時間」のみである。

制度の趣旨を考慮すると、
週および日の両方について定めることができるべきであるが、
現状の行政通達はそうなっていないのは、残念なことである。

 

 

論点2.法定労働時間を超えるみなし労働時間はあり得るか?

みなし労働時間制には、
専門業務型裁量労働制の他に、
事業場外労働(第38条の2)
企画業務型裁量労働制(第38条の4)
がある。

事業場外労働の
条文および施行規則を確認してみる。


労働基準法
第三十八条の二 
労働者が労働時間の全部又は一部について
事業場外で業務に従事した場合において、
労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。
ただし、
当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて
労働することが必要となる場合においては、
当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、
当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。


労働基準法施行規則
第二十四条の二 
法第三十八条の二第一項の規定は、
法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る
労働時間の算定について適用する。

○2 省略

○3 
法第三十八条の二第三項の規定による届出は、
様式第十二号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。
ただし、
同条第二項の協定で定める時間が
法第三十二条又は第四十条に規定する労働時間以下である場合には、
当該協定を届け出ることを要しない。




事業場外労働では、
「当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす」ことができ、
この「通常必要とされる時間」は施行規則によれば、
法定労働時間以下でなければならないわけではないことは明らかである。

専門業務型裁量労働制の施行規則も
確認してみる。


労働基準法施行規則
第二十四条の二の二 
法第三十八条の三第一項の規定は、
法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る
労働時間の算定について適用する。




ご覧のように、
労働基準法施行規則の「第二十四条の二」の第一項と
「第二十四条の二の二」の第一項は、構成がまったく同一である
ことがわかる。

ということは、
「事業場外労働のみなし」と
「専門業務型裁量労働制のみなし」の効果の適用範囲は、
同一であると考えるのが自然である。

したがって、
専門業務型裁量労働制の場合も、
法定労働時間を超えるみなし労働時間は許容されるべきである。

たとえば、
1日10時間労働したものとみなす場合、
所定労働時間8時間+時間外労働2時間労働したものとみなすことになり、
実際の労働時間に拘わらず、もれなく
2時間分の所定外労働賃金および割増賃金を支払う必要があることになる。

 

 

論点3・みなし労働時間制の適用範囲

事業場外労働に関するものであるが、
以下の通達がある。


みなし労働時間制の適用範囲
みなし労働時間制に関する規定は、
法第四章の労働時間に関する規定の範囲に係る
労働時間の算定について適用されるものであり、
第六章の年少者及び第六章の二の女子の労働時間
に関する規定に係る労働時間の算定については
適用されないものであること。

また、
労働時間のみなしに関する規定が適用される場合であっても、
休憩、深夜業、休日に関する規定の適用は排除されないものであること。
(昭和63.3.14 基発150号、平成12.1.1 基発1号)




この通達の後段をさらに詳しく解説した文章が
労働基準法コンメンタールにあり、
以下のとおり。


労働基準法コンメンタール平成22年版 P541
(ハ)休日
みなし労働時間制によって労働時間を算定する場合にも
休日に関する規定の適用はあり、
当該労働者が休日に業務に従事した場合には休日労働をしたことになる。
なお、
休日に事業場外での業務に従事した場合において
所定労働時間とみなされる場合の所定労働時間は、
休日の所定労働時間は0時間であるが、これによるのではなく、
労働日における所定労働時間による。

(ニ)深夜業
みなし労働時間制によって労働時間が算定される場合にも
これらの規定の適用はあるので、
労働者が現実に午後10時以降に労働した場合には、
使用者はその時間に応じた割増賃金を支払わなければならない。




論点2.で解説したように、
みなしの効果の適用範囲は、
事業場外労働も専門業務型裁量労働制も
まったく同一であると考えることができるので、
上記通達やコンメンタールの解説も
専門業務型裁量労働制に応用可能であると考えられる。

「休憩、深夜業および休日に関する規定については、適用は排除されない」とは、
「みなしの労働時間でなく、実際の労働時間で適用せよ。」という
意味であると解釈できる。

コンメンタール(ニ)深夜業の言わんとするところは、
深夜の割町賃金は実労働時間で算定し、支払え!
ということである。

深夜の割町賃金が実労働時間で算定されるのであれば、
法定休日労働の割増賃金も実労働時間で算定するのでないと、
辻褄が合わない。

ちなみに、
変形労働時間制は、「第32条 労働時間」の特例なので、
休憩、深夜業、休日に関する規定の適用は排除されないのは当然であろう。





論点4.休日の労働時間もみなすことができるのか?

前出コンメンタール(ハ)休日の「なお、・・・」以降を読む限り、
事業場外労働では、休日の労働時間もみなすことができるのは明らか。
であれば、
専門業務型裁量労働制の場合も同様であるべきである。

「休憩、深夜業および休日に関する規定については、適用は排除されない」、
すなわち、「みなしの労働時間でなく、実際の労働時間で適用せよ。」
という通達と、コンメンタール(ハ)と(ニ)を矛盾のないように論理的に考えると、

法定休日労働の1.0の支払い義務対象である労働時間はみなすことができるが、
0.35の支払い義務対象である労働時間は実労働時間で算定しなければならない。

と解釈すべきである。

ただし、
所定労働日のみなし時間を協定しているだけでは要件不足であり、
休日労働した場合のみなし時間を別途明確に協定している必要があろう。

所定休日労働の場合、
所定休日労働=時間外労働の扱いとなるため、
法定休日とは異なり、
1.0および0.25共にみなしの労働時間で算定することになる。





論点5.労働時間の上限規制の算定には、みなし時間を用いることができるのか?

平成31年4月の労働基準法改正により、
以下の規定が追加された。


労働基準法
(時間外及び休日の労働)
第三十六条
○6 使用者は、
第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、
又は休日において労働させる場合であつても、
次の各号に掲げる時間について、
当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。

一 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、
一日について労働時間を延長して労働させた時間 二時間を超えないこと。

二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、
及び休日において労働させた時間 
百時間未満であること。

三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に
当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間
を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、
及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 
八十時間を超えないこと。




みなし労働時間制に関する規定は、
法第四章の労働時間に関する規定の範囲に係る
労働時間の算定について適用される。

第36条が法第四章に属する条文であることを考慮すると、
時間外労働の算定および休日労働時間の算定にも、
みなし労働時間制に関する規定は適用できると考えるべきである。

したがって、
労働時間の上限規制の算定には、みなし時間を用いることができる
という結論に達する。



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