●所定労働時間:月曜日〜金曜日の1日8時間(完全週休2日制)
●職種:とび(流体力学の超難しい計算もできてしまうスーパーとび)
●日給:4万円
●危険作業手当:1千円/1時間

上記の労働者が、
デスクワークが溜まってしまったため日曜日に出勤し、
流体力学の超難しい計算を8時間行った。

翌日の月曜日から金曜日は、
「とび」としてバリバリ働いたので残業もなく、
土曜日も休日であった。

この日曜日から始まる1週間の労働の対償として支払うべき賃金総額はいくらになるか?


【答】
292,000円である。


改正労働基準法の施行について
(昭和六三年一月一日 基発第一号、婦発第一号)

1 法定労働時間
 (2) 一週間の法定労働時間と一日の法定労働時間
・・・なお、
一週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り、
日曜日から土曜日までのいわゆる暦週をいうものであること。
また、
一日とは、午前〇時から午後一二時までのいわゆる暦日をいうものであり、
継続勤務が二暦日にわたる場合には、たとえ暦日を異にする場合でも一勤務として取り扱い、
当該勤務は始業時刻の属する日の労働として、当該日の「一日」の労働とするものであること。




とされており、
労働契約において別段の定めがない限り、
1週間の起算日は日曜日である。

設問の論点は、
法定労働時間を超えてしまうことになる所定外の労働が
所定労働時間に先行して行われた場合、
時間外労働となるのは、
@先行して行われた所定外労働時間なのか?または
A時系列的に法定労働時間を超えてしまうことになる後続の所定労働時間なのか?
ということである。


労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、
次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに
労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項




「始業及び終業の時刻」は労働契約の重要事項の一つであると考えられるが、
一般的に始業・終業時刻を変更することができる旨の規定を設けることが多い。

たとえば、
「業務の状況または季節により、始業時刻、終業時刻および休憩時間を
繰り上げまた繰り下げおよび変更をすることがある。」
といったような規定である。

もし、
このような規定がない労働契約下において、
始業時刻を繰り上げたり終業時刻を繰り下げたりした結果、
所定労働時刻外に労働したとしても、法定労働時間を超えていなければ、
時間外労働の割増賃金の支払い義務は発生しない。

所定休日を振り替えた場合も同様の取り扱いとなると考えられる。


「労働基準法解釈総覧(改訂15版)」
(厚生労働省労働基準局編 労働調査会 平成26年7月30日発行)P394
に以下の記述がある。


【終業時刻の変更】

就業中の停電又は屋外労働における降雨降雪等により
作業を一時中止して自由に休憩せしめ、
送電又は天候の回復をまって作業を続開し、
停電又は降雨、降雪で休憩せしめた時間だけ終業時刻を繰り下げた場合、
その労働時間が前後通算して八時間以上であれば
通常日の終業時刻以後の労働に対する時間外労働の割増賃金は支払わなくてもよいか
(就業規則にはこの場合について予め何等別段の定めがないものとする)。


労働時間が通算して一日八時間又は週の法定労働時間以内の場合には
割増賃金の支給を要しない。(昭和22.12.26 基発573号、昭和33.2.12 基発90号)




設問の場合、
所定労働日ではない休日であり1週間の初日でもある日曜日に出勤しているわけであるが、
日曜日における8時間の労働は、
所定労働時間外の労働ではあるが、法定労働時間外の労働にはならない。
法定労働時間外の労働となるのは、
週40時間を超える金曜日における8時間の労働である。

したがって、
時間外労働の割増賃金は金曜日における8時間の労働に対して支払われるべきである。

金曜日の「とび」としての労働に対しては、
危険作業手当が支払われているため、
割増賃金の算定基礎に危険作業手当も含める必要がある。



「労働法全書(昭和55年版)」
(労務行政研究所 昭和55年9月30日発行)P227に以下の記述がある。


20 特殊作業
特殊作業の勤務が法第三二条及び第四〇条の労働時間外に及ぶときは、
その超過労働時間に対しては、特殊作業手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入して
計算した割増賃金を支払わなければならない。

危険作業が法第三二条及び第四〇条の労働時間外に及ぶ場合においては、
危険作業手当を法三七条の割増賃金の基礎となる賃金に算入して
計算した割増賃金を支払わなければならない。(昭和23.11.22 基発1681号)




以上より、
この日曜日から始まる1週間の労働の対償として
支払うべき賃金総額は、以下の通りとなる。

【日曜日】日給:4万円
【月〜木曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×4日間=192,000円
【金曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×1.25=6万円
【1週間合計】40,000+192,000+60,000=292,000円


ただし、
就業規則等に「法定休日は日曜日とする。」
というような規定が存在する場合は結果が異なる。

この場合、
日曜日の勤務は法定休日労働となり、
休日労働に対する割増賃金の支払いが必要となる一方で、
1週間の労働時間は40時間ぴったりとなるため、
金曜日の労働に対して割増賃金を加算する必要がなくなる。

したがって、以下の通りとなる。

【日曜日】日給:4万円×1.35=54,000円
【月〜金曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×5日間=24万円
【1週間合計】54,000+240,000=294,000円



それでは、
1週間の最終日である土曜日も「とび」として出勤した場合はどうなるか?
この場合、
法定休日が特定されていないため、法定休日労働はどの日になるのか?
という疑問が生じる。

この場合、
金曜日に勤務を開始したその瞬間に
その週に残された最後の1日である土曜日が法定休日として確定したと解釈すれば
(厳密には、労基法第35条第2項の「4週4日の休日」という例外規定があるが。)、
金曜日の労働が法定労働時間外、
土曜日の労働が法定休日労働となると考えることができる。

したがって、以下の通りとなる。

【日曜日】日給:4万円
【月〜木曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×4日間=192,000円
【金曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×1.25=6万円
【土曜日】(日給:4万円+危険作業手当:8千円)×1.35=64,800円
【1週間合計】40,000+192,000+60,000+64,800=356,800円



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