最終更新日:令和7年8月4日
借り上げ社宅に入居中の社員が約1年間育児休業する予定の場合、
育児休業期間中の家賃はその全額を社員の本人負担とし、
会社は家賃を負担しなくてもよいのでしょうか?
考えてみましょう。
<社宅は、現物給与または福利厚生のどちらかになる>
社宅の供与は、その運用実態により、
現物給与として、労働法上の賃金に該当する場合と、
福利厚生として、労働法上の賃金に該当しない場合が
あります。
社宅の供与が労働法上の現物給与(賃金)に該当する場合は、
・労働組合と労働協約を締結する必要あり。
・就業規則や労働条件通知書に記載が必要。
・労働・社会保険料の算定基礎になり得る。
ということになります。
一方、
社宅の供与が労働法上の福利厚生に該当する場合は、
・労働協約は不要。ただし、団体交渉の対象にはなり得る。
・いわゆる「労働条件」に含まれない場合があるが、「その他の待遇」にはなる。
・労働保険料の算定基礎にはならないが、社会保険料の算定基礎にはなり得る。
という違いがあります。
<現物給与と福利厚生の判断基準>
労働法上、
社宅の貸与が現物給与なのか?、福利厚生なのか?
の判断判断基準は次の通りです。
1.社宅に入居していない社員に対して、定額の均衡手当を支給していない
⇒社員の家賃負担の有無に関わらず、福利厚生となる。
2.社宅に入居していない社員に対して、定額の均衡手当を支給している
2−1:社員の家賃負担がない
⇒現物給与となり、その賃金額は「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」となる。
2ー2:社員の家賃負担がある
2−2−1:社員の家賃負担額が「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」の3分の1以上
⇒福利厚生となる。
2ー2ー2:社員の家賃負担額が「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」の3分の1未満
⇒現物給与となり、その賃金額は「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」の3分の1と社員の家賃負担額との差額となる。
ちなみに、
社会保険(健康保険と厚生年金保険)の世界では、
均衡手当の支給の有無は関係なく、以下のとおりです。
3−1:社員の家賃負担がない
⇒現物給与となり、その報酬額は「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」となる。
3ー2:社員の家賃負担がある
3−2−1:社員の家賃負担額が「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」以上
⇒福利厚生となる。
3ー2ー2:社員の家賃負担額が「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」未満
⇒現物給与となり、その報酬額は「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」と社員の家賃負担額との差額となる。
<社宅入居中の社員が育児休業したらどうすべきか?>
社員の家賃負担があるものの、
社宅に入居していない社員に対して、
定額の均衡手当を支給していない場合は、
社宅の貸与は労働法上の福利厚生に該当することになります。
社宅に入居していない社員に対して、
定額の均衡手当を支給しており、
入居している社員の家賃負担がなかったり、
「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」の3分の1未満であったりした結果、
労働法上の現物給与に該当する場合も
検討してみます。
●労働法上の現物給与に該当する場合
育児介護休業法では、
育児介護休業等の申出等又は取得等を理由とする
解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。
「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる
労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるように
するために事業主が講ずべき措置等に関する指針」
の第2の11に不利益な取扱いについて具体的な記述
があり、
「専ら当該育児休業等により
労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして
取り扱うことは、不利益な取扱いには該当しない。」
とあります。
この記述は、賃金における
ノーワーク・ノーペイの原則と整合します。
以上を考慮すると、
社宅の貸与が労働法上の現物給与に該当する場合は、
育児休業期間中、会社は家賃を負担しなくてよい
とカラカマは考えます。
●労働法上の福利厚生に該当する場合
同指針には、
福利厚生に関する不利益な取扱いについて言及して
いません。
重要な労働条件である賃金ですら、
ノーワーク・ノーペイの原則の範疇内であれば、
減額・不支給でも不利益取扱いにならないのであれば、
その他の待遇である福利厚生の相応の低下も許容されるべきです。
以上を考慮すると、
社宅の貸与が労働法上の福利厚生に該当する場合も、
育児休業期間中、会社は家賃を負担しなくてよい
とカラカマは考えます。
ただし、
育児休業期間中、社宅から強制退去させることは、
公序良俗に反すると思われるのでやり過ぎでしょう。
社宅を貸与する際は、
就業規則、労働協約または労働条件通知書等の書面に、
「長期の欠勤、休業および休職期間中の家賃は、原則として
その全額を社員の本人負担とし、会社は家賃を負担しない。」
と明記しておくとよいかもしれません。
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