労働基準法(以下、労基法と略。)第39条には、
「継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」
と規定している。
ということは、
年休の付与対象となる日=「労働日」
であることは間違いない。
この「労働日」は、
世間の一般常識では「所定労働日」であると考えられているようで、
「所定休日に年休は付与できない。」と考えられているようであるが、
これは、本当に法的に正しい解釈なのだろうか?
労基法において1日とは、原則として
0時〜24時までを指す。
同様に「法定休日」とは、原則として
「週1回の0時〜24時まで継続して労働義務を課してはならない日」
と言える。
※「法定休日」が完成する為には、
実際に労働していないことが必要である。
このように「法定休日」は明確な定義がある一方で、
「法定労働日」という概念について
労基法では明確に規定されていない。
ここではまず、
労基法において統一的な「法定労働日」を定義できないか?
について考えてみたい。
労基法全体の趣旨を考慮すると「法定労働日」とは、
「法定休日を除く、当初の労働義務の有無にかかわらず
実態として労働力を提供したすべての日」
と定義できそうである。
ということは、
所定(内)労働日も所定休日(だった)労働日(所定外労働日とも呼べそう。)も、
労基法上では、同じ「法定労働日」として取り扱うべきとも考えられる。
労基法には「労働日」というキーワードが出てくる条文が複数あり、
たとえば、
@年休付与判定上の「全労働日」
A年休付与対象となる「十労働日」
B賃金台帳に記載すべき「労働日数」
などがある。
ためしに、
@とBを比較してみると下表のとおりである。
|
原則 |
所定休日出勤日
の取り扱い |
法定休日出勤日
の取り扱い |
年休付与判定上の
「全労働日」 |
対象期間における所定労働日 |
含まれない |
含まれない |
賃金台帳に記載すべき
「労働日数」 |
実際に労働した日すべて |
含む |
含む |
このように、
「労働日」はその使われる条文・規定によって、
意味が異なることになるため、
統一的な「法定労働日」を定義することはできなさそうである。
それでは、
年休付与対象となる「十労働日」における
「労働日」はどの範囲であると考えるべきか?
私は、
かつて所定休日だった労働日にも年次有給休暇を与え得る
と考えています。
具体例として、
所定休日には労働義務はないので、年休は取得し得ないのですが、
「業務の都合により、所定労働時間を超え、または所定休日に労働させることがある。」
と就業規則に規定してあったうえで、
実際に業務の都合により全社員に対し、所定休日に出勤命令を出した場合、
社員によっては、その日に出勤できないことも想定されますが、
このような法定休日の労働日に年休を取得し得るのでしょうか?
働き方改革の労基法改正のQ&A3−17では、
「Q:今回の法改正を契機に、法定休日ではない所定休日を労働日に変更し、
当該労働日について、使用者が年次有給休暇として時季指定することはできますか。」
というエグイ質問に対して、
「A:ご質問のような手法は、
実質的に年次有給休暇の取得の促進につながっておらず、
望ましくないものです。」
という非常に煮え切らない回答がなされています。
※個人的には、こんなQ&Aは載せなきゃいいのにと思いますが。
比例付与の対象となるかどうかは、
基準日において定められている所定労働日数によって決まります。
※「基準日」とは、
年休の権利が発生することになる
入社から6箇月経過した日およびその後1年間経過した日をいいます。
つまり、
年休付与の対象となる「労働日」は、
毎年基準日が到来して初めて確定することになり、
毎年基準日前に所定労働日を再確認・再検討・場合により変更することは
むしろ望ましいことといえます。
いままで所定休日であった日(たとえば、土日週休二日制の場合の土曜日)を
基準日においてあらかじめ所定労働日に変更することは、
労働者の同意があり、法定休日が確保されていれば完全に合法なので、
所定労働日である土曜日に年休を付与することは問題ありません。
※労働者と合意していなかった結果、
民事訴訟となった場合に労働条件の不利益変更と評価されてしまうと
労働契約法により労働条件が変更されなかったことになってしまいますが・・・、。
このQ&Aを行政として許容しているのであれば、
少なくとも以下の条件を満たせば、
基準日後において所定休日を労働日に変更した場合でも
その日は労働日であることには違いなく、年休は付与できし、
不利益な労働条件の変更にもならないと考えます。
@業務の都合による出勤命令であり、それに対する年休取得であること。
年休消化が真の目的だと認定されると、
公序良俗に反し無効となる可能性大。
A特定の社員個人に対する出勤命令でなく、
ある業務を遂行するために必要な部署単位(全社でももちろんOK)
に対しての出勤命令であること。
特定の社員個人に対する出勤命令に対し、その社員が出勤できない場合、
そもそもその所定休日は、所定休日労働日の不就労とせず、
所定休日のままと考えた方が自然。
また、
「出勤できない人は休日のまま。」というのは、
頑張って出勤した社員からの不満も予想され、
職場秩序の維持という観点からも望ましくなく、
不合理である。
出勤できない社員は欠勤扱いか年休取得とすべき。
B出勤命令のタイミングと出勤日の間に
ある程度の時間的隔たり・余裕があること。
前日の22時過ぎに「明日8時に、全社員出勤するように!」
という出勤命令も就業規則上一応アリだが、
無茶振りに対し、出勤できない社員を欠勤扱いするのは、
やりすぎであり公序良俗に反すると考えられる。
この場合、
出勤した社員は、所定休日労働日とし、
出勤しなかった社員は所定休日と捉えるべきであり、
年休も与えるべきでない。
Cちゃんと有給としてその分の賃金を支払っていること。
Q&Aの場合、
所定内労働日となるので月給制だと賃金が増えないことになり
不利益変更となる可能性大だが、
事例の場合は、
所定外労働日なので月給でも日給でも余分に賃金を支払わなければならないので、
不利益感が薄いし、いかにも有給っぽい。
最後に、
法定労働日の違いをまとめるならば、
下表のとおりとなります。
|
原則 |
所定休日出勤日
の取り扱い |
法定休日出勤日
の取り扱い |
年休付与判定上の
「全労働日」 |
対象期間における(過去の)所定労働日 |
含まれない |
含まれない |
年休付与対象となる
「十労働日」 |
基準日における労働契約上の(未来の)所定労働日 |
所定休日だった労働日も含むべき |
法定の休日であり法定の労働日たりえないので含むことはできない |
賃金台帳に記載すべき「労働日数」 |
実際に労働した日すべて |
含む |
含む |
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