最初に管理監督者に限らず、
労働者が時間外労働を行った場合、
なぜ「1.0」を支払わなければならないのか?

その根拠について考えてみる。



労働者の定義を再確認しておく。

(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。




「使用される者」とは、
使用従属関係の下で労働に服する者であると言える。


「使用従属性」を論じるのは、
本設問の本旨ではないので省略する。

第9条および第11条から読めるのは、

「使用従属関係の元で労働に服する者が、
その労働の対償として賃金が支払われる場合、
その者は労働者である。」

ということである。



日本国内で労働者に該当する場合、
労働基準法は属地主義を取っており、
望むと望まざるとにかかわらず強制的に適用される。

強行法規である労基法に
「1.0」支払いの根拠があるか
検討してみる。



(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
C 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。




第37条において、
「1.0」の支払い義務を規定しているか?

第37条第1項は、
時間外または休日労働についての規定であり、
第4項は、
深夜労働についての規定である。

第1項と第4項の
条文構成を比較してみる。

 

第1項

第4項

主語

使用者は、

条件

労働時間を延長し、または
休日に労働させた場合

午後十時から午前五時までの間において労働させた場合

対象

その時間又はその日の労働については、

その時間の労働については、

基準となる賃金額

通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の

通常の労働時間の賃金の計算額の

割増率

政令で定める率以上の率で計算した

二割五分以上の率で計算した

語尾

割増賃金を支払わなければならない。

このように
第1項と第4項の条文構成は
まったく同じである。

同じ条文構成なのに、
第1項は「1.25」の支払い規定であり、
第4項は「0.25」の支払い規定である
というのはどう考えても不合理である。

第1項および第4項は、
共に「1.25」または「0.25」どちらか一方の規定
であると解すべきである。

第37条、
その施行規則および各種通達を確認しても、
明確に「1.0」に言及しているものは見当たらない。

また、
「加算する」に類似した言葉も
見当たらない。

「割り増す」とは、
一般的に本体となるものに対して加算する旨の意味であり、
本体がないのに「割り増す」ことはできないと考えられる。

以上より、
第37条は、暗示的に「1.0」の支払を前提とした文章構成となっているように感じるが、
「1.0」の支払いを直接的に義務付けてはいないと考えられる。

第37条関係の通達等に以下のものがある。


【問】
割増賃金は本給の支給については言及していないので
当該事業場の賃金規定に別段の定めのない限り
月給者又は日給者については時間外労働に対する本給の支給は
必要なきものと思うが如何。


【答】

法第37条が割増賃金の支払いを定めているのは
当然に通常の労働時間に対する賃金を支払うべきことを前提とするものであるから、
月給又は日給の場合であっても、
時間外労働についてその労働時間に対する通常の賃金を支払わなければならない
ことはいうまでもない。(S23.3.17基発461号)


【問】
所定労働時間が七時間にして八時間迄労働させた場合は、
1時間につき法第37条の割増賃金は支払わなくてもよいが
時間割賃金は当然支払わなければならないものと解するが如何。


【答】

法定労働時間内である限り所定労働時間外の1時間については、
別段の定めがない場合には原則として通常の労働時間の賃金を支払わなければならない。
ただし、
労働協約、就業規則等によって、
その1時間に対し別に定められた賃金額がある場合には
その別に定められた賃金額で差し支えない。(S23.11.4 基発1592号)


時間外労働1時間に対して支払われる賃金総額は
施行規則第19条の規定により算定された通常の労働時間の1時間当たりの賃金額と
その2割5分以上の割増賃金との合計額である。(S23.4.1 基収1379号)


「労働基準法上(平成22年版)」
(厚生労働省労働基準局編 株式会社労務行政)P518


藤香田商店事件(S25.9.8)も
「労働基準法(平成5年法律第79号による改正前のもの)は
労働者を資本家と対等の地位まで高め、
労使相方が対等公平の立場において処理されることを目的とするものであるから、
労働基準法第37条の延長時間労働の割増賃金についても
延長時間における労働の基礎賃金はもとより更にこれに2割5分以上を加えた賃金
すなわち12.5割以上の賃金を支払うのでなければ
2割5分以上の割増賃金を支払ったとはいい得ない。」
としている。


しかしながら、
出来高払制その他の請負制によって賃金が定められている場合については、
時間外、休日又は深夜の労働に対する時間当たり賃金、
すなわち1.0に該当する部分は、
既に基礎となった賃金総額のなかに含められているのであるから、
加給すべき賃金総額は計算額の2割5分以上をもって足りる。


これらの通達等においても、
「1.0」は当然に支払うべきとされているが、
その根拠は明示されていない。



第37条以外の労基法各条文も検討してみたが、
第24条の賃金の支払い原則が間接的に関係する程度であり、
直接的な根拠となる規定は労基法内には見当たらなかった。

 



次に
民法に根拠があるか
検討してみる。

民法第3編第2章第8節に「雇用」に関する規定がある。

民法

第623条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

ちなみに、同第9節「請負」に以下の規定がある。
民法
第632条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。




民法において「雇用」に関する規定は、
第623条から631条までである。

623条に
「一方が労働に従事することを約し、
相手方がその対価として報酬を与えることを約すのが雇用契約である。」
とある程度であり、
根拠となる規定は見当たらなかった。

 



最後に、
労働契約法に根拠があるか検討してみる。

労働契約法

(定義)
第二条 この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2 この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。
 (労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。




労働契約法においても、
第6条に「労働契約の成立」が存在する程度であり、
やはり「1.0」支払いの根拠は見当たらない。


余談であるが、
使用者の定義が「賃金を支払う者」でしかないのは、
滑稽である。

 



視点を変えて、
「労働」の本質
について考えてみる。

労働者は
自己の精神的肉体的な労働力を使用者に提供し、
使用者は
その労働力の提供の対価として賃金を支払う。

すなわち、
「労働」の本質とは、「労働力の提供」であり、
「労働の結果得られる成果物」ではない。

労働者は使用者に誠実に労働力を提供すればよく、
使用者はその労働力の使途を決定し、
その結果として成果物が得られることとなる。

ということを前提に考えると、
「労働」の単位は、原則として「時間」であり、
「仕事の成果の数量」ではないことになる。



 (
労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
A 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。




労基法32条より、
労基法も「労働の単位は時間である。」と考えていることは明らかであり、
労働時間については様々な規制をしているが、
仕事内容そのものについて規制はしていない(年少者、妊産婦等を除く。)。

たとえば、
労基法は、「労働は1日8時間まで。」と労働時間に対して規制はするが、
「ガス溶接という労働は、1日50回まで。」という仕事内容、仕事量に対しては規制していない
(労働安全衛生法は考慮しない。)。

 (労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。




労基法第15条より、
労基法は、賃金と労働時間が最も重要な労働条件であると考えており、
絶対的明示事項としているのだと推測できる。

労基法の章立ても、
賃金と労働時間に関しては独立した章を設けていることからも、
重要な労働条件であると言える。

そこで、
賃金についても再確認してみる。

賃金には、大きく
@労働力の提供に対して支払う賃金、
A出来高に対して支払う賃金、
B福利厚生または実費弁償として支払う賃金
の3つに分けることができると考える。

  1. :基本給、役職手当、資格手当、危険作業手当、精勤手当等
  2. :営業手当、能率手当、生産手当等
  3. :家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、私傷病見舞金等

第37条の割増賃金の算定基礎対象となる賃金は
@およびAであるが、
このうちAは、時間外の労働を含めて達成した出来高に対して支払われるため、
「1.0」の算定基礎に含めるべきではない。

したがって、
「1.0」の算定基礎すなわち労働時間に比例して支払うべき賃金は
@のみであると考える。

 



以上を踏まえて、
具体例で考えてみる。

Aという製品を製造する場合、
労働契約は、
「月曜日から金曜日の8時から17時まで、会社に指示に従ってAを製造してください。
そうしたら、1万円支払います。」という契約を締結するのが一般的であり、
「月曜日から金曜日の8時から17時まで、会社に指示に従ってAを製造してください。
1個につき1千円支払います。」という契約は労働契約というより請負契約に近い。

ただし、
仮に「1個につき1千円支払う。」という実態としては請負に近い契約であっても、
使用従属関係の下で労働し、その対価を受ける限り「労働者」には違いなく、
労基法の適用があるので、契約内容に労働時間が明示されていなければならない。

また、
第27条(出来高払制の保障給)も適用されるため、
このような場合であっても、労働時間に応じた一定額の賃金を保障しなければならなく、
労働時間に比例した賃金支払いの呪縛からは逃れることができない。

ちなみに、
労働契約において、労働時間は「5時間」など客観的な時間で定める必要があり、
「Aを1個作るために必要な時間」という恣意的・主観的な時間表示は公序良俗に反しており、
認められない。

(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。

 




以上より、
労働契約には、必ず労働時間に比例して支払うべき賃金が規定されており、
必ず単位時間当たりの賃金が算出できる。

たとえば、
「1月160時間労働で月給16万円」という労働契約を客観的に見た場合、
「時給千円」の労働契約を締結したと解釈するのが自然である。

ということは、
結果として161時間労働したのであれば、
超過分の1時間の労働に対して千円の賃金を別途支払うべきである。



あらためて、
第37条を検討してみたい。

深夜労働は契約した労働時間を超えていないので、
時間超過に対しての延長賃金は発生し得ない。

ということは、
第4項にて支払いを強要している割増賃金は「1.25」であるとするのは不合理であり、
「0.25」であると考えるべきである。

第1項と第4項の条文構成はまったく同じであり、
同様の規定であるとすれば、
第1項の割増賃金も「1.25」ではなく、「0.25」と解すべきである。

 



【結論】

労働者が所定労働時間を超えて労働をした場合、
使用者は労働契約上の当然の義務として、「1.0」を支払うのであり、
労基法第37条が根拠ではない。

これまでの論理を一言でまとめるならば、
「カラオケに行って1時間延長したら、当然の義務として1時間分の延長料金を支払うよね? 
そしたら、時間外労働も同じだよね?!」ということである。

 

 



それでは、
いよいよ労働者が管理監督者に該当した場合、
「1.0」を支払わなくてよくなる何らかの法的根拠があるのか?
検討してみる。

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者




第41条第2号のいわゆる「管理監督者」に該当すると、
労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外される。

第37条もこの除外規定に含まれるが、
前段で検討したとおり、
第37条は「1.0」の支払いを義務付けていない。

その他の労基法各条にも「1.0」の支払い規定は見当たらないが、
それをもって、
労働契約上「1.0」を支払わなくてよい根拠とはなり得ない。

なぜなら、
労基法は最低基準効しかないため、
労基法を超えて労働者に有利な労働条件に対しては
民事不介入・私法自治の原則が適用されるからである。

管理監督者である労働者と一般の労働者の違いは、
労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されるかどうかだけであり、
法律上その他の取り扱いは変わらず、賃金に関する規定も同様である。

したがって、
「管理監督者に該当する者には、時間外労働を行っても「1.0」は支払わない。」
というような労働契約上の特約がない限り、
管理監督者にも「1.0」を支払わなければならないと考えるべきである。



果たして、
労働者全体に対してこのような特約は可能か?
という疑問が残る。

労働組合法
(基準の効力)
第十六条 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

(法令及び労働協約との関係)
第九十二条 就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
A 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
(労働契約との関係)
第九十三条 労働契約と就業規則との関係については、労働契約法第十二条の定めるところによる。



労働契約法

(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。




まず、
「管理監督者に限定せず労働者全員に「1.0」を支払わない。」
という労働協約や就業規則や労働契約は、理論上可能であると考えるが、
公序良俗に反し無効となる可能性が極めて高く、お勧めできない。

労働協約により、
「管理監督者には、「1.0」を支払わないものとする。」と労使が合意している場合は、
有効な労働契約の内容になると考えられる。

次に、
就業規則に「1.0」を支払わない旨の規定が可能か?であるが、
法令に「1.0」支払いを義務付ける規定は見当たらないので、
「管理監督者には、「1.0」を支払わない。」という規定は可能だと判断する。

最後に、
「管理監督者に該当する場合、「1.0」を支払わない。」
という個別の労働契約が可能か?であるが、

●就業規則に「管理監督者には、「1.0」を支払わない。」旨の規定が明示されている場合
⇒就業規則とおりの労働契約であり、有効である。

●就業規則に「管理監督者には、「1.0」を支払う。」旨の規定が明示されている場合
⇒労働契約法12条に反し認められない。

●就業規則に「管理監督者には、「1.0」を支払う。「1.0」を支払わない。」等支払い規定が明示されていない場合
⇒労働契約上、当然の義務として労働者には「1.0」を支払う必要があるので、
「管理監督者にも「1.0」を支払う。」という就業規則であると解釈ができ、
労働契約法12条に反し認められない。

 



「管理監督者にはそれ相応の賃金を支払っており、
時間外労働の「1.0」も含まれているので、「1.0」は別途支払う必要がない。」
という反論が予想される。

以下の通達がある。

監督又は管理の地位にある者の範囲(昭和22年9月13日付け発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)

法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。具体的な判断にあたつては、下記の考え方によられたい。

(4) 待遇に対する留意
管理監督者であるかの判定に当たつては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといつて、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。




これによれば、
待遇≒賃金は、「その地位にふさわしい待遇がなされているか?」、
「役付者以外の一般の労働者に比し優遇措置が講じられているか?」
について留意する必要があるとされてはいるが、
「時間外労働の長さにふさわしい賃金が支払われているか?」という視点では語られていない。

したがって、
「○○手当は、○時間分の時間外労働の対価を含むものとする。」というような明示がない限り、
「明示がなくとも、法律上当然に○○手当には時間外労働の「1.0」が含まれている。」
という論法は受け入れられない(固定残業代の論理と同じ)。

 



理論上、
管理監督者が1日24時間365日連続して労働することは労基法上、適法となるが、
最低賃金法は、労働者である限り管理監督者にも当然適用される。

第38条の3(専門業務型裁量労働制)および第38条の4(企画業務型裁量労働制)は、
労働時間の「みなし」規定であり、 最低賃金を下回る恐れはないが、
第41条は労働時間の「みなし」規定ではないため、
「1.0」を支払わずに長時間の時間外労働をした場合、最低賃金を下回る恐れがある。

「「1.0」の支払いをしなかった結果、うっかり最低賃金を下回ってしまいました。」は
法治国家の日本では通用しない。

とすれば、
「1.0」の支払いはキッチリしておくべきである。

1秒も休むことなく働いた場合、
最低賃金額は31日×24時間×最低賃金額(東京都で958円)=月額712,752円なので、
「管理監督者には、最低でも月給70万以上は支払っている!」
という企業はそう多くはないと考えられ、
「1.0」は支払っておくべきである。

 

(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(中略)法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。







日本社会全体に、
「管理監督者には、「1.25」は支払われない。」という共同幻想が広まっており、
これが労使慣行とされ、
労働契約の内容になっているという反論も予想されるが、
強行法規である労基法第24条の賃金の全額払い原則よりも労使慣行の方が優先される
というのは問題である。

少なくとも「1.0」は支払うべきである。

 



冒頭で、
「この就業規則に定めのない事項については、労働基準法その他の法令に準じる。」
旨の委任規定を設ける就業規則を見かけるが、
この規定をもって「1.0」の支払いが免れるか問題となる。

まず、
管理監督者に限定せず
労働者全体の場合を考える。

就業規則の記載内容

労基法の委任規定あり

労基法の委任規定なし

割増賃金は1.25とする。

2.25の支払いが必要
1.0+1.25=2.25と解釈すべき

2.25の支払いが必要?
1.0+0.25=1.25という解釈の余地あり

割増賃金は0.25とする。

労基法と同水準であり、
1.0+0.25=1.25でOK

労基法と同水準であり、
1.0+0.25=1.25でOK

割増賃金の規定なし

委任規定発動
1.0+0.25=1.25でOK

労基法最低基準効発動
1.0+0.25=1.25でOK



就業規則に
「時間外労働を行った場合は、割増賃金として「1.25」を支払う。」とし、
労基法の委任規定もあった場合は要注意。

⇒労基法は最低基準として割増賃金は「0.25」以上の率と規定
⇒就業規則では「0.25」以上の率である「1.25」を割増率として採用したと解釈できる。
⇒時間超過の延長賃金「1.0」+割増賃金「1.25」=合計「2.25」を支払う必要がある。


「割増賃金とは、時間超過の延長賃金と労基法の割増賃金の合算額と定義する。」
旨の明示がある場合は、「1.25」の支払いで足りる。



「時間外労働を行った場合は、割増賃金(0.25)を支払う。」
という規定がある場合、管理監督者については、

就業規則の記載内容

労基法の委任規定あり

労基法の委任規定なし

管理監督者には割増賃金を支払わない。

労基法と同水準であり、
1.0の支払い必要

労基法と同水準であり、
1.0の支払い必要

管理監督者には時間外労働に対する賃金を支払わない。

延長賃金も割増賃金もないと解釈可能、いっさい支払い不要

延長賃金も割増賃金もないと解釈可能、いっさい支払い不要

管理監督者の除外規定なし

委任規定発動0.25は不要
1.0の支払い必要

労基法最低基準効発動0.25不要。1.0の支払い必要



就業規則の本文で
「時間外労働を行った場合は割増賃金を支払う」旨の規定がある場合は、
「(労働者全員に)支払う。」と明示していることになるので、
管理監督者にも支払うべきである。

割増賃金について一切記載がない場合は、
労基法の委任規定または最低基準効が発動し、
割増賃金である「0.25」は支払わなくてよいが、
「1.0」の支払いは必要となる。

 



【結論】

管理監督者が時間外労働を行った場合、
労働協約や就業規則に「管理監督者には、「1.0」を支払わない。」旨の明示の規定がない限り、
使用者は労働契約上の当然の義務として、
管理監督者にも他の労働者と同様に「1.0」を支払うべきである。

また、
「管理監督者には、「1.0」を支払わない。」旨の明示の規定があった場合でも、
最低賃金法に違反することは許されない。

 



余談であるが、
管理監督者が「1.0」の賃金債権を持っていても、

  1. 賃金債権を放棄することについて明確に理解して錯誤なく放棄したという任意性を推定される事情が存在し、
  2. 放棄する意思表示が自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する

ならば、
労基法第24条の賃金全額払いの原則の射程外となり、
その賃金債権を放棄できるというのが司法の判断であり、
同意できる。



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