先日、

私のホームページ「社会保険適用研究室」

を見た総務担当者様から、

「当社の永年勤続表彰金は、社会保険の賞与に該当するか?」

というご質問をメールでいただきました。

 

そこで、

社会保険審査会の裁決を踏まえ、「該当しないのでは?」

とご回答申し上げたところ、また返信があり、

『健康保険組合に問い合わせたところ、

「そんな裁決は知りません。1万円でも賞与です。」

と言い切られました。』というのです。

 

さて、

この「そんな裁決は知らん。」という健康保険組合の回答は、

適切なのでしょうか?

 

 

 

【社会保険は不服申し立てができる】

日本年金機構や健康保険組合が行った、

被保険者資格や標準報酬や保険給付に関する「処分」に

不服がある場合は、社会保険審査官(以下、審査官)

というお役人に審査請求をすることができます。

 

また、

審査官が行った審査請求に対する「決定」にも

不服だという場合は、社会保険審査会(以下、審査会)に

再度の審査請求をすることができます。

 

令和元年の審査会の審査請求受付件数は、1,712件であり、

障害年金関係が1,383件と80%以上を占めます。

 

審査請求に対する審査会の判断を「裁決」と言いますが、

令和元年に下された1,257件の裁決のうち、

容認(不服申し立ての全部または一部を認める趣旨の裁決)

が90件と全体の1割未満に留まっており、

主張を認めてもらうのは、結構困難だと言えます。

 

 

 

【審査会は厚生労働省版の最高裁判所】

社会保険審査官は、厚生労働大臣により任命され、

各地の厚生局に配属されており、定数は103人です。

 

一方、

社会保険審査会は、参議院および衆議院の同意を得て、

厚生労働大臣により任命された委員長1名と委員5名

(現在は、裁判官2名、医師2名、保険会社役員1名

および社労士1名)の合計6名で構成され、

当然のことながら厚生労働省に設置されています。

 

高等裁判所は全国に8箇所、最高裁判所は1箇所のみ

なのですが、

審査官が居る厚生局も全国に8箇所、審査会は1箇所のみ

であることを考慮すると、

審査会は厚生労働省版の最高裁判所と言えましょう。

 

高裁以下の下級審による個別事例判断を「裁判例」

と呼ぶのに対し、

最高裁による法律解釈としての最終判断を「判例」

と呼びますが、その重さには天と地ほどの差があります。

 

これは、厚生労働省でも同じで、

厚生労働省の一職員である審査官が1人だけで下す

「決定」は、個別の事例判断に留まりますが、

両議院の同意を得て選ばれしプロが3人で相談して下す

「裁決」は、厚生労働省の最終判断の意味を持ちます。

 

となれば、審査官が、

審査会の過去の「裁決」を先例として参考にした上で、

「決定」を下していることは、間違いないでしょう。

 

 

 

【健康保険組合が裁決に逆らうなんてとんでもない!】

さきほど、

審査官の「決定」に不服だという場合は、

審査会に再度の審査請求できると書きましたが、

これは被保険者側が不服の場合に限ります。

 

日本年金機構や健康保険組合などの行政側が、

審査官の「決定」に不服だとしても審査会に

再審査請求できません。

 

審査官が所属する厚生局が、

日本年金機構や健康保険組合を指導監督するお役所

であることを考えれば、

審査官様の下された尊い「ご決定」に不服だなんて、

そんな恐れ多いことは許されませんから。

 

となれば、日本年金機構や健康保険組合は、

審査官様が参考にされている審査会様の「ご裁決」を

金科玉条として、アタマに焼き付けるべきです。

 

以上より、

健康保険組合の「そんな裁決は知らん。」という発言は、

極めて不適切であると申せましょう!



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