退職金は、定年後に同じ会社で再雇用契約を締結し、 継続して働く場合でも、定年時に支払われるのが 一般的です。
退職金はとてつもなく重要な労働条件なので、 退職金ルールを変更する際は慎重な手続きを経る 必要があります。
今回は、 定年引上げ時の退職金の取り扱いをどうするか? について考えてみたいと思います。
【退職金は、労働法的にはかなり自由】 毎月支払われるお給料については、 労働基準法により厳しく規制されていますが、 退職金については、支払うかどうか会社の自由です。
インターネットで調べたところ、退職金制度のない 企業は約20%、5社に1社は退職金がないそうです。
同一労働同一賃金等の民事的な問題はありますが、 基本的には退職金制度の対象者、支給単価、 勤続年数に応じた乗数(以下、勤続乗数)、 自己都合退職時の減額率および支給時期等は 会社が自由に決定することができます。
定年年齢を引き上げたら、退職金額算定時の勤続乗数も 引き上げなければならないと思っている方がいますが、 そのような法的規制はありません。
たとえば、 定年を65歳に引き上げても勤続乗数は従前の定年年齢 である60歳までしか増加させないことも可能です。
ただし、 一度退職金制度を作り、社員に周知した場合、 それは労働契約の内容となるため、制度を変更する際には、 いわゆる不利益変更にならないように注意する必要 があります。
以下では、 定年年齢を60歳から65歳に引き上げた場合における 退職金制度について3パターンに分けて検討してみます。
【パターン1 支給額そのまま+支給時期引き上げ】】 算定対象となる勤続年数は60歳までのまま変更せず、 支給額は据え置きとし、支給時期のみ新定年年齢の 65歳に引き上げるパターンです。
今までは60歳になれば退職金が貰えたのに、 金額はそのままで更に5年待たなければならないので、 不利益変更と判断される可能性が高いでしょう。
このパターンを採用する場合は、社員にじっくり説明 したうえで個別の合意を得る必要があります。
ハッキリ言って、おススメできません。
【パターン2 支給額増額+支給時期引き上げ】 算定対象となる勤続年数を5年間延長することにより 60歳定年時よりも支給額を増やして、65歳定年時に 支給するという最もしっくり来そうなパターンです。
支給年齢引き上げだけなら、不利益な変更ですが、 支給額も増やしているので、増加額が相当な額で あれば、全体として合理的な変更と考えられます。
長期的に見て、人件費が増加する選択肢なので、 原資があまりない企業は採用すべきでないでしょう。
【パターン3 支給額も支給時期も変更しない】 今までと変わらず、従前の定年年齢である60歳到達時 に退職金を支給してしまうパターンです。
定年年齢は引き上げるけど、退職金制度は変えない ので、不利益変更の問題も生じないでしょう。
最も楽チンな選択肢と言えます。
ただし、 定年年齢引き上げ後に入社した社員については、 支給時期は65歳定年時にすべきです。
何故なら、 所得税の退職所得控除が受けられない可能性がある からです。
とある税理士さんの見解では・・・、 「定年年齢変更前に入社した社員については、 労働契約とおり60歳到達時に退職金を支給することは、 合理的であると考えられ、実際は退職してないけど 退職所得控除は受けられる。
一方、定年年齢変更後に入社した社員については、 65歳定年時に支給するのが自然と考えられる。
したがって、 退職金の支給時期は、労働契約締結≒入社時期が 定年年齢引き上げ前か?後か?で変更すべき。」 とのことでした。
ちなみに、労働・社会保険面では、 「在職中に、退職金相当額の全部または一部を 給与や賞与に上乗せするなどにより前払いされるもの は、賃金や報酬に該当する。」という考え方なので こちらも注意しましょう! |