世の中には、
通称「その他社労士」なる生物が存在しますが、
生息数が少なくその生態はほとんど解明されていません。

ですが、
我々が知らないだけで、
彼らにも何らかの存在意義があり、
何かができるハズです。

そこで、
今回は「その他社労士」も含めて、
社労士には何ができるのか?
を深堀してみます。



まず、
それぞれの社労士の定義
を確認してみます。



(業務の制限)
第二十七条 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、
他人の求めに応じ報酬を得て、
第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。
ただし、
他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、
この限りでない。


 (登録)
第十四条の二 
2 他人の求めに応じ報酬を得て、
第二条に規定する事務を業として行おうとする社会保険労務士
(社会保険労務士法人の社員となろうとする者を含む。)・・・

3 事業所(社会保険労務士又は社会保険労務士法人の事務所を含む。以下同じ。)
に勤務し、第二条に規定する事務に従事する社会保険労務士
(以下「勤務社会保険労務士」という。)・・・


(事務所)
第十八条 他人の求めに応じ報酬を得て、
第二条に規定する事務を業として行う社会保険労務士
(社会保険労務士法人の社員を除く。以下「開業社会保険労務士」という。)・・・


(設立)
第二十五条の六 社会保険労務士は、この章の定めるところにより、
社会保険労務士法人(第二条第一項第一号から第一号の三まで、
第二号及び第三号に掲げる業務を行うことを目的として、
社会保険労務士が設立した法人をいう。以下同じ。)・・・


(業務の範囲)
第二十五条の九 社会保険労務士法人は、
第二条第一項第一号から第一号の三まで、第二号及び第三号に掲げる業務を行うほか、
定款で定めるところにより、次に掲げる業務を行うことができる。

一 第二条に規定する業務に準ずるものとして
厚生労働省令で定める業務の全部又は一部

二 紛争解決手続代理業務


第二十五条の九の二 前条第一項に規定するもののほか、
社会保険労務士法人は、第二条の二第一項の規定により
社会保険労務士が処理することができる事務を
当該社会保険労務士法人の社員又は使用人である社会保険労務士
(以下この条及び第二十五条の二十四第四項において「社員等」という。)
に行わせる事務の委託を受けることができる。
この場合において、
当該社会保険労務士法人は、委託者に、
当該社会保険労務士法人の社員等のうちからその補佐人を
選任させなければならない。



社会保険労務士法施行規則
(業務の範囲)
第十七条の三 法第二十五条の九第一項第一号に規定する
法第二条に規定する業務に準ずるものとして厚生労働省令で定める業務は、
次の各号に掲げる業務とする。

一 事業所の労働者に係る賃金の計算に関する事務
(その事務を行うことが他の法律において制限されているものを除く。)
を業として行う業務

二 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
第二条第三号に規定する労働者派遣事業
(その事業を行おうとする社会保険労務士法人が
同法第五条第一項に規定する許可を受けて行うものであつて、
当該社会保険労務士法人の使用人である社会保険労務士が
労働者派遣(同法第二条第一号に規定する労働者派遣をいう。)の対象となり、
かつ、
派遣先(同法第二条第四号に規定する派遣先をいう。)が
開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人
(次のいずれかに該当するものを除く。)
であるものに限る。)


以上を簡潔にまとめるなら、
以下の通りとなります。



●開業社労士(第14条の2)
他人の求めに応じ報酬を得て、第二条に規定する事務を業として行う社会保険労務士

●勤務社労士(第18条)
事業所に勤務し、第二条に規定する事務に従事する社会保険労務士

●社労士法人(25条の6)
第二条第一項第一号から第一号の三まで、第二号及び第三号に掲げる業務を行うこと
を目的として、 社会保険労務士が設立した法人。
※社労士法人の「社員」とは、一般企業でいう役員のようなもの。



「その他社労士」も定義する必要がありますが、
社会保険労務士法令では定義されておらず、
「全国社会保険労務士会連合会会則」にも、
その他社労士ついての記述は存在しません。

唯一、
「社会保険労務士登録事務取扱規程」第2条に
「@からB以外の登録をする者(@開業労士、A社労士法人の社員およびB勤務社労士)」
とあるだけです。

 

社会保険労務士登録事務取扱規程
(用語の定義)
第2条 この規程で「経由社会保険労務士会」とは第1号の場合をいい、
「所属社会保険労務士会」とは、第2号から第4号の場合をいうものとする。

(1)登録申請の場合
@ 開業社会保険労務士として登録をする者・・・
A 社会保険労務士法人の社員として登録をする者・・・
B 勤務社会保険労務士として登録をする者・・・
C @からB以外の登録をする者・・・


したがってここでは、
「その他社労士」を
「社会保険労務士名簿に登録済みである者のうち、
開業社会保険労務士、社会保険労務士法人の社員および勤務社会保険労務士以外の者」
と定義します。



以下では、
開業社労士、勤務社労士、社労士法人およびその他社労士
について、
@〜Cの4パターンに分けて、
他人の求めに応じて、
A〜Hまでの8つの業務が可能かどうか?
を考察してみたいと思います。

@社労士を名乗り、報酬を得て、業として行えること

A社労士を名乗り、報酬を得ず、「または」業としてではなく行えること

B社労士を名乗らず、報酬を得て、業として行えること

C社労士を名乗らず、報酬を得ず、「または」業としてではなく行えること

A:申請書等の作成(第2条1号)
B:申請書等の提出代行(第2条1号の2)
C:申請等の事務代理(第2条1号の3)
D:帳簿書類の作成(第2条2号)
E:相談・指導(第2条3号)
F:裁判所における陳述(第2条の2)
G:給与計算(平成14年6月4日 労徴発0604001号、第17条の3第1号)
H:社労士限定の労働者派遣事業(第17条の3第2号)



「他人の求めに応じ」、「報酬を得て」、「業として」
の定義について明確にしておきます。



全国社会保険労務士会編(2008)「社会保険労務士法詳解」P435〜によれば、

●「他人の求めに応じ」とは、
自己以外の者から依頼を受けて行うことをいう。

●「報酬を得て」とは、
法2条1項1号から2号までの事務の対価として与えられる
反対給付を得るということである。
受けた給付が事務の対価であるか否かは、
その事務と相当因果関係を有する反対給付か否かによって
判断すべきであり、
会費等と称していても、
それが法2条1項1号から2号までの事務を行うこと
に対して支払われていると一般的に認められているような場合には、
本条にいう報酬を得ているものと解される(昭和43年法施行通達)。

●「業として」行うとは、
法2条1項1号から2号までの事務処理を、
「反復継続して行うこと又は反復継続して行う意思をもって行うこと」
という(昭和56年改正法施行通達)。
本条では、他人の求めに応じ報酬を得て当該事務を業として行うこと
が問題とされているのであるから、
営業として自らの責任において当該事務を反復継続的に遂行する場合
を指すものと解される。



「報酬」を「事務を行った対償」であるとすれば、
勤務社労士が事業所から受ける労働の対償としての賃金も
社労士法人の社員が受ける役員報酬も「報酬」であるものとします。

また、
「報酬」は金銭に限定されず、
ダイコン等の「物」でも、
感謝の言葉や笑顔等の「形のない言動」でも
「報酬」であると考えられます。


「業として行う」については、
下記の派遣法の業務取扱要領にもあるように、
「一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、
1回限りの行為であったとしても反復継続の意思をもって行えば」、
「業として行う」に該当すると考えます。

 

労働者派遣事業関係業務取扱要領
第1 労働者派遣事業の意義等
3 労働者派遣事業
(2) 「業として行う」の意義

イ 「業として行う」とは、
一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、
1回限りの行為であったとしても
反復継続の意思をもって行えば事業性があるが、
形式的に繰り返し行われていたとしても、
すべて受動的、偶発的行為が継続した結果であって
反復継続の意思をもって行われていなければ、
事業性は認められない。

ロ 具体的には、
一定の目的と計画に基づいて経営する
経済的活動として行われるか否かによって判断され、
必ずしも営利を目的とする場合に限らず
(例えば、社会事業団体や宗教団体が行う
継続的活動も「事業」に該当することがある。)、
また、
他の事業と兼業して行われるか否かを問わない。

ハ しかしながら、
この判断も一般的な社会通念に則して
個別のケースごとに行われるものであり、
営利を目的とするか否か、事業としての独立性があるか否かが
反復継続の意思の判定の上で重要な要素となる。
例えば、
@労働者の派遣を行う旨宣伝、広告をしている場合、
A店を構え、労働者派遣を行う旨看板を掲げている場合等については、
原則として、事業性ありと判断されるものであること。





 

書類
作成

提出
代行

事務
代理

帳簿
作成

相談
指導

裁判
陳述

給与
計算

派遣
事業

開業

勤務

×

×

×

×

×

その他

×

×

×

×

×

法人

社労士の定義を考慮すれば、
第2条の5業務(A〜E)は、
開業社労士または社労士法人でなければ、
他人の求めに応じ、報酬を得て、業として行うことができません。

勤務社労士は、
事業所に勤務し、当該事務に従事する者でしかなく、
労働者としてではなく個人として行うことはできません。


Fの「裁判所における陳述」は、
報酬を得て業として行うことに制限がないため、
その他社労士も含め社労士でありさえすれば
報酬を得て業として行うことが可能です。

社労士法人は、
「給与計算」および「社労士限定の労働者派遣事業」
も業務として行い得ることが、
社労士法第二十五条の九の二および社労士法施行規則第十七条の三
に明記されています。





 

書類
作成

提出
代行

事務
代理

帳簿
作成

相談
指導

裁判
陳述

給与
計算

派遣
事業

開業

勤務

その他

法人

開業社労士または社労士法人は、
報酬を得て業として第2条の5業務を行うことができるので、
彼らについては、
報酬を得ず、「または」業としてでない場合も事務処理が可能でしょう。

勤務社労士およびその他社労士であっても、
対償としてあらゆる報酬を得ないか、または反復継続の意思をまったく持たずに
事務を行う場合には、第2条の5業務も行えると考えます。

たとえば、
その他社労士として登録しているものの、
社労士業務を行う意思も時間もまったくない製造業の社長(年収10億円)が、
得意先のとってもお世話になっている社長から頼まれて、
仕方なく年金請求書を書いてあげた後、
100億円の製造を受注しても問題ないハズです。





 

書類
作成

提出
代行

事務
代理

帳簿
作成

相談
指導

裁判
陳述

給与
計算

派遣
事業

開業

×

×

×

×

×

勤務

×

×

×

×

×

その他

×

×

×

×

×

法人



社会保険労務士法
(社員の競業の禁止)
第二十五条の十八 社会保険労務士法人の社員は、
自己若しくは第三者のために
その社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行い、
又は他の社会保険労務士法人の社員となつてはならない。

(名称)
第二十五条の七 社会保険労務士法人は、
その名称中に社会保険労務士法人という文字を使用しなければならない。


「社労士は兼業してはならない。」という規定は存在しません。

社労士法第二十五条の十八は、
社労士法人の社員が他で社労士業務を行うことを禁じているだけであり、
イオンでレジ打ちのバイトをすることを禁じてはいません。

同様に
開業社労士が
他の建設会社で社労士としてではなく一土木作業員として、
肉体労働しても何ら問題ありません。

というより、
社労士が社労士と名乗らないということは、
社労士でないことと同義なので、
要するに
「一民間人が、報酬を得て業として行うことができること」
を考えればよいことになります。

Eの「相談・指導業務」は、
社労士法第二十七条の制限業務に含まれていないため、
一民間人であっても、報酬を得て業として行うことができます。

また、
Gの「給与計算」は、
賃金台帳の作成に付随してできる事務であり、
賃金計算自体は
社労士法第二十七条の制限業務に含まれていないため、
同様の扱いとなります。

したがって、
その他社労士も
社労士としてではなく一民間人としてであれば、
報酬を得て業として
「相談・指導」および「給与計算」業務を行うことは可能でしょう。



ただし、
社労士法人は第2条の5業務を行うことを目的としており、
「社会保険労務士法人」という名称を必ず使用しなければならないので、
社労士法人が社労士法人と名乗らないということは論理的にありえない
ことになるので対象外としました。





 

書類
作成

提出
代行

事務
代理

帳簿
作成

相談
指導

裁判
陳述

給与
計算

派遣
事業

開業

×

勤務

×

その他

×

法人

×

×

CはBと同様に
「一民間人が、報酬を得ずに、または業としてではなく行うことができること」
を考えればよいことになります。

社労士法第二十七条は、
社労士以外の者が報酬を得て業として制限業務を行ってはならない
ことを規定しているのであり、
報酬をまったく受けない、または反復継続の意思をまったく持たずに
事務を行う場合は含まれません。

したがって、
社労士であれば誰でもできるFの「裁判所における陳述」を除いて、
一民間人として報酬を得ずに、または業としてでなければ
A〜Eの事務はできることになります。

たとえば、
ある社労士が年金事務所に行った時に、
年金請求書が書けずに困っている赤の他人を見兼ねて、
社労士と名乗りもせずに書類を書いてあげて、
風のように年金事務所を去った・・・
なんいう場合が該当するかもしれません?(倫理的にどうかは別問題。)。


以上より、
今回のお題である
「その他社労士」は何ができるのか?
をまとめるならば、以下のとおり。

@社労士としてお金を貰って仕事としてできるのは、
裁判所での陳述のみ。

A社労士として
100%ボランティアまたは反復継続の意思をまったく持たなければ、
すべての事務を行い得る。

B相談・指導業務のみ、社労士と名乗らず一民間人としてなら
お金を貰って仕事としてできる。

C社労士と名乗らず一民間人として
100%ボランティアまたは反復継続の意思をまったく持たなければ、
裁判所での陳述以外のすべての事務が可能。

D勤務社労士との相違点は、
勤務社労士が、
一般企業の労働社会保険の事務担当者として、
開業社労士事務所や社労士法人の一従業員としてであれば、
社労士として名乗り、1・2号業務を行い得るのに対し、
その他社労士は、
いかなる場合でも、名乗って1・2号業務は行えない点にある。



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