(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

(定義)
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

 

【第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」と第10条の「事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者(労働者に限る)」の違いとは?】

答え:概略は下表のとおり。

 

管理監督者

使用者

該当する確率(範囲)

低い(狭い)

高い(広い)

キーワードの出現頻度
※労働基準法のみ対象

第41条のみ

多数

労基法の履行義務

履行義務なし

履行義務あり

賃金に関する規制

一般労働者と比較して優遇

特になし

最低賃金法の適用

適用

適用

労働時間、休憩および休日に関する規制

適用対象外。逆説的には、かなり自由な身である。

適用される

労働時間の把握の必要性

あり

あり

労働契約の内容

労働者として契約必要。
36協定不要。
割増賃金支払い有無の明示に注意。

労働者として契約必要

過半数代表者になれるか?

例外を除きなれない。

なれる。

過半数代表者選出の投票、挙手等に参加できるか?

参加できる。

参加できる。

労使協定の適用を受けるか?

36協定の除外等他の規定がある場合を除き適用を受ける。

他の規定がある場合を除き適用を受ける。

労基法の罰則の適用があるか?

対象条文によりあり

対象条文によりあり




【根拠】

第41条に「…次の各号の一に該当する労働者については…」とあり、
「監督若しくは管理の地位にある者(以下、管理監督者という)」は労働者
であることは明白である。

すなわち、
第41条第2号は「管理監督者である労働者」が対象者
であることを示している。



一方、
第10条の使用者は、
労働者に限定されていない。

使用者は、
@「事業主」、
A「事業の経営担当者」および、
B「その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする者」
に分類できる。

@「事業主」は、
個人企業であればその企業主個人、
会社その他の法人組織であれば法人そのものであり、
事業主=労働者はあり得ない。

Bは、
「事業主のために行為をするすべての者」とされており、
委任関係にある法人の役員に限らず、
委託関係にある社労士等を含み、
権限と責任をもつ労働者もその限度において使用者となり得る。


AとBを厳格に分けて考えても実益はないと思われるので、
AはBに含まれることとし、
ここでは分けて考えない。

すなわち、
事業主のために行為をする場合、
その労働者は使用者として、
労働基準法各条の規制に服する必要がある。



使用者および管理監督者について、
以下の通達が発出されている。

労働基準法の施行に関する件(昭和二二年九月一三日 発基第一七号)


「使用者」とは本法各条の義務についての履行の責任者をいひ、
その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、
本法各条の義務について実質的に一定の権限を与へられてゐるか否かによるが、
かゝる権限が与へられて居らず、
単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とはみなされないこと。


右の権限の所在については
各事業毎に予め明かにする様指導すること。



監督又は管理の地位に存る者とは、
一般的には局長、部長、工場長等
労働条件の決定、その他労務管理について
経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、
名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について
実体的に判別すべきものであること。




日々の業務を行う上では、
「使用者である労働者」≒「管理監督者である労働者」と捉えがちであるが、
本来は別々に定義されており、
これらはまったく別物である。

しかし、
その境目がハッキリしておらず、
法律オタクとしては非常に気持ちが良くない。

以下では、
様々な観点から
「管理監督者(である労働者)」と「使用者(である労働者)」の違い
を検証してみる。

 



【労働者が「使用者」または「管理監督者」に該当する確率は、どちらが高いか?】


「管理監督者」について、以下の通達がある。

(2)適用除外の趣旨

これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法 41条による適用の除外が認められる趣旨であること。したがって、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。(昭63.3. 14基発150 ・婦発7)




「管理監督者」に該当すると、
労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されない
ブラック労働者になる危険があること、

「使用者」は、「事業主のために行為をするすべての者」とされていること、

「使用者」に該当すると直ちに不利益といえる事象が発生するとは思えないこと、

以上を考慮すると、
「使用者」の方が、「管理監督者」よりも該当確率が高そうである。



以下の通達があるが、
私見ではスタッフ職はよほど重要な機密を取り扱う者でない限り、
第41条の該当者として取り扱うべきではないと考える。

(5)スタッフ職の取扱い

法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護にかけるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲のものについては、同法第41条2号(管理監督者または機密事務取扱者)該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。(昭63.3. 14基発150 ・婦発7)

 



【労働基準法でのキーワードが出現する条文の違い】

労働基準法(以下、労基法と略)において、
「管理監督者」が出現するのは、第41条のみである。
「使用者」は数えたくないくらい多数出現する。

 



【労基法の履行義務があるかどうか?】

労働基準法の多くの条文構成は、
「使用者は、…しなければならない。」であり、
「使用者」にはその限度において履行義務がある。

「管理監督者」に該当するだけでは、
労働時間、休憩及び休日に関する規定の適用が除外されるだけであり、
労基法の履行義務者ではあり得ない。

 



【賃金に関する規制があるか?】

「管理監督者」の待遇について、
以下の通達がある。

●待遇に対する留意

管理監督者であるかの判定にあたっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇待遇が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。(昭63.3. 14基発150 ・婦発7)




一般労働者と比較して
賃金・賞与面で優遇措置が講じられていることが、
「管理監督者」に該当する必要条件であると言える。

「使用者」については、
賃金、賞与に関する規制は、
最低賃金を除いて存在しないようである。

 



【最低賃金の適用があるか?】

最低賃金法

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。

(最低賃金額)

第三条 最低賃金額(最低賃金において定める賃金の額をいう。以下同じ。)は、時間によつて定めるものとする。

(最低賃金の効力)

第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす。

(最低賃金の減額の特例)

第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
一 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者
二 試の使用期間中の者
三 職業能力開発促進法第二十四条第一項の認定を受けて行われる職業訓練のうち職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させることを内容とするものを受ける者であつて厚生労働省令で定めるもの
四 軽易な業務に従事する者その他の厚生労働省令で定める者



最低賃金法施行規則

第三条2 法第七条第四号の厚生労働省令で定める者は、軽易な業務に従事する者及び断続的労働に従事する者とする。ただし、軽易な業務に従事する者についての同条の許可は、当該労働者の従事する業務が当該最低賃金の適用を受ける他の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な場合に限り、行うことができるものとする。


 


労働者である以上、
「管理監督者」であっても「使用者」であっても、
最低賃金法(以下、最賃法と略)の適用を受けると考えられる。

しかし、
以下の通達がある。

多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について(平成20年9月9日 基発第0909001号)

3 「賃金等の待遇」についての判断要素
(3) 時間単価
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。


 



この通達を読む限り、
管理監督者の賃金額が最低賃金額に満たない場合がある
ことを想定していることは間違いない。

この通達には、
「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について」
というQ&Aも存在するが同様の論調である。

最賃法第7条に最低賃金額の減額特例が規定されており、
管理監督者に減額が適用できそうなのは、
「他の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な業務に従事する者」
に該当する場合ではないかと推測する。

ということは、
「多店舗展開する小売業や飲食店においてアルバイトをこき使い、
自分は寝てばかりいるような仕事をしない店長に対して、
行政は罰として?最賃法の減額特例の許可を出すことがある!」
と考えているのであろうか?


実はそうではない。
最低賃金法は出来高給(≒歩合給)を除き、
所定労働時間外の労働には関知しないのである。

 

最低賃金法
(最低賃金の効力)
第四条 
3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
二 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金



最低賃金法施行規則
(算入しない賃金)
第一条 最低賃金法(以下「法」という。)第四条第三項第一号の
厚生労働省令で定める賃金は、
臨時に支払われる賃金及び一月をこえる期間ごとに支払われる賃金とする。

2 法第四条第三項第二号の厚生労働省令で定める賃金は、
次のとおりとする。
一 所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金
二 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金
三 午後十時から午前五時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち
通常の労働時間の賃金の計算額をこえる部分


以上より、
所定労働時間をこえる時間の労働に対して支払われる賃金≒残業代や
所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金≒休日出勤手当などは、
最低賃金に含めないことは明らかである。

問題は、
最低賃金を算定する際に、
所定労働時間をこえる労働時間を分母に含めるのか?
という論点に行き着く。

法および施行規則では、
「通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金は、最低賃金に算入しない。」
と言っているだけであって、
通常の労働時間又は労働日以外の労働時間を算入しない
とは言っていない。

この論点の結論は、
「通常の労働時間又は労働日以外の労働時間も分母に算入しない。」
のが正しい。


厚生労働省のホームページでは、
以下のとおり、最低賃金検討時に
明確に労働時間に時間外労働の時間数を含めて計算していない。

※出来高給(≒歩合給)の最低賃金検討時に、
分母を総労働時間としているのは
割増賃金の単価算出のロジックと同様の考え方によるものである。

 

【歩合給制の場合の換算方法2:××県で働くDさんの場合(固定給と歩合給が併給される場合)】

××県のタクシー会社で働く労働者Dさんは、
あるM月の総支給額が192,238円であり、
そのうち、
固定給が119,000円(ただし、精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除く。)、
歩合給が42,000円、
固定給に対する時間外割増賃金が26,250円、
固定給に対する深夜割増賃金が2,625円、
歩合給に対する時間外割増賃金が1,575円、
歩合給に対する時間外割増賃金が1,575円、
歩合給に対する深夜割増賃金が788円となっていました。
なお、
Dさんの会社の1年間における1箇月平均所定労働時間は月170時間で、
M月の時間外労働は30時間、深夜労働が15時間でした。
××県の最低賃金は、時間額850円です。

Dさんの賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは次のように調べます。

(1) 固定給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を
1箇月平均所定労働時間で除して時間当たりの金額に換算すると、
119,000円÷170時間=700円

(2) 歩合給(最低賃金の対象とならない賃金を除いた金額)を
月間総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算すると、
42,000円÷200時間=210円

(3) 固定給の時間換算額と歩合給の時間換算額を合計し、
最低賃金額と比較すると、
700円+210円=910円>850円

となり、最低賃金額以上となっています。


上記において、
もし固定給部分も総労働時間を分母として除する場合、
残業代が支払われる管理監督者でない一般労働者でも
最低賃金を割り込んでしまう可能性が出てきてしまい、
不合理である。

また、
「一般労働者の最低賃金計算時には、所定労働時間を分母にする。」
けど、
「管理監督者の最低賃金計算時には、総労働時間を分母にする。」
というのも、不合理である。

以上より、
管理監督者はどんなに長時間労働をしても、
労働基準法第32条の法定労働時間に違反することはなく、
時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たなくても、
最低賃金法にも違反しないことになる。






【労働時間、休憩および休日に関する規制があるか?】

「管理監督者」に該当すれば、
法律上当然に労働時間、休憩および休日に関する規定は適用されない
(年次有給休暇および深夜業の割増賃金は適用。)。

「労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて
活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、
現実の勤務形態も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」
が「管理監督者」であると定義できるので、
職務に応じた出退勤や職場離脱の自由も保障されるべきである。

一方、
「使用者」であるというだけであれば一般の労働者と同様、
労働時間、休憩および休日に関する規定はすべて適用される。

また、
「管理監督者」および「使用者」ともに
最低賃金額を満たしている必要があるため、
労基法上当然に労働時間を把握する必要がある。

 



【労働契約の内容(就業規則含む)に違いがあるか?】

「管理監督者」および「使用者」ともに労働者である以上、
労基法第15条(労働条件の明示)の適用がある。

よって、
所定労働時間等を明示して
労働契約を結ぶ必要がある。

また、
時間外・休日労働を命じるためには、
労働契約上の根拠が必要となるが、
「管理監督者」については、36協定は不要である。

労働基準法はその最低基準を満たしている限り、
私法上の契約である労働契約に干渉しない。

したがって、
「管理監督者」に時間外・休日労働の割増賃金を支払わない場合は
労働契約に明示しておく必要がある。

 



【労使協定上の取り扱いの違い】

労使協定の過半数代表者について、
以下の通達がある。

労働基準法の一部を改正する法律の施行について (平成一一年一月二九日 基発第四五号)

第一三 過半数代表者
二 過半数代表者の要件
次のいずれの要件も満たすものであること。
(一) 法第四一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
(二) 法に基づく労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者等を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であり、使用者の意向によって選出された者ではないこと。
なお、法第一八条第二項、法第二四条第一項ただし書、法第三九条第四項、第六項及び第七項ただし書並びに法第九〇条第一項に規定する過半数代表者については、当該事業場に上記(一)に該当する労働者がいない場合(法第四一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者のみの事業場である場合)には、上記(二)の要件を満たすことで足りるものであること。




以上より、
下表のとおりと考えられる。

 

管理監督者

使用者

過半数代表者になれるか?

例外を除きなれない。

なれる。

過半数代表者選出の投票、挙手等に参加できるか?

参加できる。

労使協定の適用を受けるか?

36協定のように他の規定がある場合を除き適用を受ける。

他の規定がある場合を除き適用を受ける。

 



【労基法の罰則適用】

たとえば、
以下の条文には
それぞれ罰則が規定されている。

(強制労働の禁止)

第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
(中間搾取の排除)
第六条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。




したがって、
条文により使用者はもちろん、
管理監督者でもない一般労働者であっても、
罰則の適用を受ける場合がある。



トップページへ戻る。