以下の論点について、
副業・兼業者の「36協定」を考えてみる。

論点1:副業・兼業先との時間外労働の上限時間は、どのように考えればよいか?

論点2:副業・兼業先との36協定の算定期間がズレている場合、どうなるのか?

論点3:副業・兼業先が変形労働時間制を採用している場合、どうなるのか?







まず、
A社が36協定にて、年間の時間外労働の上限を360時間とし、
B社が36協定にて、年間の時間外労働の上限を240時間とした場合、
この2社を副業・兼業する労働者には、
年間で何時間の時間外労働を命じることができるのか?
を確認しておく必要がある。

明文の規定はないが、
労働時間は通算すること、
人間はロボットではなく疲労することを考慮すれば、

360時間+240時間=合計600時間!!!
・・・とすることは過労死へまっしぐら!となり、
どう考えても加算すべきではない。

A社としてはB社での労働時間と通算して、年間360時間まで、
B社としてはA社での労働時間と通算して、年間240時間まで、
と考えるべきである。

この考え方は、
1日間でも1ヶ月間でも同様であり、
同じように通算して処理すべきである。



【具体例】

前提条件:A社就業後、B社にて就業する。

●A社 所定労働時間:4時間、36協定の1日の延長可能時間:5時間
●B社 所定労働時間:4時間、36協定の1日の延長可能時間:2時間

この場合、
A社:B社と通算して、1日8+5=13時間まで労働を命じることが可能。
B社:A社と通算して、1日8+2=10時間まで労働を命じることが可能。
ということになる。


CASE@:A社にて2時間残業した場合
⇒A社での残業時間がB社の延長可能時間の範囲内なので、
B社にて4時間就業可能であるが、残業を命じることができない。


CASEA:A社にて4時間残業した場合
⇒B社の所定労働時間は4時間であるが、A社にて8時間労働しているため、
B社では2時間までしか労働できず、所定の労働時間を確保できない。


CASEB:A社にて7時間残業した場合
⇒A社での労働時間のみでB社の1日の労働時間上限を超えているため、
この日はB社は労働を命じ得ないことになり、企業運営上非常に問題である。
ちなみに
A社では、さらに2時間まで時間外労働が可能である。


※上記のいずれの場合も、残業代の支払い義務はA社にある。


以上を踏まえると、

●36協定の時間外労働の上限時間を管理するためには、
副業・兼業先における労働時間をキチンと把握する必要がある。

●副業・兼業先で時間外労働が多発すると、
自社でも労働時間を食いつぶされてしまうことになり、
最悪の場合、自社での所定労働時間すら確保できない恐れがある。


所定労働時間が確保できないというのは、
不合理であり非常に問題である。

この不合理を回避するためには、
あらかじめ副業・兼業先と協議を行い、
各社での時間外労働の上限と取り決めておく必要がある。

休日労働については、
「労働時間の通算」は適用されないのであるが、
間接的に副業・兼業先の労働の影響を受けるので、
注意が必要である。

「休日」の詳細については、こちらを参照。







36協定には、1ヶ月や1年間などの期間の起算日を必ず定めておく必要がある。

起算日は各社が自由に設定できるため、
自社の時間外路堂の算定期間と副業・兼業先のそれとが
一致することはマレで、異なることが多いと考えられる。



【具体例】

前提条件:A社就業後、B社にて就業する。

  1週間の起算日
A社 日曜日 0 4 4 4 4 4(1) 8 0 8 5
B社 水曜日 5 4 4 4 4 4 0 0 4 6

※赤表示は、時間外労働の割増賃金の支払い義務が発生する労働時間


この場合、
1週間の労働時間は、
A社:日曜日〜土曜日⇒53時間
B社:水曜日〜火曜日⇒54時間
となる。

1週間の法定労働時間を超えるため、
時間外労働の割増賃金の支払い義務が発生する労働時間は、
A社:金曜日の1時間+土曜日の8時間=9時間
B社:月曜日の4時間、火曜日の6時間=10時間
となる。

A社の2週目の火曜日の5時間は、
B社側からすれば、週の法定労働時間を超えているが、
A社側からすれば、2週目の労働時間は、
月曜日(A社8時間+B社4時間)+火曜日(A社5時間)
=17時間となり、週の法定労働時間を超えていない。

したがって、
A社の2週目の火曜日の5時間は、
割増賃金の支払い義務が発生しないことになる。

B社における金曜日の4時間も
同様の理由により、
割増賃金の支払い義務は発生しない。


実務では、
さらに1日の法定労働時間や
労働契約をどちらが先行していたかも考慮して、
割増賃金を算定する必要があり、
超煩雑な事務処理を要求されることになる。


1日の「期間」については、
原則として暦日とされており、
午前0時から午後12時までの24時間であり、一致する。
ただし、
交代勤務などにより、
所定労働時間が日を跨いでいる場合は、
始業時刻が属する日の労働として扱うことに留意する必要がある。

たとえば、
所定労働時間が
A社:12時〜20時
B社:23時〜翌日3時
の場合、

この1日は、
暦日の24時間を超え、
合計27時間あることになる。

通常、
1日に延長し得る最長の時間外労働は、
暦日(24時間)−法定労働時間(8時間)−休憩時間(1時間)
=15時間であるが、

この場合、
27時間−法定労働時間(8時間)−休憩時間(1時間×2社)
=17時間となる。

A、B社に緊急事態がたまたま同じ日に発生した場合に、
各社とも最大限の対応を労働者にしてもらうためには、
36協定の1日に延長することができる時間外労働は、
17時間にすべきである。


以上を踏まえると、
36協定を厳密に運用していくためには、
副業・兼業先の36協定も必ず入手しておく必要があろう。







変形労働時間制を採用すると、
1日の原則の法定労働時間である8時間を超える労働を行っても、
割増賃金の支払い義務が発生しない場合がある。

副業・兼業先が変形労働時間制を採用していた場合、
どうなるのか?

【具体例】

前提条件
●A社就業後、B社にて就業する。
●A社は変形労働時間制採用、B社は原則通りの法定労働時間
●労働契約は、A社が先行して締結している。

    CASE@ CASEA CASEB CASEC CASED
A社 所定労働時間 10 4
実際の労働時間 10 7 12 6 6
B社 所定労働時間 4 4
実際の労働時間 4 4 2 4 2


CASE@の場合、
A社は8時間を超えているが、
変形労働時間制の通りの労働時間であり、
割増賃金なし。

B社は4時間まるまる時間外労働となり、
割増賃金を支払う必要がある。


CASEAの場合、
A社では7時間しか働いていないため、
B社は3時間のみ割増賃金を支払えばよい。


CASEBの場合、
A社ではこの日の所定労働時間である10時間
を2時間超えて労働している。
B社では2時間しか働いていないがそれは関係なく、
A社は2時間分の割増賃金を支払う必要がある。


CASECの場合、
A社単体で考えれば、
所定労働時間である4時間を2時間超えているが、
法定労働時間である8時間を超えていないため、
割増賃金の支払う必要はない。

しかし、
B社での所定労働時間を考慮すると、
この日は8時間を2時間超えているため、
A社は2時間分の割増賃金を支払う必要がある。


CASEDの場合、
A社にて2時間の所定外労働があるが、
B社の実際の労働時間が2時間減っているため、
結果として、この日の労働時間は8時間となり、
各社とも割増賃金を支払う必要はない。


以上を考慮すると、

副業・兼業先が変形労働時間制を採用していた場合は、
その変形労働の予定を把握し、
より一層の副業・兼業先での労働時間を把握する必要がある。



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