業務内容にもよりますが、在宅勤務をするためには、

パソコン、プリンター、コピー用紙などの事務用品

が必要ですし、電気代、電話代、インターネット代

などの費用も掛かるものです。

これらの在宅勤務に掛かる費用を「在宅勤務手当」

として支給する企業が出てきており、その金額は、

日立:在宅勤務感染対策補助手当として月3千円

メルカリ:在宅勤務手当として6万円(半年分)

アイル:在宅勤務手当として5万円(一時金?)

とさまざまです。


さて、この在宅勤務ですが、

・そもそも会社は、在宅勤務を命じることができるのでしょうか?

・会社は在宅勤務手当を支払う義務があるのでしょうか?

・在宅勤務手当は、労働基準法上の賃金に該当するのでしょうか?

・在宅勤務手当の具体的な運用方法は?

など、考え出すと疑問だらけです。

 

 

【会社は、在宅勤務を命じることができるのか?】

労働基準法第15条の規定により、

会社が社員に明示しなければならない労働条件の1つ

として、「就業の場所」があります。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

(労働条件の明示)
第15条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者
に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示し
なければならない。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

就業の場所は、「本社総務課」や「第1工場製造課」

のようにどこで仕事をするのか?がハッキリわかる

ように指定すべきものです。

この就業の場所にあらかじめ社員の自宅が指定

されていれば、労働契約上の当然の権利として、

会社は在宅勤務を命じることができることになります。

一方、

社員の自宅を就業の場所に指定していない場合は、

労働条件の変更に該当するので、社員と在宅勤務を

することについて話し合い、同意してもらう必要が

あります。

また、

労働基準法第15条に違反して、労働条件として就業

の場所を一切明示していない場合、民法第484条の

「弁済の場所は、債権者の現在の住所」を考慮すると

「就業の場所は、会社の現住所」ということになる

ので、この場合も在宅勤務させるには社員の同意が

必要でしょう。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

(弁済の場所)
第484条 弁済をすべき場所について別段の意思表示
がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時に
その物が存在した場所において、その他の弁済は
債権者の現在の住所において、それぞれしなければ
ならない。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

「労働基準法は、入社時の就業の場所を明示すれば

よく、将来の就業の場所まで網羅的に明示する義務

までは求めていないので、在宅勤務を命じられる

のでは?」という意見もあるかと思いますが、

信義誠実の原則や権利濫用(民法第1条)を考慮

すると、社員の同意は必須と考えられます。

なお、

社員側から「在宅勤務をしたい!」という要望が

あったとしても、会社は在宅勤務を認めなければ

ならない義務はなく、拒否することができます。

 

 

【会社は在宅勤務手当を支払う義務があるのか?】

「労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に

関する事項」も、労働基準法第15条の規定により、

会社が社員に明示しなければならない労働条件の1つです。

したがって、

業務で使用する事務用品や光熱費や通信費を社員に

負担させるのであれば、会社は労働条件として明示

しておく必要があることになります。

では、

労働条件として明示しておけば、あらゆる業務費用

を社員に負担させられるのかというとそうでもなく、

信義誠実の原則や権利濫用を考慮すると、社会通念上

相当な範囲を超える費用負担は許されないでしょう。

在宅勤務費用の負担について労働条件に明示して

いないのであれば、民法第485条の「債権者の行為

によって弁済の費用を増加させたときは、その増加

額は、債権者の負担とする。」も考慮すれば、

在宅勤務費用は会社が負担すべきでしょう。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

(弁済の費用)
第485条 弁済の費用について別段の意思表示がない
ときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、
債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用
を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・

※弁済の費用:債務者の交通費、宿泊料、運送費など

 

 

【在宅勤務手当は、労働基準法上の賃金に該当するのか?】

会社が負担すべき費用を社員が立て替えた場合に

会社が支払う金銭を「実費弁償」と言います。

実費弁償には、

出張旅費や作業用品代や機器の損料などが該当し、

在宅勤務手当もその性質上、実費弁償であると考え

られます。

労働基準法では、

実費弁償は賃金ではないとされているので、

在宅勤務手当は、労働基準法上の賃金に該当しない

と考えられます。

ただし、

実費弁償は実費を精算をしていることが原則なので、

実費精算によらない定額支給の場合は、その額が

合理的な範囲でないと実費弁償は否定され、賃金と

みなされる可能性があります。

在宅勤務時のパソコンの損耗や電気代などの実費を

算出することは現実的には難しいと思われますが、

在宅勤務手当を定額支給する場合は、金額の合理性

に注意が必要でしょう。

 

 

【 在宅勤務手当の具体的な運用方法は?】

在宅勤務手当=実費弁償≠賃金とすれば、

・賃金のように毎月支払う義務なし。

・賃金台帳や給与明細に記載不要。

・労働保険料・社会保険料の計算に加算不要。

ということになります。

将来の休業日数が不明確な場合は、在宅勤務手当

は休業日数に関わらず月額3,000円と定額にする

よりも、日額150円とする方が実費弁償性が高まり

望ましいと言えます。

また、

名称も「在宅勤務手当」ではなく、「在宅勤務費用」

等の名称とし、賃金でないことを明確にしておきたい

ところです。

 

会社の方針として、安全側に判断し、在宅勤務手当を

実費弁償ではなく、賃金として取り扱うのであれば、

・ 毎月支給する(賃金支払い5原則の1つ)。

・賃金台帳や給与明細に記載必要。

・労働保険料・社会保険料の計算に加算。

とすべきでしょう。

労働基準法上、

賃金のうち毎月支給しなくてよいのは、

・結婚手当や退職金など、非常にまれに支給するもの

・一定期間の業績等によって、支給する賞与

・複数月で評価する精勤手当、勤続手当、奨励加給、能率手当

のみなので、「在宅勤務手当」は毎月支払うべき賃金です。

とはいえ、現実的には、

賞与に上乗せしたり、2,3ヶ月に1回支給した

ところで、それを違法だと指摘する労働基準監督官は

皆無だと思いますが。

社会保険上、

在宅勤務手当は毎月支給なので、報酬月額に加算

することになります。

また、

在宅勤務手当の新設は固定的賃金の変動になるので

随時改定の対象となります。





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