そもそも、
「副業・兼業」とは何なんでしょうか?

まずは、
「副業・兼業」の定義を明確にします。

「副業・兼業」には2つあると考えられます。

1人の労働者が、
@同一の企業の2以上の事業場において働く場合
A異なる2以上の企業において働く場合
です。

ここでは、特記がない限り、
A異なる2以上の企業において働く場合を
「副業・兼業」と定義します。

 

それでは、
企業は社員の「副業・兼業」を
認めなければならないのでしょうか?

言い方を変えれば、
企業は社員の「副業・兼業」に対して、
どの程度の規制を掛けることができるのでしょうか?

法的に考えてみたいと思います。

 

労働基準法には、
「副業・兼業」を直接的に規制する条文
は存在しません。

ただし、
労働基準法第38条において、


(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、
労働時間に関する規定の適用については通算する。


という規定があります。

 

「事業場」とは、
●同じ法人であっても、工場と診療所は別々の事業場
●同じ場所にあっても、異なる企業であれば別々の事業場
と定義されています。

したがって、
「事業場を異にする場合」には、
「異なる2以上の企業で副業・兼業をする場合」も含まれ、
「副業・兼業」をある程度想定していると考えることができます。

以上より、
強行法規であり労働者保護法である労働基準法は、

●使用者は労働者に「副業・兼業」させてはならない。
とも、
●使用者は労働者の「副業・兼業」を認めなければならない。
とも言っておらず、

「副業・兼業」は当事者(使用者と労働者)の自由である。
という立場を取っていると考えられます。

 

また、
社会保険各法では、
被保険者の「副業・兼業」を想定しています。

雇用保険法では、
「雇用保険に関する業務取扱要領(平成30年2月5日以降)」において、


同時に2以上の雇用関係にある労働者については、当該2以上の雇用関係のうち一の雇用関係(原則として、その者が生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用関係とする)についてのみ被保険者となる。


としています。
※行政解釈のみで被保険者を限定するのは、問題だと考えますが…。



健康保険法や厚生年金保険法においても、
「二以上の事業所に使用される場合」として各種規定が存在します。


健康保険法
(保険料の負担及び納付義務)
第百六十一条4 被保険者が同時に二以上の事業所に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令で定めるところによる。


厚生年金保険法
(保険料の負担及び納付義務)
第八十二条3 被保険者が同時に二以上の事業所又は船舶に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令の定めるところによる。


このように、
社会保険法では、
いつでも「副業・兼業」に対応できる状況にあります。

 

それでは、
司法(裁判所)ではどのように考えているのでしょう?

「副業・兼業」に関する裁判例では、


労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由である
小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)


という基本姿勢のもと、

@ 労務提供上の支障がある場合
A 企業秘密が漏洩する場合
B 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
C 競業により、会社の利益を害する場合

に限り、
企業は社員の「副業・兼業」を規制できる
という判断をしています。

 

以上より、
誤解を恐れずに結論を申し上げるならば、
以下のとおり。

法律では、
「副業・兼業」の可否について
企業は社員の「副業・兼業」をさせてはならない。
とも、
企業は社員の「副業・兼業」を認めなければならない。
とも言っておらず、
「副業・兼業」は当事者(使用者と労働者)の自由である。
と考えている。

したがって、
企業には、
組織の秩序を維持する権利があり、
公序良俗に反しない範囲で
就業規則等の労働契約により、
社員の「副業・兼業」を規制することができる。

しかし、
「副業・兼業」が原因でトラブルが発生し、
司法判断を受けなければならない場合、
4つの限られた正当な理由がなければ、
「副業・兼業」を認めざるを得ないのが現状と言えます。

 

これ以降のコンテンツでは、
厚生労働省がホームページで公開している
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
および
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A
に記載されている基本事項には触れませんので、
各自でご確認願います。



トップページへ戻る。