あなたは、
下記事例の残業代をちゃんと計算できるだろうか?


【事例】
・業務内容:宝石鑑定および事務作業

・所定労働日:月曜日〜金曜日

・所定労働時間:1日8時間

・休日:毎週土・日曜日(法定休日は日曜日と特定。)

・基本給
時給制で曜日により異なり、以下の通り。
月曜日〜金曜日:1,000円/時
土・日曜日(休日):1,200円/時

・鑑定手当(時給)
宝石鑑定士の資格を持ち、宝石鑑定業務を行ったときに支給
曜日に関わらず、一律500円/時

・今週は日曜日に出勤し、
8時〜12時の4時間:事務作業
13時〜19時の6時間:宝石鑑定
を行った。


【問題】
この日曜日の勤務に対して、支払うべき賃金はいくらか?


【答え】
19,550円

 

 

この問題を解く上で、
必要となる知識は以下のとおり。

1.「割増賃金」とは、0.25や0.35部分のことであり、
いわゆる「1.0」は含まれない。

2.法定休日に労働した場合に支払われる割増賃金の算定基礎は、
法定休日に対して設定された賃金ではなく、
「通常の労働時間又は労働日の賃金」すなわち
「深夜でない所定労働時間中に行われた場合に支払われる賃金」である。

3.割増賃金を支払うべき時間に手当てがつく業務をした場合、
その手当も割増賃金の算定基礎に含まれる。

4.法定休日には、時間外労働という概念が存在せず、
1日8時間を超えて働いても、休日労働割増賃金を支払いさえすればよく、
時間外労働割増賃金の支払いは不要である。





1.「割増賃金」とは、0.25や0.35部分のことであり、
いわゆる「1.0」は含まれない。

割増賃金の支払い義務の根拠は、
労働基準法第37条(とその関連規程)にあります。

第37条において、
時間外労働させたら、二割五分以上、
法定休日労働させたら、三割五分以上、
深夜労働させたら、二割五分以上の割増賃金を支払え!
と規定されています。

ここで、
間違えてはならないのが、
第37条は、割増賃金の支払いを規定しているだけで、
いわゆる「1.0」の支払い根拠ではないということ。

第37条関係の通達に以下のものがあります。



【問】
割増賃金は本給の支給については言及していないので
当該事業場の賃金規定に別段の定めのない限り
月給者又は日給者については時間外労働に対する本給の支給は
必要なきものと思うが如何。

【答】
法第37条が割増賃金の支払いを定めているのは
当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、
月給又は日給の場合であっても、
時間外労働についてその労働時間に対する通常の賃金を支払わなければならない
ことはいうまでもない。(S23.3.17基発461号)




たとえば、
カラオケ屋さんで「2時間で4,000円」の予定で入ったものの、
1時間延長して3時間になった場合、
良識のある人であれば6,000円支払うかと思います。

この「良識」というのは、
法律の定めがあるわけではなく、
社会生活を送る上での暗黙の了解≒共通認識のことです。

上記通達も、
いわゆる「1.0」を支払うのは、
社会生活を送る上で、当然のことである。
と言っているのであり、
第37条をカラオケ料金で表現するなら、
「延長した場合は、1時間500円の追加料金が掛かります。」
という規定なわけです。

以上より、
正しい残業代を計算するためには、
いわゆる「1.0」と割増賃金は別々に計算する必要がある。
という深遠な真理が導き出されます。

 

 

2.法定休日に労働した場合に支払われる割増賃金の算定基礎は、
法定休日に対して設定された賃金ではなく、
「通常の労働時間又は労働日の賃金」すなわち
「深夜でない所定労働時間中に行われた場合に支払われる賃金」である。

労働基準法第37条は、
割増賃金の支払い根拠となる規定なのですが、
序盤に以下の記述があります。



労働基準法第37条
労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、
その時間又はその日の労働については、
通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額
の二割五分以上五割以下の範囲内で
それぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金
を支払わなければならない。




さて、
ここでいう、
「通常の労働時間又は労働日の賃金」とは
どのような定義なのでしょうか?

これを解説した通達があり、
以下のとおり。



「通常の労働時間又は労働日の賃金」とは、
割増賃金を支払うべき労働(時間外、休日又は深夜の労働)が
深夜でない所定労働時間中に行われた場合に支払われる賃金である。

例えば、
所定労働時間中に甲作業に従事し、
時間外に乙作業に従事したような場合には、
その時間外労働についての「通常の労働時間又は労働日の賃金」とは、
乙作業について定められている賃金である。

したがって、
割増賃金を支払うべき時間にいわゆる特殊作業に従事した場合において、
特殊作業についていわゆる特殊作業手当が加給される定めになっているときは、
その特殊作業手当は、当然「通常の労働時間又は労働日の賃金」に含まれる。
(昭和23年11月22日 基発第1681号)




●何故、「深夜でない」のか?

別の通達で以下のものがある。



「正規の勤務時間による勤務の一部又は全部が深夜において行われる
看護等の業務に従事したときに支給」される「夜間看護手当」は、
「労働基準法第37条第1項の通常の労働時間又は労働日の賃金とは認められないから、
同項の割増賃金の基礎となる賃金に算入しなくともさしつかえない。」
(昭和41年4月2日 基収第1262号)




基発第1681号と基収第1262号が矛盾しないよう、
論理的に整合性を持って解釈するならば、
「深夜でない所定労働時間」と限定している理由は、
深夜の労働であることを理由とした賃金(≒手当)は、
割増賃金の基礎としないからであり、
深夜の所定労働≠通常の労働という認識によるものと考えられる。



●休日の労働であることを理由とした賃金(≒手当)は、
割増賃金の基礎となるか?

休日≠労働日であることは明白であり、
また休日に通常の労働時間≒所定労働時間は存在し得ない。

となれば、
休日と「通常の労働時間又は労働日」は相容れない概念と考えるべきである。
したがって、
休日の労働であることを理由とした賃金(≒手当)も、
深夜の所定労働と同じく、
割増賃金の基礎となる賃金に算入しなくともさしつかえない
と解釈すべきである。



●じゃあ、時間外労働であることを理由とした賃金(≒手当)は?

どう考えても、
時間外の労働時間=通常の労働時間とは考えづらいので、
深夜や休日と同様に
割増賃金の基礎となる賃金に算入しなくともさしつかえない
と解釈すべきである。



●作業(内容)について定められている賃金(≒手当)は?

「作業(内容)について定められている賃金」が
深夜(・休日・時間外)でない所定労働時間中の労働に対して支払われ、
深夜・休日・時間外の労働に対しても同様である場合、
割増賃金の基礎となる賃金に算入すべきである。

一方で、
前出の基収第1262号における「夜間看護手当」は、
「正規の勤務時間による勤務の一部又は全部が深夜」
(≒深夜でない所定労働時間ではない)
かつ
「看護等の業務に従事する」
(≒作業内容について定められている)場合の賃金と考えられるが、
通常の労働時間又は労働日の賃金とは認められていない。

ということは、
「作業(内容)について定められている賃金」であっても、
それが同時に深夜・休日・時間外の労働の対償という性質を併せ持つ場合は、
割増賃金の基礎となる賃金に算入しなくともさしつかえない
と解釈すべきである。



以上をまとめると下表のとおりとなる。

  具体例 割増賃金の算定基礎となる賃金に算入されるか?
作業(内容)について定められている賃金 ・業務内容によって単価の異なる基本給
・特殊作業手当
・危険作業手当

算入する
≒基礎とする

深夜、休日または所定労働時間外等の労働のタイミングについて定められている賃金 ・業務タイミングによって単価の異なる基本給
・深夜労働手当
・休日出勤手当
・所定労働時間外の労働に対する賃金
算入しなくとも差し支えない
≒基礎としなくてもよく、所定労働時間内の単価を基礎としてもよい。
作業(内容)に加え、深夜、休日または所定労働時間外等の労働のタイミングについて定められている賃金 ・業務内容+タイミングによって単価の異なる基本給
・深夜看護手当




事例では、
休日(土・日曜日)の勤務について
所定労働日と異なる基本給が設定されていますが、
これは所定労働日と異なる業務に従事することへの対償ではなく、
所定休日に労働することへの対償と考えるべきです。

であれば、
休日勤務の基本給は、上記通達同様、
割増賃金の算定基礎に含めなくてもよい
と判断すべきです。

以上より、
割増賃金の算定基礎となる基本給は、
土・日曜日(休日)の基本給である時給1,200円ではなく、
所定労働日の基本給である時給1,000円を採用すべきです。

 

 

3.割増賃金を支払うべき時間に手当てがつく業務をした場合、
その手当も割増賃金の算定基礎に含まれる。

事例では、日曜日に出勤し、
8時〜12時の4時間は事務作業、
13時〜19時の6時間は宝石鑑定を行っています。

また、
宝石鑑定業務を行ったときに支給される
鑑定手当が設定されています。

基発第1681号を考慮した場合、
事例の6時間の宝石鑑定業務に対して支払われる
割増賃金の算定基礎には、鑑定手当も含めるべきです。

 

 

4.法定休日には、時間外労働という概念が存在せず、
1日8時間を超えて働いても、休日労働割増賃金を支払いさえすればよく、
時間外労働割増賃金の支払いは不要である。

以下の通達があります。



【八時間を超える休日労働の割増賃金】

法第三十六条第一項の協定によって休日の所定労働時間を八時間と定め
始業午前七時より終業午後四時とした場合(休憩一時間)午後四時を超えて
労働させた場合の時間については六割以上(※休日労働割増率+時間外労働割増率)
の割増賃金を支払うものと解されるが如何。


協定において休日の労働時間を八時間と定めた場合
割増賃金については八時間を超えても深夜業に該当しない限り
三割五分増しで差支えない。
(平成11年3月31日 基発168号)




事例では、日曜日に出勤し、
8時〜12時の4時間は事務作業、
13時〜19時の6時間は宝石鑑定を行っており、
当該日の総労働時間は10時間となり、
1日の法定労働時間である8時間を超えることになります。

上記通達を考慮した場合、
休日に深夜労働した場合は、
休日労働割増率+深夜労働割増率=6割となるが、
1日8時間を超えて働いた場合でも、
休日労働割増率+時間外労働割増率=6割とはならない。
ということになります。





以上4つの知識を総合的に解釈すると、
事例の日曜日の勤務に対して支払うべき賃金は、
以下のとおりとなります。


【事務作業】
基本給1.0部分:1,200円×4時間=4,800円
基本給割増部分:1,000円×4時間×0.35=1,400円
小計:6,200円

【宝石鑑定】
基本給1.0部分:1,200円×6時間=7,200円
基本給割増部分:1,000円×6時間×0.35=2,100円
鑑定手当1.0部分:500円×6時間=3,000円
鑑定手当割増部分:500円×6時間×0.35=1,050円
小計:13,350円

合計:19,550円



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