「年休取得日の賃金に、通勤手当分も含めるべきか?」

でもお話ししたとおり、

社員が年休(正しくは、「年次有給休暇」。)を取得

した場合、会社は以下のいずれかの賃金を払う義務が

ありますが、ほとんどの企業が2.を採用したうえで、

通常の出勤をしたものとして賃金を支払っています。

1.労働基準法第12条に規定される「平均賃金」
2.所定労働時間労働した場合に支払われる「通常の賃金」
3.社会保険の標準報酬日額(労使協定が必要)

 

ここで、質問です。

 

 

実際にこの3種類の方法で算出した賃金額を比較した

場合、どれが最も低くどれが最も高いのでしょうか?

以下の具体的事例を元に検討してみます。

●所定休日
土日(完全週休2日制)
祝日・年末年始

●所定労働日数
2020年1月:19日(暦日数:31日)
2020年2月:18日(暦日数:29日)
2020年3月:21日(暦日数:31日)
2020年4月:21日(暦日数:30日)
※2020年年間平均:20日とする。

●賃金
基本給 :月額30万円
家族手当:月額3万円
通勤手当:月額3万円
残業代 :6万円(たまたま、毎月同額だったと仮定)

【問】
2020年4月に年休取得した場合に正規の方法で算出
した年休単価は、それぞれいくらになるか?
なお、
年休取得日の賃金を別途支払うことによる月額賃金
の控除額も算出せよ。

 

 

【平均賃金】
●定義
算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその
労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の
総日数で除した金額

●算入しない(除外できる)賃金
・臨時に支払われた賃金
・3ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金(≒賞与)
・無協約で支給される実物給与

●事例の場合
除外できる賃金はないので、1,2,3月の賃金の
総額を、その期間の総暦日数で除した金額なので、

(42万円×3月=126万円)÷(31+29+31=91日)
=13,846円

 

 

【所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金】
●定義
月によつて定められた賃金については、その金額を
その月の所定労働日数で除した金額
※月によつて所定労働日数数が異る場合でも、
一月平均所定労働日数は用いないことに注意。

●算入しない(除外できる)賃金
・臨時に支払われた賃金
・所定時間外の労働に対して支払われる賃金”等”
※「等」が具体的にどの賃金を指すのか不明だが、
家族手当、通勤手当および住宅手当等は該当する
と考えられる。

●事例の場合
残業代、家族手当および通勤手当は除外できるので、
算定対象は基本給のみで、これを4月の所定労働日数
で除した金額なので、

30万円÷21日=14,286円

 

 

【標準報酬日額】
●定義
健康保険法第40条第1項に規定する標準報酬月額の
30分の1に相当する金額
※傷病手当金と異なり、過去12ヶ月間の標準報酬月額
を平均した額ではないことに注意。

●算入しない(除外できる)賃金
・臨時に支払われた賃金
・3ヶ月を超える期間ごとに支払われた賃金(≒賞与)

●事例の場合
除外できる賃金はないので、報酬月額を42万円と
考えると、標準報酬月額は27等級で41万円となる。
この30分の1に相当する金額なので、

41万円÷30=13,670円

 

 

【月額賃金からの控除する額】
年休取得日の賃金を計上し別途支払うということは、
当然その月額賃金は日割り計算により控除(減額)
できることになる。


年次有給休暇日に対しては平均賃金を支払う場合において、
当該年次有給休暇日に関し、月又は週によって支給される賃金が
あるときは、その月又は週によって支給される賃金については、
その1日当りの額を差引いた額を支給すればよい。

右の場合月又は週によって支給される賃金(家族手当、通勤手当等
を含む)の1日当り賃金の算定方法は施行規則第19条の各号によって
行うものとする。

年次有給休暇日に対し平均賃金を支払い更に月又は週による賃金を
全額支払うことも使用者の自由であって、その結果として二重払いになっても
法律上はもちろん差し支えない。
(昭和23年4月20日 基発628号)


これは平均賃金の場合の取り扱いだが、通常の賃金や
標準報酬日額には同様の規定がないため、この取り
扱いを準用することにする。

施行規則第19条には、
「月によつて定められた賃金については、その金額
を月における所定労働時間数(月によつて所定労働
時間数が異る場合には、一年間における一月平均
所定労働時間数)で除した金額」とされているので、
各手当の1日当たりの控除額はそれぞれ以下のとおり。

・基本給 :30万円÷20日=15,000円
・家族手当: 3万円÷20日=1,500円
・通勤手当: 3万円÷20日=1,500円
※残業代は月又は週によって支給されないので、
対象外である。
※20日は、「年間平均所定労働日数」である。

したがって、
年休単価算出時に除外しなかった賃金を考慮すると
それぞれの控除額は、以下のとおり。

・平均賃金 :基本給+家族手当+通勤手当=18,000円
・通常の賃金:基本給のみ=15,000円
・標準報酬日額:基本給+家族手当+通勤手当=18,000円

 

 

【検討結果】
・平均賃金  :年休単価13,846円 控除額18,000円
        差し引き−4,154円

・通常の賃金 :年休単価14,286円 控除額15,000円
        差し引きー714円

・標準報酬日額:年休単価13,670円 控除額18,000円
        差し引きー4,330円

実際には、

個別ケースによって賃金額や所定労働日数が増減

するので、普遍的な絶対の法則とは言えませんが、

・正規の計算方法による支給額を比較すると、ほとんど
の企業が選択している「通常の賃金」が最も人件費
が掛かる支払い方のようである。

・残業がまったくない場合、正規の計算方法による
平均賃金や標準報酬日額を採用すると人件費を
低く抑える効果がありそうである。

・どの計算方法であっても、「通常の出勤をしたもの
として扱った場合に支払われる賃金額」を下回って
おり、簡略化ルールは人件費は余計に掛かるけど、
合法的な支払方法のようである。

・ただし、残業代が多額の場合、平均賃金額も高く
なり、「通常の出勤をしたものとして扱った場合
に支払われる賃金額」を上回る可能性がある。
この場合は、正規の計算方法による平均賃金額を
支払わないと、労働基準法第39条違反が成立する。

ということは言えそうです。



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