(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

 



【 第四章の条文(第32条から第40条までの合計17条)のうち、第41条の規定に該当する条文はどれか? 】

答え:全 17条文が該当する。

第32条の4の2および第37条はグレーゾーンであるが、
「労働時間・休日に関する規定」ではないと明確に断定できる根拠が見当たらないため、
第41条該当とする。

ただし、
就業規則その他により「管理監督者には割増賃金を支払わない。」
旨を明示していない場合、
使用者は労働契約上当然の義務として管理監督者にも割増賃金を支払わなければならない。

第39条(年次有給休暇)は
時間単位年休の規定のみ第41条に該当する可能性が高い。

第38条の2(事業場外労働)も該当するため、
労働時間のみなしが適用できず、
実労働時間にて算定するしかない。




【根拠】

まず、
第41条で言うところの
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」とは何か?
を考えてみる。

第41条冒頭の「この章」とは、
第41条が属する「第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」である。

第六章は年少者、第六章の二は妊産婦等である。

ここでは、
第四章の各条文のうち、
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には何が該当するのか?
を考えてみる。



第四章は、
第32条から第41条までの合計18条(第41条を除くと17条)
で構成されている。

条番号

条文名

条文の語尾等

第32条

労働時間(の原則)

労働させてはならない。

第32条の2

1ヶ月単位の変形労働時間制

労働させることができる。

第32条の3

フレックスタイム制

労働させることができる。

第32条の4

1年単位の変形労働時間制

労働させることができる。

第32条の4の2

賃金精算

割増賃金を支払わなければならない。

第32条の5

1週間単位の非定型的変形労働時間制

労働させることができる。

第33条

災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等

労働させることができる。

第34条

休憩

休憩時間を…与えなければならない。

第35条

休日

休日を与えなければならない。

第36条

時間外及び休日の労働

労働させることができる。

第37条

時間外、休日及び深夜の割増賃金

割増賃金を支払わなければならない。

第38条

時間計算

主語:「労働時間は、…」

第38条の2

事業場外労働

所定労働時間労働したものとみなす。

第38条の3

専門業務型裁量労働制

…に掲げる時間労働したものとみなす。

第38条の4

企画業務型裁量労働制

…に掲げる時間労働したものとみなす。

第39条

年次有給休暇

十労働日の有給休暇を与えなければならない。

第40条

労働時間及び休憩の特例

文中:…第32条から第32条の5までの労働時間及び第34条の休憩に関する規定について、…

 

これらの条が、
それぞれ「何に関する規定か?」
判断してみた。

条番号

何に関する
規定か?

第41条に
該当するか?

コンメンタール
※1

昭和55年
※2

第32条

労働時間の原則

第32条の2

労働時間の原則規制緩和

 

第32条の3

労働時間の原則規制緩和

 

第32条の4

労働時間の原則規制緩和

 

第32条の4の2

(割増)賃金支払い+労働時間

 

第32条の5

労働時間の原則規制緩和

 

第33条

労働時間の原則規制緩和

第34条

休憩時間の原則

第35条

休日の原則

第36条

労働時間、休日労働の免罰化に関する手続き

第37条

(割増)賃金支払い+労働時間、休日、深夜

深夜以外○

第38条

労働時間の原則その2

第38条の2

労働時間の擬制

 

第38条の3

労働時間の擬制

 

第38条の4

労働時間の擬制

 

第39条

年次有給休暇

時間単位△

×

第40条

労働時間、休憩の特例

※1:労働基準法コンメンタール上巻(平成23年2月1日 平成22年版)
P622において、第41条に該当すると明示されているもの。

※2:労働法全書(昭和55年版 たまたま所持していた。)
における条文の存在の有無。

 

第32条、第34条および第35条は、
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」そのものであり、
異論はないと思われる。

第36条であるが、
第41条の立法趣旨、すなわち
「業務の性質または態様が法定労働時間や週休制を適用するに適しない
事業または業務に従事する労働者に限って、適用を除外すべき。」
を考慮すると、
第41条に該当すると考えるべきである。

 

問題はその他の条文である。

これらは、
大きく3つにわけられる。

@「賃金に関すると思われる条文」、
A「立法当初から存在していた条文」、
B「立法当初は存在しなかったが、法改正により途中から追加された条文」

である。



@には、
第32条の4の2および第37条が該当する。

この2つの条文の語尾は、
「割増賃金を支払わなければならない。」であり、
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」というよりは、
「賃金の支払に関する規定」であると考えた方が違和感がない。

第37条には、
深夜労働に関する記述が含まれている。

そもそも、
年少者および妊産婦等を除き、
労働基準法では深夜労働を禁止してない。

第37条により
割増賃金の支払いを義務付けているのみである。

とすれば、
第37条が、「労働時間および休日に関する規定」であるとすると、
深夜労働の割増賃金の支払い規定が含まれるのは不自然であり、
「(割増)賃金の支払いに関する規定」
と考える方が自然と考えられる。



労働基準法は第1条において、
「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから…、」としており、
労働条件の最低基準を定めること、ひいては労働者を保護すること
が本法の目的の一つであることは間違いない。

第41条は、
重要な職務を担う労働者に限定したうえで36協定の手続きなしに
速やかに法定労働時間や週休制の適用を除外するのが目的であって、
割増賃金を支払わないことが本来の目的ではない。

しかし、
「労働時間、休憩及び休日に関する」かどうかで言えば、
間接的には関係している。

第32条の4と第37条は、
合法的に時間外・休日労働をするための必要条件を述べているという観点からすれば、
「労働時間および休日に関する規定」であるとも言える。

また、
第四章の章名は、
「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」である。

これをもって第四章が、
「労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇」に関する規定だけ
構成されていると単純に捉えることができなくもない。



以上より、
「第32条の4の2および第37条は第41条に該当しない!」
と明確に断定できる根拠は残念ながら見当たらないので、
判定を△とし、
ここでは第41条該当者には、
第37条による割増賃金の支払いを要しないものと判断する。



(
この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。




労働基準法は
第13条により強行法規とされており、
逆説的には労基法で定める最低基準を満たしている限り、
私法上の契約である労働契約に干渉しない。

したがって、
労基法に定められていることを理由に
管理監督者には割増賃金を支払わない
という論理は成り立たない。

つまり、
就業規則その他により
「時間外労働した場合は割増賃金を支払う。」と明示しているにもかかわらず、
「管理監督者には割増賃金を支払わない。」旨を明示していない場合、
労働契約上当然に割増賃金を支払わなければならないことになる。

ただし、
就業規則その他に割増賃金の支払い規定がまったくない場合は、
労基法の最低基準効が発動し、
割増賃金を支払わなくてもよいことになる。

 



Aは、
第33条、第38条、第39条および第40条である。

これらは第39条を除き、
労働時間、休憩および休日の原則の追加規定または特例措置
であると捉えることができる。

「適用除外者は、労働時間や休日の規定が適用されないけど、
臨時の必要があっても残業や休日出勤を命じられない。」
という不合理が発生しそうであるが、
第33条、第38条および第40条の実態的効果は、
第41条に含まれていると考えることができ、
実務上さしたる問題はないと考える。

第39条は
「年次有給休暇」に関する規定であり、
直接的には
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」ではない。

しかし、
時間単位年休は労働時間の途中に取得する必要があり、
労働時間に間接的に関係する規定であるとも考えられる。

したがって、
第41条該当者は、時間単位年休の規定の対象者から除外されることになり、
時間単位での年休取得ができないことになる。


「条文の一部のみ第41条を適用することはできない。」という論理は、
「第37条の深夜労働の割増部分のみ第41条を適用していない。」ことと矛盾する
ので受け入れられない。

ただし、
時間単位年休制度は「年休は1日単位」
という原則を超える労働者側に有利な労働条件を定めている。

「労基法は最低基準」なので、
就業規則等で時間単位年休を規定しておき、
管理監督者にも時間単位年休を取得させても労基法違反とはならない。

 



Bは、
上記を除く合計7条が該当する。

これらは、
労働時間の原則の規制緩和または擬制に関する定めであり、
法を厳格に適用するならば、
「労働時間、休憩及び休日に関する規定」そのものであり、
第41条に該当すると考えるべきである。

この場合、以下の結論が導き出される。
●第41条該当者には、
各種の変形労働時間制が適用できない。

●第41条該当者には、
労働時間のみなしが適用できず、
実際の労働時間を把握しなければならない。



変形労働時間制を適用できないことについては、
Aと同様にその実態的効果は、第41条に含まれていると考えることができ、
実務上さしたる問題はないと考える。

しかし、
労働時間のみなしができないのは、
かなり不都合である。

そもそも、
第41条はこれらの枝番号条文の追加を予測していなかったため、
「この章で定める…」という非常にザックリした表現を使ってしまったものと推測できる。

これらの枝番号条文を追加した際に、
第41条も、「○条、○条および○条で定める…」に改正しておけば
無用な混乱は避けられたと考える。

 



【結論】

第32条の4の2および第37条は、
「賃金に関する規定」である可能性が高いが、
「労働時間・休日に関する規定」ではないと明確に断定できる根拠が見当たらないため、
第41条に該当するものとする。

ただし、
就業規則その他により
「時間外労働した場合は割増賃金を支払う。」と明示しているにもかかわらず、
「管理監督者には割増賃金を支払わない。」旨を明示していない場合、
使用者は労働契約上当然の義務として管理監督者に割増賃金を支払わなければならない
(労基法の強行法規性は最低基準効に限り有効。)。

第39条(年次有給休暇)の時間単位年休は
「労働時間に関する規定」であり、第41条に該当すると考えられるが、
管理監督者にも時間単位年休を取得させても労基法違反とはならない。

第38条の2も第41条に該当するので、
事業場外の労働時間のみなしが適用できず、
実労働時間で算定する必要がある。



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