社員が不慮の事故で急死してしまった場合、

社員に支払うべき賃金の未払いが発生することがあります。

この場合、

・遺産相続人である遺族が明確な場合

・遺族はいるけど、相続放棄している場合

・遺族がいるのか?誰なのか?よくわからない場合

等の事情によって対処方法は異なるのでしょうか?

 

 

【遺産相続人である遺族が明確な場合】

労働基準法第24条において、賃金は、

1.通貨で
2.直接労働者に
3.その全額を
4.毎月一回以上
5.一定の期日を定めて

支払わなければならないとされており、

これを賃金支払い5原則と呼んだりします。

「直接労働者に」支払う「直接払い原則」について、

第24条には例外が一切規定されておらず、唯一、

社員と生計を共にする「使いの者」に支払うこと

は大目に見ましょうという行政解釈がある程度です。

ちなみに、

他の法律による例外は存在し、国税徴収法や民事執行法

に基づき、賃金の一部を差押債権者に直接支払うことは、

「直接払い原則」に違反しないとされています。

 

見落としがちですが、労働基準法第23条には、

「直接払い原則」の例外が規定されています。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

労働基準法第23条(金品の返還)
使用者は、労働者の死亡の場合において、権利者の
請求があつた場合においては、七日以内に賃金を
支払わなければならない(一部省略)。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

通常であれば、賃金を受け取る権利者は、社員本人ですが、

社員が亡くなった場合の未払い賃金は相続財産となるため、

未払い賃金の受給権利者は、社員の遺産相続人となります。

したがって、

遺産相続人である遺族が明確な場合は、その遺族に

対して未払い賃金を支払えばよいことになります。

 

 

【遺族はいるけど、相続放棄している場合】

上記のように通常であれば、

社員の遺族に対して未払い賃金を支払えばよいのですが、

社員に多額の借金があり、遺族が相続放棄をしている

場合等、遺族から未払い賃金の受領を拒否されたときは、

どう考えたらよいのでしょうか?

第23条には、「権利者の請求があつた場合」

という条件が付いています。

相続放棄している遺族は、

未払い賃金を請求しないでしょうし、

遺産相続人でないので「権利者」ですらないと

考えられるので、この場合は、

第23条は適用されないと考えるべきです。

死亡した社員はもちろんのこと、遺族にも賃金を

支払えないとなると、賃金の不払いとなるため、

法律理論上、労働基準法第24条違反が成立し、

30万円以下の罰金に処される可能性があります。

とはいえ、

本事例で実際に書類送検しようと考える鬼のような

労働基準監督官が実在するとは思えませんので、

賃金の請求権の時効である5年(当分の間3年)が

経過するまで気長に待てば、労働基準監督官も何も

言わないでしょう。

現実的な対処方法としては、

他に遺産相続人がいないということが確実であれば、

賃金相当額を香典として出してあげれば、

亡くなった社員も安心して成仏できるものと思われます。

 

 

【遺族がいるのか?誰なのか?よくわからない場合】

遺産相続人がいるのか?誰なのか?よくわからない

場合は、誰かハッキリしてから支払うということでも

遅くはないでしょう。

ただし、

早く支払ってしまってスッキリしたいという場合は、

法務局の供託所に未払い賃金を供託するのが確実な方法

と考えられます。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

民法第494条(供託)
1 弁済者は、次に掲げる場合には、
債権者のために弁済の目的物を供託することができる。
この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
二 債権者が弁済を受領することができないとき。

2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。
ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

この供託は、

社員が突然失踪して銀行振り込みできない場合にも

有効な賃金支払い方法なので、覚えておいて損はない

と思います。

 

 

社員が在職中に亡くなった場合、会社によっては、

死亡退職金を支給することがあります。

死亡退職金は「社員の死亡による退職」という

事実の発生により支給が確定するもの、すなわち

社員が死亡した後に発生する権利であることから、

死亡退職金は相続財産ではありません。

死亡退職金は、

就業規則等の労働契約内容に別段の定めがない場合、

民法の一般原則による遺産相続人に支払う趣旨と解釈

されますが、受給権者を明確に規定してある場合は、

その者に支払うことができます。

したがって、

死亡退職金は必ずしも遺産相続人に支払われる

とは限らないので注意が必要してください。





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