最終更新日:令和7年8月10日


社宅に入居する社員が退職した場合、

ほとんどの会社は、

特別な事情がない限り、遅滞なく退去してほしい

と考えるでしょう。

 

しかし、

社宅の賃貸借契約に借地借家法が適用された場合、

遅滞なく退去してもらえない恐れが生じます。

 

ここでは、

借地借家法の適用を回避するためには、
借上げ社宅の家賃はいくらに設定すべきか?

について、考えてみたいと思います。

 

※ここでは、自社保有社宅は検討の対象外とします。

 

 

<借地借家法とは?>

借地借家法は、その第30条(強行規定)に、

「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」

という規定があることからもわかるように、

家主が店子に合理的な理由もなく退去を強要することがないよう

借家に住む人の生活を守る規定が存在します。

 

同法第27条には、

「建物の賃貸人が賃貸借の解約をしたい場合、
6カ月以上前に解約の申し入れをしなければならない。」

という趣旨の規定があります。

 

社宅の賃貸借契約では、

「退職した場合、遅滞なく社宅を退去すること。」

と規定することが一般的ですが、

社宅の賃貸借契約に借地借家法第30条が適用された場合、

この特約が無効となり、申し入れ後6ヶ月間は退去を求められない

ことになりかねません。

 

 

<借地借家法を回避し得る家賃額は?>

雑誌「ビジネスガイド(令和7年8月号)」の記事によれば、

「・・・裁判例等に照らし、
従業員の負担割合を近隣の賃料相場の
数分の一から半分未満に設定していれば、
通常の賃貸借契約とは異なる特殊な契約と認められ、
借地借家法の適用は及ばないと考えられます。」

ということです。

 

令和4年の人事院の調査によれば、

民間企業の独身用借上げ社宅の全国平均は、

賃料(企業の契約額):64,309円

使用料(従業員の負担額):18,184円

であり、従業員の負担割合は約30%となります。

 

したがって、借地借家法の適用を避け、

退職時は遅滞なく社宅を退去してもらえる使用料は、

賃料の30〜50%程度と考えられます。

 

 

<国家公務員の官舎の家賃は?>

裁判官は、「特別職の国家公務員」なので、

国家機関等が所属する職員のために設置した宿舎である

「官舎」を使用する際には、「国家公務員宿舎法」

が適用されます。

 

とすれば、

「国家公務員宿舎法」に準じて社宅を運営しておけば、

借地借家法第30条が適用される可能性は極めて低い

とカラカマは考えたので「国家公務員宿舎法」を調べてみました。

 

国家公務員が退職した場合、

国家公務員宿舎法第18条の規定により、

20日以内に官舎から出ていかなければなりません。

 

有料宿舎の使用料(≒家賃)は、

国家公務員宿舎法施行令第13条に基づき計算されますが、

独身用官舎の場合、

東京23区でザックリ1.5万円程度、

地方部ではザックリ5千円程度の激安家賃のようです。

 

ちなみに、相当の事由があるとして、

所属する各省各庁の長の承認を受ければ、

無料宿舎であれば最長2カ月まで、

有料宿舎であれば最長6カ月まで、

住み続けることができるとされています。

 

 

<借上げ社宅の家賃はいくらに設定すべきか?>

国家公務員の官舎の使用料程度の社宅家賃であれば

99.9%借地借家法第30条の適用は回避できるでしょうか、

あまりに社宅の使用料が安いと社宅に入居していない社員から

不満が出かねません。

 

だからといって、

社宅に入居していない社員に対して、

定額の均衡手当を支給してしまうと、

労働法上、社宅が現物給与として賃金になりかねないので、

望ましくないでしょう

社宅入居中の社員が育児休業したら、会社の家賃負担はどうすべきか?参照

 

厚生労働大臣が定める現物給与の価額以上であれば、

社会保険料の算定基礎にならないことも考慮すると、

借上げ社宅の家賃はズバリ、

現物給与の価額以上かつ実際の賃料の30%程度が望ましく、

最大でも実際の賃料の50%までと考えます。

 

結論として、

独身⇒居室の広さが8畳の借り上げ社宅であれば、

●東京都の場合
・現物給与の価格:2,830円×8畳=22,640円
・賃料の相場:10万円程度(日経新聞の記事)
⇒23,000円〜30,000円程度

●千葉県の場合
・現物給与の価格:1,760円×8畳=14,080円
・賃料の相場:6万円程度(AIのGenimi調べ)
⇒15,000円〜18,000円程度

●横浜市の場合
・現物給与の価格:2,150円×8畳=17,200円
・賃料の相場:8万円程度(AIのGenimi調べ)
⇒18,000円〜24,000円程度

 

この程度の社宅家賃であれば、

借地借家法第30条は適用されず、

社員が退職した際は遅滞なく社宅を退去いただいても

問題ないと考えます。

 

 

余談ですが、所得税の場合は、

賃貸料相当額(次の1.から3.の合計額)の

50%以上の社宅家賃であれば、非課税になりますが、

異様に計算が面倒くさいです。

 

1.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント

2.12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))

3.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント




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