時間外労働時間数を計算する場合、
その目的によって
以下の4つの計算方法を使い分けます。

@休日労働時間と区別して、別々に計算する場合

A休日労働時間時と区別せず、加算して計算する場合

B労災認定基準に準拠した方法で計算する場合

C安全衛生法の医師による面接指導の要否を判定する場合

 

まず最初に
計算対象となる労働者や対象業務が、
労働時間規制の適用除外に該当しないか?
確認します。

たとえば、
「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」
に従事する場合、
36協定の危険有害業務の規制を除き、
すべての限度時間、上限時間規定が適用されません。

 

次に
変形労働時間制や裁量労働時間制等が
採用されていないか?
確認しましょう。

たとえば、
「1ヶ月(以内)単位の変形労働時間」
が採用されている場合、
法定労働時間を超える旨を
あらかじめ特定された週では、
週の労働時間が40時間を超えても、
時間外労働とカウントしません。

 

最後に
何のために・何を目的として、
時間外労働時間数を計算しなければならないのか?
を明確にしておく必要があります。

たとえば、
残業代(労働基準法第37条)を計算する場合は、
「@休日労働時間と区別して、別々に計算する場合」
に則り積算しなければならないですし、
時間外労働の上限規制(労働基準法第36条第6項)
を守れているか確認する場合は、
「A休日労働時間時と区別せず、加算して計算する場合」
に則り積算しなければなりません。

 

以下では、
4つの計算方法をそれぞれ
解説していきます。

 

 



●割増賃金の計算時
●36協定に設定できる時間外労働の計算時

に使われる
最も一般的な時間外労働の積算方法です。

ですが、
実は富士の樹海並みに奥が深く
難解な積算方法でもあります。

これだけで、
十分カオス足り得るほどディープな世界です。

なので、
ここでは概要の説明のみに留めます。

大まかな計算手順は、
以下のとおりとっても単純です。

Step1:法定休日を確定⇒休日労働時間数を確定

Step2:1日の法定労働時間を超える時間外労働の「時間帯」を確定

Step3:1週間の法定労働時間を超える時間外労働の「時間帯」を確定

 

【なぜ、 休日労働は「時間数」の確定だけなのに、 時間外労働は「時間帯」まで確定する必要があるのか?

法定休日には、法定労働時間という概念が存在しません。
また、
法定休日労働の割増賃金の割増率は、時間帯に関わらず
24時間すべて同率です。

一方で、
労働日および所定休日は、法定労働時間により規制されます。
また、
法定内の労働時間(帯)には割増賃金は発生しませんが、
法定外の労働時間(帯)には割増賃金を支給しなければなりません。

 

危険作業手当や手術手当等、
特定の作業をした場合に限り支給される賃金
が規定されていることがあります。

割増賃金を支払うべき時間(帯)に
これらの作業に従事した場合、
割増賃金はこれらの手当を含めて計算する必要があります。

法定休日であれば、
24時間どの時間帯でも休日労働の割増賃金の対象時間なので
どの時間帯にこれらの作業をしても
割増賃金額が変わることはありません。

しかし、
労働日または所定休日の場合、
法定内労働時間帯に特定の作業した場合と
法定外労働時間帯に特定の作業した場合とでは、
割増賃金額が変わってしまいます。

つまり、
法定休日労働は、労働時間数さえ確定してしまえば
割増賃金は正確に算出できますが、
労働日または所定休日の労働は、
時間外労働の時間帯までピンポイントで確定させない限り、
正しい割増賃金は算出できないことになります。

 

以上を踏まえると、
休日労働は、労働時間数だけを確定すれば事足りるのに対し、
時間外労働は、その時間帯までキッチリ確定する必要があることになります。

 

【なぜ、法定休日⇒1日の時間外労働⇒1週間の時間労働の順番でないとイケナイのか?】

この順番でないと、
正確な時間外労働の計算は絶対できません。

 

法定労働時間と法定休日労働時間は、
まったくの別物で、重なり合うことは一切ありません。

たとえば、
法定休日労働時間が8時間を超えたとしても、
それ以降の労働時間も相変わらず「法定休日労働」でしかなく、
「法定休日労働かつ法定時間外労働」とは絶対なりません。

法定休日に法定(内)労働時間が含まれ得る
と考えるのは不合理である以上、
法定(内)労働時間が存在しない法定休日に法定外労働時間が存在する
ことも論理的にあり得ません。

ということは、
法定労働時間計算から除外すべき法定休日が
1週間のうちどの日に該当するか?
を明確に確定させないと
法定(内)労働時間も法定外労働時間も
正確に計算できないことになります。

なお、
夜勤や徹夜残業(2暦日に及ぶ労働)があった場合、
この2日間の労働日、法定休日および所定休日の組み合わせは、
3×3=9パターン(厳密には12パターン)あることになりますが、
それぞれのパターンで労働時間の取り扱いを変えなければならず、
非常にやっかいな問題です。

 

次にStep2で、
1週間の時間外労働に先んじて
1日間の時間外労働を確定する理由は、
以下の通達のとおり。

 

【時間外労働となる時間】
1箇月単位の変形労働時間制を採用した場合に
時間外労働となるのは、次の時間であること。

@ 1日については、
就業規則その他これに準ずるものにより
8時間を超える時間を定めた日はその時間、
それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

A 1週間については、
就業規則その他これに準ずるものにより
40時間を超える時間を定めた週はその時間、
それ以外の週は40時間を超えて労働した時間
(@で時間外労働となる時間を除く。)

B 変形期間については、
変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
(@又はAで時間外労働となる時間を除く。)
(昭和63年1月1日 基発第1号、平成6年3月31日 基発第181号)



これは厳密には、
1箇月単位の変形労働時間制を採用した場合
についての記述なのですが、
変形労働時間制でない通常の場合における
時間外労働の計算方法を明示した通達等が存在しないため、
援用します。

この通達によれば、
1週間の時間外労働を計算するためには、
1日の時間外労働を除くことが必須であるため、
1日の時間外労働を確定⇒1週間の時間外労働を確定
という順番になります。

※「1日の時間外労働時間も労働時間には変わりないから、
1週40時間の法定労働時間の積算にも含めるべきでは?」
と考えたことがありますが、
この場合、
法定外労働時間を法定(内)労働時間の内数に含めることとなり、
不合理です。

 

 



●36協定の特別条項で設定可能な1月間の時間外労働・法定休日労働の計算時
●1月間または2〜6ヶ月間の1月平均における時間外・休日労働の上限規制の合否判定時

に使われる計算方法です。

36協定に特別条項を設ける場合、
1月間の時間外労働および法定休日労働時間は
合計して100時間未満でなければなりません。

一方で、
36協定の内容にかかわらず、
どのような場合であっても、
実際の時間外・休日労働時間は1月100時間未満、
かつ
2〜6ヶ月間の1月平均80時間以内でなければなりません
(労働基準法第36条第6項)。

この判定には、
時間外労働と休日労働を区別する必要はない為、
単純に時間外労働時間に休日労働時間を加算して、
判定すればよいことになります。

したがって、
「@休日労働時間と区別して、別々に計算する場合」
の計算が完了していれば、
こちらは簡単な足し算で算出できます。

 

 



「脳血管疾患及び虚血性心疾患等」または「精神障害等」の労災認定時
に使用される計算方法です。


●労災認定の労働時間という概念は、労働基準法上のそれと異なる

長時間労働に係る労災認定では、
労働基準法上では労働時間とならない時間も、
発病の原因である「疲労の蓄積」や「強い心理的負荷」と相当因果関係にあれば
労働時間と判定される場合があります。

たとえば、
使用者の指揮命令下にないと考えられる
出張中の移動時間や接待時間等が考えられます。

労働基準法上の労働時間との違いは、
4つの労働時間を使い分けろ!
にて詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

●労災認定の時間外労働は、労働基準法のそれと算定方法が異なる

労災認定時の時間外労働とは、
「1週間当たり40時間を超える労働のこと」
をいいます。

すなわち、
1日の法定労働時間を超える労働も休日労働も単なる労働時間と扱われ、
それだけをもって、直ちに時間外労働にはなりません。

あくまで、
1週間の総労働時間が40時間を超えているかどうか?
で「時間外かどうか?」を判断します。

※労災保険法の条文には、労働時間の定義は存在しません。

 

●「1ヶ月」は、「30日」

労災認定は、
過去1月間、2月間、・・・6月間の1月平均時間外労働時間数が
おおむね100時間ないし80時間を超えているかどうか
が判定基準となります。

労災認定での「1月」は歴月によらず30日とし、
1月間=30日間=4週間+2日間として考えていきます。


端数となる2日間の労働時間は、
次のように算定します。

@ 過去31日目から5日間の間に休日が2日以上ある場合
2日間の労働時間の合計から
16時間を控除した時間を時間外労働時間とします。

A過去31日目から5日間の間に休日が1日ある場合
2日間のうち1日を休日労働とみなし、
2日間の労働時間の合計から8時間を控除した時間
を時間外労働時間とします。

B過去31日目から5日間の間に休日がまったくない場合
2日間を休日労働とみなし、
2日間の労働時間の合計を時間外労働時間とします。

 

●起算点は病気の発症日

過去1月間、2月間、・・・6月間の起算点は、
その病気の発症日となります。

歴月でも1賃金支払期の初日でもなく、
恣意的に決定することはできません。

発症日は、
脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」によれば、
以下のとおりです。

臨床所見、症状の経過等から症状が出現した日を特定し、
その日をもって発症日とすること。

なお、
前駆症状(脳・心臓疾患発症の警告の症状をいう。)が認められる場合であって、
当該前駆症状と発症した脳・心臓疾患との関連性が医学的に明らかとされたときは、
当該前駆症状が確認された日をもって発症日とすること。

 

●具体的計算手順

@ 発症日を特定する。

A 発症日を起算点とし、過去1週間毎の総労働時間を集計

B A−40時間をし、その週の時間外労働時間数を算出

C AおよびBにより、過去4週間の時間外労働時間数を算出

D 過去31日目から5日間の間の休日数に応じて、
  残り2日間の時間外労働時間数を算出

E C+Dにより、過去1ヶ月間の時間外労働時間数を算出

F Eがおおむね100時間を超えているかどうか?を判定

G 発症前2ヶ月、3ヶ月・・・6か月間の時間外労働時間数より
  1月当たりの平均時間外労働時間数を算出

H Gがおおむね80時間を超えているかどうか?を判定

 

 



使用者は、
「休憩時間を除き一週間当たり40時間を超えて労働させた場合
におけるその超えた時間が一月当たり80時間を超え、
かつ、疲労の蓄積が認められる者」に対して
医師による面接指導を行わなければなりません。

※改革法により、判定基準が
「100時間超え」から「80時間超え」に引き下げられました。

その計算方法ですが、
対象となる労働時間の選別(労災認定時と同様と考えます。)さえ間違わなければ、
以下のとおり非常に簡単です。

※安全衛生法の条文にも、労働時間の定義は存在しない。


1ヶ月の総労働時間数
=労働時間数(所定労働時間)+延長時間数(時間外労働時間数)+休日労働時間数
とし、

1ヶ月の時間外・休日労働時間数
=1ヶ月の総労働時間数−(計算期間である1ヶ月間の総歴日数/7日)×40時間
が80時間を超えるかどうか?で判定します。

この判定は、
毎賃金締切日で区切って行うなど、
毎月1回以上、一定の期日を定めて行わなければならないとされています。



トップページへ戻る。